その145 クロードの相談
いやぁ~、危ない賭けだったな。
まぁ、俺が魔族に変わった時に【看破】で悪意を見たから平然と進められたけど、ディックの殺気が消えなかったら本当に危なかった。
二人の血を吸うハメになっていた。うん。
しっかし、まさかニコルがあそこまで交渉上手とは思わなかった。
俺はギルドの外に出ると、ニコルは俺の横をすっと通り過ぎながら言った。
「ではミケラルドさん、楽しみにしています……オプション♪」
鼻腔をくすぐるフローラルで甘い香りと、見事な色彩の声。
ぬぅ……あなどり難し、ニコル。ファンが多いのにミナジリ領に来ちゃっていいのかしら?
まぁ、ディックも許可してたしいいだろう。
それに、オプションの件もある。
ニコルのオプション……それは、ミケラルド商店の転移魔法利用権。
ニコル程のオシャンティな女性だ。都会の商店でのショッピングは欠かせないのだろう。
それを条件に、ニコルはミナジリ領の冒険者ギルドで働く事を承諾した。
気付いてるとは思ったが、ピンポイントで言って来るとは思わなかった。
やはり人間とは恐ろしきものだ。彼らの知恵は正に、生へ通じている。
おじさんも負けてられないところだ。
そんなニコルの背中を見送った俺は、精神的な疲れのせいか小腹が空いていたので、深夜までやっている店で軽めの食事をとってから帰った。
「あ、店長。お疲れ様です」
「あれクロードさん、まだいたんですか?」
首都リーガルの四号店に戻ると、そこにはクロードが待っていた。
既に店が閉じ、かなりの時間が経っている。何しろ俺が真夜中に取り調べを受けていたのだ。スタッフがここに残っているのに疑問を覚えるのは当然だろう。
店に鍵を掛けたら転移魔法でクロード家に戻る。かつての大がかりな鍵こそないが、ドマーク商会では強力な鍵のマジックアイテムが売っていたので、最近はその鍵だけで済んでいる。そもそも店の在庫は皆の【闇空間】の中になったのだ。鍵を掛ける必要性はあまりない。
まぁ、転移魔法の
バレる事はないと思うけど、一々気にするレベルでもない。マッキリーの店舗で寝泊まりしてるカミナに関しては不安だが、彼女の実力はランクBに近い。それ以上の実力者が泥棒になるとは考えにくいし、気にする程でもないだろう。
「おや、もうそんな時間でしたか?」
「もう深夜一時ですよ」
「来週の新聞が完成しそうなので、今夜中に書き上げてしまおうと思いまして」
「あぁ、そういえばシェルフの事を書くとか言ってましたね。俺は明日シェルフに向かうつもりですよ」
「そうなのですか?」
「ほら、ダークマーダラーの犯人たちを護送しないといけませんから」
「護送……ですか。ミケラルドさんなら一日と掛からずシェルフに着くのでしょうね」
「良い読みですね。でも、バルトさんに頼んで、今回の移動を最後にしますよ」
「というと……シェルフにもテレポートポイントを?」
「えぇ、時期的に悪くないと考えています。ミケラルド商店五号店が見えてきましたよ」
「その事についてご相談がありまして」
「もしかして反対だとか……?」
「いえいえ、大賛成ですよ。そういう相談じゃないです」
クロードは苦笑して俺の疑問を否定する。
はて? じゃあ何だろう。
「シェルフが争いの少ない平和な国だという事はご存知でしょう?」
「まぁ、兵の質が悪いってバルトさんも言ってましたからね」
「それって裏を返すと、ダンジョン産の武具や
な・る・ほ・ど。
バルトに
ここリーガル国なら恒久的に見れば少ない数だが、シェルフでは瞬間最大風速の限界かもしれない。つまり、これ以上
冒険者はいるだろうが、武具の類はバルト商会も用意しているだろう。
「という事は、シェルフで売る商品は選ばなくちゃいけない」
「そういう事です。そのご相談をしたかったのです」
「クロードさん大好き!」
「えぇ!?」
「いやぁ気付きませんでした。そういうのはやっぱりシェルフに住んでた方に聞くのが一番ですね!」
「あ、ありがとうございます」
クロードの感性というより商才に脱帽だ。
確かに土地柄というものもある。需要のある商品を予め考えておく事は悪い事じゃない。
「けど、どんな商品がいいんでしょう」
「【聖水】や【聖薬草】は需要があると思います。同盟が結ばれればエルフと人間の往来も増えますから」
「ふむふむ、それ以外だと何でしょう?」
「日用品や食材でしょうか」
「自給自足でやっとのミナジリ領では、現状食材は難しいですね」
「となると日用品……ですか。何か革新的なものがあればいいのですが……」
「……じゃあ地球の力を借りる、か」
「チキュウ……ですか?」
「あぁいやこっちの話です。ありがとうございます。参考になりました」
「はい、それでは書き上がったので先に休ませてもらいます」
「はい、お休みなさーい!」
さて、試作品でも作ってみるかな。
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