その56 ドマーク商会
「やぁ助かったよ。君がランクA冒険者のミケラルド君だね? 若いのに優秀だって聞いたよ」
恰幅のいい人の良さそうな中年の男。
それが護衛依頼を出したドマーク商会のドマークという男だ。
ネムの話だと、ドマーク商会はリーガル国でマジックアイテムを多く扱っているそうだ。
俺がこの依頼を受けた理由としては、商会とのコネを作りたかったというのもある。しかし、マジックアイテムを扱うというのは依頼を受けた後に知った事。
おそらくネムが切り札として用意していた情報だろう。
だが、その前に受けたから、おまけ感覚でネムが教えてくれたのだろう。
「初めまして、ミケラルドです。道中、よろしくお願いします」
「うん、よろしく頼むよ。先頭の御者台に乗ってくれたまえ」
「はい」
馬車は三台。
全て御者が乗り、二頭の馬が引いている。
中央の馬車にドマークが乗ると共に、出発の合図が聞こえた。
マッキリーまでは、今の俺が走れば数十分。馬車ならば五、六時間というところだ。
勿論、普通に走れば……だ。
馬に対してヘルメスの靴をかければ、時間は三時間程に縮まる。
その速度故か、俺たち一行は
途中、休憩を予定していたらしいが、ドマークは馬の速度に気を良くし、そのまま走り続けたのが功を奏したようだ。
「お疲れさん。頑張ったなー、お前たちー」
「「ぶるるるるっ」」
マッキリーの町の入口で、馬たちをひと撫でし労う。
そんな俺の背後からドマークが嬉しそうに声を掛けた。
「いやー、ありがとうミケラルド君! 君のおかげで安心してマッキリーに着く事が出来たよ」
どうやらしっかりとした商人のようだな。
せこい商人であれば、モンスターが出なかったからと、ここで値切るところだが、ドマークは違った。
安心は買おうと思っても買えるものでもないからな。
目に見えるものだけにお金を使うのは、商人として甘いと思っている。
これからは安心も売れる時代にしたいものだ。
「是非、またお願いしたいね!」
「勿論です。また困ったらお声掛けください」
「うむ、これが依頼完了書だ。ギルドで渡すといい」
「ありがとうございます。そういえば、マッキリーには何故?」
「あぁ、マッキリーにはダンジョンがあるだろう? そこで貴重品を仕入れた冒険者は大抵マッキリーで売る。マッキリーにはその貴重品で溢れ、どうしても在庫が嵩張ってしまう。それをシェンドの町のような町にも分けているんだ。今回はその帰りだね。売上金の回収と共に、シェンドの町からも木材の輸送さ。あっちには山が多いから良質の木材も多いしね」
無駄が少ないな。流石リーガル国で有名な商人だけはある。
行きも帰りも手ぶらにしないのは、商人の基本だよな。
「そうだ、これを君にあげよう」
「……これは?」
それは、紙を丸めた巻物のようなものだった。
「それはマジックスクロールといってね。魔法を封じて使う事が出来るんだ。攻撃魔法のような強いものは、スクロール自体が持たなくてすぐに効果が消えてしまうけど、補助魔法なんかは魔力を込めるだけで何回も使えるよ。といっても、攻撃魔法に使う人が多いけどね、はははは」
「おぉ! そんな貴重品をっ」
「いやいや、錬金術師が紙に魔力を込めるだけで出来るものだからね。そこまで値が張るものではないよ」
へぇ、こういったものまであるとなると、商売の幅が広がりそうだ。
「私の店でも扱っているからね。もっと欲しければいつでもリーガルにおいで。勿論、お代はいただくからね?」
「ははは、それじゃあ是非今度行かせて頂きます」
「はっはっはっは! 楽しみにしてるよ。それじゃあね!」
そう言って、ドマークは馬車を率いて町の中に入って行った。
さて、街道に出るっていうモンスターを倒しに戻ろう。
出来ればドマーク商会の護衛中に出てきてほしかったが、世の中そんなに都合よくいかないよな。
そう思い、街道を引き返してシェンドの町に向かっていると、どこかで見た顔が街道を歩いていた。
「「あ」」
声こそ被ってしまったが、俺の声は落胆と後悔の色に染まっていた。そして何故かあちらは……喜んでいたようだった。
「ミケラルド様っ!」
一瞬で詰め寄り、眼下からキラキラとした目をこちらに向けてくる――冒険者。
「や、やぁカミナ、久しぶりだね……」
「お久しぶりです! あ、いや、そうじゃありません! ミケラルド様!」
「はい、なんでしょう……?」
「ついに
そうか、マッキリーの町を根城にしているカミナは、まだ俺がランクAになったという事を知らないのか。
うーん、後で追及されても面倒だし、ここで説明しておくか。
「あー、実はもうランクAなんだよね」
「へ? ……はぁ!?」
凄い。美人がこれだけ口を開けるのも珍しい。そう思える程には、カミナは驚いてくれていた。
「今はランクBの依頼でね。この街道に出るモンスターの討伐に来たんだよ」
「ほ、本当にミケラルド様が……ランクAに?」
「うん。あ、でも、今は無理だけど、今度、気軽に冒険に誘ってね」
「は、はい!」
快活な返事を返したカミナと別れ、俺は更に街道を奥に進んだ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
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