その79 ミケラルドの質問
リィたんの話では、過去地龍がよくいた場所をくまなく探したが、見つからなかったそうだ。詳しい話を聞いてみると、ほぼ野生児のような生活をし、森や山、密林や谷にまで行ってくれたらしい。それに服もこんなボロボロで。だから俺はそれ以上言う事など出来る訳がなかった。
まぁ、当のリィたんは元々野生だし、ケロっとした表情だったけどな。
「さぁ、ミック! 私は罰ゲームを消化できなかったのだ! 次なる試練を!」
あぁ、そういえばこれ罰ゲームって設定だったな。
「大丈夫だよ。今度
「む? そ、そうか?」
「何もそんな急ぎでもないしね。早ければよかったかもしれないけど、それが出来ない訳じゃない。ゆっくりやるのも一つの手だよ、リィたん」
「おぉ! ミックの天寿のために私は頑張るぞ!」
だめ、この子、健気過ぎて泣ける。
とても良い仲間を持ったなぁと思いつつ、俺はリィたんに今後の方針について説明した。
「ほぉ、エルフを?」
「そ、人間はエルフを嫌ってる……というと語弊があるけど、やっぱり自分たちと違う存在は排除しようとする傾向にある。それをどうにかして払拭したい」
「作戦はあるのか?」
「一応ね。そのためには、ちょっとリィたんの昔話を聞きたいんだ」
「私の?」
リィたんは突然の話に驚いたのか目を丸くさせた。
「出来れば、魔王の時代の話が聞きたいなーなんて」
直後、その丸い目はぎろりと鋭いものに変わる。
「何を考えている、ミック」
「そう睨まないでよ。魔王が使ってた魔法や、その時代の魔法使いが使ってた魔法について聞きたいだけだよ」
「魔法……つまり、今後使いたい魔法があるという事か」
「さすがリィたん、話が早い」
「回りくどいのは嫌いだ。どんな魔法だ?」
「転移魔法」
俺は人差し指を立て、にこりと笑いながらリィたんに言った。
するとリィたんは腕を組みながらソファの背もたれに背中を預けた。
天井を見上げ、目を瞑り、当時の時代の事を思い出している様子だ。
「転移魔法の……何が知りたい?」
「まず、存在するのか知りたい。まぁ、その反応を見ればわかるけどね」
「当然だ、私たちがよく出入りするダンジョンには転移装置があるだろう」
そう、だから俺も聞いた。確認のために。
「次に、転移魔法を使えた者の存在」
「まったく、何が知りたいんだ? 読めないな」
「教えてくれたらわかるさ」
俺の曖昧な説明に納得は見せないものの、リィたんは鼻息を吐いて教えてくれた。
「……魔王は使えた。そして会った事はないが、
「使用出来た魔法の種類は?」
「無論、全てだ。ミックと同じようにな」
流石、魔王と賢者。
だが、それではダメなんだ。もうちょっと詳しく聞いておきたい。
「他には? 使える存在いなかった?」
「何? 一体どういう事――――いや、待て。確か霊龍も使えたな?」
「おー、あのリィたんより上位の存在か。それで、霊龍はどの魔法を使えたの?」
その質問で、リィたんは一度ピタリと止まってしまう。
「……霊龍を倒すという訳ではないようだな」
なるほど、同族の心配か。
意外に優しいところあるよな、リィたん。
「倒さないよ。それに、体液もなさそうだからね」
「はぁ、光魔法と闇魔法だ。こんなので一体何をしたいというんだ、お前は? ――っ! ……ミック?」
「ん? あぁ、いいね。ありがとう。どうしたのリィたん?」
俺が変化に気付いた時、リィたんはテーブルから身を乗り出して俺を見ていた。
まるで、俺の心配をするかのように。
「い、いや、無事ならいいんだ」
「無事? まぁいいや。これで転移魔法に関する情報はかなり集まったな」
「どういう事だ? 教えても全然わからないぞ?」
小首を傾げるリィたん。
確かにこれだけの情報では行き詰まってしまうか。
そう思い、俺はリィたんに補足するように言った。
「何で? 少なくとも転移魔法が光魔法か闇魔法、もしくはその二つの複合魔法だって事はわかったじゃん」
「っ! そうか、魔法の分類か!」
「そういう事。欲しい魔法がある場合、俺なら血を吸えばいいかもしれないけど、その対象が明らかに強者だったり、既に存在しない存在だったりしたら、絶対に得られない。けど、その考察は出来る。本当は一つに絞りたかったけど、二つでも十分収獲さ。ちょっと手伝ってよ、リィたん」
俺が外を指差しながら言うと、リィたんは少しだけ嬉しそうな顔で俺を見た。
そして、俺が歩く方に先回りしてドアを開ける。
「さぁミック! さっさと行くぞ! 新たなる境地が私を待っている! さぁ! さぁ!」
リィたんは好奇心溢れる様子で俺の手を引き、それを見送るカミナがちょっとだけ羨ましそうだ。これは一体何故なのか。
さて、まずは転移魔法の考察だ。もし、転移魔法を完成させる事が出来れば、俺の計画は更なる前進をする事が出来る。
何にせよ、俺にとって世界は、どんどん楽しくなっている事は確かだった。
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