074:武闘会予選

 予選がスタートした。日本全国の迷宮毎に激闘が繰り広げられている様だ。


 ちなみに残念ながら、甲田さん、的場さんは池袋迷宮の予選で敗退してしまった。ちょっと考えが甘かった。だってよく考えれば、今回の大会はとんでもないコトになっていたのだ。


 本戦出場は近距離戦16名、遠距離戦16名。トータル32名。現在、迷宮局の資料によれば、探索者免許所持者は全国で約50万人。実際に稼働している、アクティブな人が、その半分の25万人と言われている。


 今回、おおよその参加者はそのまま、約25万人と発表された。え? マジデ? 全員?……つまり、探索者として活動しているような人は全員参加したらしい。多いて!


 ちなみに、迷宮局で予想していた参加者数は、約五万人だったそうだ。それにはそれで理由があるらしいが。まあ、大ハズレだ。


 つまり、本戦出場は二十五万分の32の確率といえる。


 別に二人に実力がないとは思わない。正直、「スカウト」と「守護者」というジョブ限定の特殊バトル(時間内に敵を何体発見出来たか? とか、敵の猛攻にどれだけ耐えられるか?)であれば本戦決勝で戦えるレベルだと思う。


 が、勝ち抜き戦である以上、ここまで分母が多いと勝敗は対戦相手に大きく左右される。


 まあ、更にはっきり言って相性の悪い敵と当たってしまった。


 そもそもスカウトは不意打ち、奇襲が基本戦略で、こういう「今から攻撃しますよ?」っていう戦いには向いてない。

 守護者は防御は出来ても、決め手が無ければ少しずつ削られていく。魔術による回復手段も無いわけなので、時間無制限の今回のルールだと、ダメ蓄積による敗北ご確定してしまう。


 因みに、甲田さんは鉄鞭使いの全方位攻撃&防御に為す術無く絡め取られ、的場さんは薙刀使いに時間をかけて、チクチクやられてしまった。


 アドバイスも何も、仕方ないので何も言えない。


 なんだ、全体的なレベルを上げて、自力を上げていくしかないだろう。部門別なら〜というのは、判って参加したのだから、言い訳にしかならないわけで。

 

 そんな中、本戦予選を遠距離戦部門で「キラキラ」ヨスヤが勝ち抜いていた。さすがだ。まあ、あれだけ実用的な技が使えれば当然か。彼女はスカウトの能力よりも、アタッカーの能力の方が高い様だし。森の中での戦闘なんて……独壇場だな。

 決勝まで行ってくれると盛り上がりそうだ。見た目の悪い出場者より、見た目の良い出場者の方が受けが良いのは間違いない。


 あ。予選は、武器は全て刃落ち。矢はペイント矢。トドメの一撃は寸止め、ギブアップ制で意識を失う、身動き出来なくなると負けとなる。

 近距離戦はともかく、遠距離戦は致命の一撃の度合いの見極めが難しいらしく、多くの審判が見守る中での試合となった様だ。まあ、現時点では魔術士は、数が少なく、実力者とソウで無い者がハッキリ分かりやすい。発動直後に勝負アリでキャンセルをかけることでどうにか進行しているらしい。とりあえず事故は起きていないので大丈夫だろう。


 審判の多くは討伐隊員で大忙しである。自分的にはいい気味だ。


 結局、予選には2カ月以上かかるようだ。迷宮局も、ここまで多くの探索者が参加するとは思っていなかったらしく、本戦の日取りの発表の際に「本当は本戦開催を年末を予定していた。計算違いをお詫びします」という、謝罪会見まで行われた。

 優勝賞品が、一億円と、級上げという比較的地味なものだったのも計算違いの一部だ。トップランクの探索者にとって、一億円は、はした金でしかない。

 一般人ならともかく、常日頃、命懸けで戦っている探索者に、この手の娯楽、見世物的な催しは受け容れがたいのではないか? という意見も根強かったらしい。


 が。蓋を開けてみれば、大盛況どころか、トップランクの探索者ほど参加率は高くなっている。


 そう。多くの探索者が、闇ランクではなく、公式に認定された実力によるランキングを求めていたのである。というか、探索者なんてみんな「俺が一番強え」と心の何処かで思っているのだ。


 ある程度、命の保証がなされたこんな機会はそう有り得ない。


 簡単に言えば。探索者の多くが程度は違えど戦闘中毒者バトルジャンキーだったということだ。


 さらに今回は、普通に考えればこういう催し物に参加しない、非バトル系、研究系の探索者も多く参加していた。


 未だ一般には正体があやふやでキチンとした立場を得られてない数少ない「魔術士」系の探索者だ。特に遠距離戦はそのためのルールということで、盛り上がっている。


 魔術とはこういう事だ! という自分の研究、訓練、練習の成果を大々的にぶちかましたいのだろう。うん、気持ちは判る。


 さらに、一部の高ランクの「魔術士」にはなんとなく、本戦は全世界に生放送、生配信されるという事が伝わっている。

 でなければ、「張角」「記録者」といった既に成功し、十分な対価を得て、伝説と成りつつある者たちが表に出てくる事は無かったはずだ。


 彼らは魔術士として、魔術の凄さ、素晴らしさを少しでも若い次世代に伝えたい、普及させたいと常々思っていたのだろう。


 それこそ、「張角」一門は「初心者探索者のための魔術講座」を実費のみで開催している。自分、あるいは自分の仲間以外はライバルでしかない業界で、ノウハウの流出は敵に塩を送る以上のボランティアだ。この講座で魔術に目覚めた探索者は非常に多いという。


「記録者」、うちの大学の逢坂教授は、迷宮学だけでなく、魔術も学術的な検証を行い権威付けに尽力されている。彼女の講座、ゼミで学び、研究結果を小論文として提出し合い、検証。フィールドワークとして迷宮に潜っている研究者も非常に多い。


 最澄、空海が命を賭して仏教の教えを説いたように、探索者は探索に賭けている。特に現在の魔術士は布教魔術に賭けているふしがある。

 仏の何たるかを理解しようと修行するのと、魔力を解析、分解、理解してさらに行使するのは、志は変わらないだろう。


 だが、布教として考えるとやり甲斐があり過ぎて、中途半端になりそうで怖くなっているかもしれない。それが一瞬で埋まる可能性があるのだ。派手な呪文を行使している所を映像に収めて、TVやネットで配信されれば。バカにでも分かる。PV数世界記録更新の可能性があることが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます