その48 リーガル国の闇

 シュバイツがチャックを殺した犯人だとしたら、全てが繋がる。

 ジェイルと共に開拓地に行った、チャックの仲間の盗賊にテレパシーで聞いてみても、シュバイツに繋がる情報はなかった。

 だが、チャックだけが知っていたとなれば、繋がるんだ。

 何を知っていたか。

 それはつまり、レティシアの誘拐。

 レティシアを攫ったのはチャック率いる盗賊団。しかし、それを依頼した人間がいたならば……シェンドの西を根城にする盗賊団が、わざわざこのリーガルまで来てレティシアを攫った理由が、何となくわかる。

 何よりレティシアの反応だ。

 父親が怖いのはわかるが、シュバイツへのあの反応は、他では見なかった。冒険者ギルドには他にも強面がいたのに、シュバイツにだけ恐れを抱いていた。

 あれが何よりの証拠だ――とは言えないが、シュバイツを調べる理由にはなる。


「さて、行くかな」


 レストランから出た俺は、探知と嗅魔を使い、シュバイツのいる場所を特定した。

 それは、意外にもサマリア侯爵家の近くだった。

 より王城に近い大きな屋敷。そこにシュバイツの反応はあった。

 だが、待てども待てどもシュバイツが出て来る気配はなかったのだ。


 侵入する他ないか。そう思い、【擬態】と【隠形】、そして【身体能力向上】、【身体能力超向上】を使い、侵入を試みる。

 探知範囲に脅威となる魔力は見つからないので、そこまでする必要はないと思うが、これも依頼のため。レティシアのため。そしてなにより侯爵家との繋がりを持つためだ。

 と、思っていたが、この大きな屋敷、、、、、に侵入した事で、俺はリーガル国の闇にも侵入していたのだ。

 警備が手薄だった屋敷内で色々調べていると、ある事がわかった。


 …………ここ、侯爵家ならぬ公爵家だね。


 とある書斎の書類を覗いたら、サインを見つけた。

 サインには『アルフレド・フォン・リーガル』という名前が書かれていた。

 侯爵家は王族以外の貴族最高位。

 そして公爵家は……王に連なる貴族。中には物凄い武勲とか立てれば、王族じゃなくても公爵になれるって話もあるが、サインを見る限り、男。王の兄か、弟か、息子か、甥か。まぁそんなところだろう。

 しかし、段々と話がキナ臭くなってきたな。

 この国のまつりごとも、上手くいっているとは限らないようだ。

 シュバイツに命じたのが公爵家だとしたら、サマリア侯爵家を恨んでいる、もしくは邪魔だと思っている連中って事だ。

 でも何故レティシアを狙ったんだろう。それも気になるところだ。


「この地下か」


 地下には二つの反応。

 一つはシュバイツ。もう一つは知らない魔力だ。しかし、シュバイツ以下の魔力量だという事は、そう困る事でもないか。


「鉄の臭い……?」


 血の臭いじゃない。ちゃんと鉄と錆と、そしてちょっとした悪臭。

 もしかしてこの先は地下牢なのか?

 ゆっくり降りて行くと、やはり地下牢があった。

 そこには見張りの兵士と、檻に入れられたシュバイツ。

 なるほど、公爵家が先にシュバイツの口封じに動いたか。

 兵士を倒しても、牢の中にいるシュバイツが騒ぐと困る。

 しかし、鍵を開けるまでにシュバイツは大声をあげる事だろう。

 ならば――――ぶっつけ本番だが、新魔法を試してみるか。


「むん」


 闇色に染まる俺の手から、怪しげな煙が放出される。

 催眠ガスならぬ【催眠スモッグ】だ。

 これが上手くいけば、二人ともぐっすり寝てくれるはずなんだけど…………どうだ?


「お、寝た寝た」


 俺はすぐに睡眠中の兵士の腕から血を頂き、鍵を頂き、牢を空ける。

 眠ったシュバイツの腕からも血を頂き、【呪縛】を使って起こす。


「聞きたい事がある。レティシア誘拐の事件についてだ。お前は何を知っている?」

「……アルフレド様より命を受け、金で盗賊を雇ってレティシア様を誘拐させました」

「何故レティシアを狙った?」

「知りません」

「お前の見返りは何だ?」

「アルフレド様が王となった際、伯爵に取り立ててくれると約束してくれました」


 シュバイツは平民の出身だとマックスが言っていた。

 その平民が伯爵にでもなれば大出世だな。


「アルフレドとは何者だ?」

「陛下の弟君です」

「リーガル王に子息はいるのか?」

「います」


 うーん、相当深いところまできてしまった。

 しかし、これでようやくわかってきたな。

 アルフレドっていう公爵が、兄が座る王座を狙っている訳だ。

 レティシアを狙った理由がわからないままだが、こりゃ結構大事だな。


「で、お前は何故檻に入れられている?」

「任務に失敗したからです」

「このままではどうなる?」

「事故死に見せかけられ殺されるでしょう」


 確かに、騎士の称号を持つ貴族が殺されたとなれば一大事だが、事故死ならば、事件性がなくなりシュバイツの死を訝しむ者もいないだろう。

 だから殺さずに牢屋にいるのか。

 おや……?


「……っ……っっ」


【呪縛】の状態にあっても、シュバイツの身体は震えていた。

 なるほど、死が迫っている事を、身体が理解しているのか。

 次は見張りの方か。


「起きろ」

「……はい」

「ここからシュバイツが消えたらお前はどうなる?」

「おそらく、殺されます」

「家族はいるか?」

「いません」

「シュバイツ、お前に家族はいるか?」

「いません」


 ……なるほど、アルフレドって奴は、相当頭が回るようだな。

 天涯孤独の身である人間を集め、手駒としてる。

 言い方は悪いが、いつでも替えがきくという訳だ。

 平民であれば、誰も死を気にしない。


「……仕方ない。助けてやる」

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