070:問題の多い料理人

 人が増えてきた、と、同時に、早急に考えないといけない案件が明確になってきた。


(料理人だな)

(え? まず最初に、ですか?)

(うん、だってさ、共有部分の掃除は、母屋で頼んでいるうちの弟子絡みの業者の人が、一緒にやってくれるそうだから問題無いじゃん? そうなると次は食事。甲田さんと的場さんなら、基本外食でも良かったけど。お漏らし増えたしなー。あと、さらに、ここの厨房、無駄にお金掛かってるからさ、使わないの勿体ないじゃん)

(ちなみに、何故、厨房がこのように本格的に? 正直、我が主君マイロードのご意向だと思っていたのですが)

(これも、ばあちゃんの御命令である)

(はっ畏まりました)

(あのーデザートとか作れなくても良いですか?)

(ん?)

(料理人ッス)


 それにしても、男三人が食堂でコーヒー飲みながら、パーティ会話という念話で話をする……ムチャクチャシュールだな。この絵面。


(デザートは……買ってくればいいんじゃないのかな? 女子増えないよね? 多分。というか、人をいきなりそんなに増やすのはどうかと思うんだけど)

(その通りですね。女子は……多分……あれ以来、泰代も何も言ってきませんし)

(あ、泰代は忙しいみたいですよ? なんか)

(なら、やっぱ、事務所の人に説得されたのかな? うん、めでたしめでたし)

(あ、それで料理人なんですが)

(うんうん)



「よろしく御願いします」

我が主君マイロード、俺と、泰代の叔父、母親の弟の……的場晃司さんです」

「二人の両親が大氾濫で亡くなった時に引き取ってくれたのが晃司さんです」


 甲田さんがほぼ、頷くだけでいいように会話を足してくれる。ありがたい。


「晃司さん、略歴を説明してもよろしいですか?」

「ああ、頼む。進次郎の方が客観的に伝えられるだろう。事実を言っていい」

「はい。先ほど言ったとおり。宗一たち二人は他に身寄りが無かったため、別々に児童養護施設に預けられる所でした。が、晃司さんが高校を辞めて食堂を継ぎ、二人を引き取りました。晃司さんの御両親……宗一の叔父夫婦も、大氾濫絡みで、宗一の御両親と一緒にお亡くなりになっています」


 同時期に一族で亡くなるっていうのはよくあることだ。どうしても同じ場所に居ることが多いからね。血縁者は。


「食堂はギリギリの経営でしたが……ここ数年で何とか軌道に乗り始めた所で、店に車が突っ込んで店がおじゃん。怪我をした晃司さんのリハビリが終わって、店の開店資金をどうしようか? 自分と宗一の貯金の残りを使ってもらうか……と揉めているところでこないだの宗一の入院です。もう、四の五の言っていられないというコトで使おうとしていた私の資産も、晃司さんに断られ続けていまして。正直現状途方に暮れていた所です」


 年齢は三十前後。スカジャンにデニムときて、ガテン系の四角い顔とでも言えば良いのだろうか? 体格は大きくもなく小さくともなく。身長は175センチ弱だろうか。


「まずは礼を言わせてもらおう。宗一を救ってくれてありがとう。あれ以上病院にいたら、請求される治療費で生きていても地獄状態だった。ヘタすれば泰代が危ない橋を渡っていたかもしれん。良く判らんが、宗一の症状を治療してくれたのはお坊っちゃんなんだろう? ああ、マイロードだっけな?」

「呼び方は何でも良いそうです」

「んじゃ坊ちゃん……か、靖人様か。坊ちゃんはそろそろ年頃的に嫌だろうから、靖人様か」


 まあ、お漏らしもそんなんだったしな。別に構わない。


「晃司さんが悪いのか、それとも俺の運のせいなのか、実はあの店は厄介事が絶えなかった。なので、素直に店を再建するかどうかで揉めてたんだ」

「正直立地はいいから、駐車場の方が実入りも良いってのも……な」

 

 皮肉。という顔。似合うな。この人、的場さん、ヨスヤという美形の家系だけ会って、よく見るとカッコイイ系だ。隠れてモテるタイプというか。


「晃司さんには宗一たちだけでなく、私や、私の施設仲間も返せない恩があります。経済的に一番厳しく、苦しい時期にあの店で賄われた定食、丼。その一食が、頼る者の無い我々を、どれだけ力付けてくれたことか」

「当たり前の事をしただけだ。腹を空かせた子供に飯を食わせたのを、いちいち感謝されちゃ、そもそも、その当時に振る舞ってたのは親父だ。俺が特別なわけじゃねぇよ、そんなんで威張ってちゃ親父に怒られる」


 いやいや特別だろう? そんなの。


「先立つものが無い以上、店は諦める。こだわる事は無いからな」

「と、まあ、こんな感じです。そこにいきなり我が主君マイロードが料理人がとおっしゃったので、もしや、ご存知で……と疑うほどでした。宗一が言わなかったら、私が推薦していたかと」


(んじゃ、採用で。住むとこに拘りが無いのなら、住み込みで)


「え?」

「よろしいのですか?」


(うちの筆頭社員、二人のお墨付きだからね)


「はっ。晃司さん、いつから働けますか?」

「何時でも。身体の調子はもう大分いいんだ。何よりも迷宮産の食材を扱える……んだよな?」


(ん? まあ、うん、売らずに持ち出せる……食材とかはあると思うけど……)

(あ。す、すいません、晃司さんの悪い癖が)


「あ、それはちょっと……」

「こーちゃん、実験はしない方向で……」


(実験?)

(好きなんです……晃司さん……未知の食材を組み合わせるとか、未知の香辛料を……とか)

(あ~食べるのも実験になるのか)

(はい……)


「その辺は、まあ……では、今日からでも御願いします。とのことです。部屋に案内しますよ」


 おもむろに頷く。なんだか甲田さんの方が嬉しそうだ。


(あ。待って。「治癒」)


 念のため晃司さんを治療しておく。本人は「なんとなくポカポカするな」程度の感触のハズだ。


「えー? えーえーえーえー?」


 あ。丁度、食堂に降りてきたお漏らしが、迷宮以外での魔術の行使に初めて遭遇したようだ。念話使えてる以上察せよ……。

 

 説明、面倒くさいな。





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