068:お漏らしパワーレベリング

 東京近郊の迷宮だけで百を超える。現状、日本全土で五百ちょい。世界だとさらに五百、合計で千ちょいといった所だった気がする。確認されている迷宮は。だが。


 彼女のお祖父さんが、お薦めしてくるだけのことはある。と、いうことか。


 出現して以来、パーティ会話によって残念な部分のみが突出してしまったが……記憶、記録に関して、天才的な能力を持っているということなのだろう。なんだっけ、サバンだっけ。こういう人のこと。


(スゴいな)

(ほ、ほめやり、たっ! 抱いて下さい!)


「あ」


 速やかに顔を真っ赤にしたお漏らしは。再度意識を失った。的場さんが慌てて支える。


(気絶するとか、意識を失うって、かなり体に悪いんじゃなかったっけ?)

(悪かったハズです。パーティ会話で恥ずかしい目にあって気絶、失神は聞いた事がありますが、ここまでなのは。大抵は数十秒で意識が戻ります)


 顔色を確認する。ちと暗い。こうして見るとそこそこ可愛いというか、整っている。俺の知っている限り、クラスメートの中でこんなに可愛い御人形さんみたいな娘はいなかったと思う。


 あれだ、つい最近、整っている顔、世界ナンバー10に入るような美人さんを見ちゃってるからだな。まあでも、クラスで一番可愛いレベルではある気がする。そんなレベルの娘、しかもお姉さんに、ステキ、とか抱いてなんて言われて、うれしいという気持ちが真っ先に湧いて来ないのは何故なんだろうか? 


 少なくとも、こんな風に明け透けにアプローチされるのは初めてな訳で。俺が慣れてないからなのかな?


(んー気絶して結構長い時間起きない……最近聞いたような……あ。そうか、彼女、今日既に九も階層を進んでるのか)

(あ)

(それもそうですね。普通10級の探索者はまず、狙いの低階層に行くのに一日。次の日、そこに跳んで、ワンフロアに滞在して、魔物と戦い、帰還……が普通です。それを……8級になるくらいまで繰り返す根性がないと……生き残れません)

(だよね。とはいえー俺らはもうちょい先へ行こうか。彼女抱えて、ボス倒して帰還かな)

(はっ)


 池袋迷宮最初のボスは第11階層のオーク・エランとその仲間たち。名前付きのオークでなぜエランなのかは良く判らない。命名権は最初に討伐踏破した探索者にある。探索者が面倒だって放棄すると、迷宮局の担当者が普遍性の高そうな名前を命名する。

 同時に、ジャイアントバット、ポイズンスライム、ロックノームがランダムで数匹ずつ登場するらしい。通常であれば、ボスエリアに入ると全部が一斉にポップするので、まずはアタッカーが雑魚を倒して~その間、盾がエラン抑え。で、最終的にエランに掛かる……というのが王道だ。


(まあでも、うん。雑魚はやるわ。なので、エランをお願いします)

(イエス、我が主君マイロード

(了解っす)


 ボスエリアに入ったと同時に俺の足元にお漏らしが寝かされる。的場さんは優しいな。背負う下ろすが非常に丁寧だ。優しいイケメンめ。敵だ。


「風刃」


 一つの詠唱の様で、実は複数……多分、十程度重複して詠唱されている。人に判別出来ないレベルで、ずらしているのだ。それでも、詠唱は詠唱。神には届き、具現化する。


 登場した雑魚の要る辺りに鋭い風の刃が乱舞する。


ズブズズズズズズズズ


 血飛沫上げて雑魚が切り刻まれていく。


 えーと。大体15匹適度が一気に片付いた。風刃はそれほど大きな攻撃力は無いが、自由に動かせる、旋回させることが可能なのだ。あとは、魔力が尽きるまで螺旋を描くように放てば、範囲魔術の変わりに使用することができる。


 というか範囲魔術は、範囲を厳密に指定するコツが必要なので、派手な術をあまり使ってこなかった俺には荷が重いのだ。術を放つ訓練をもう少ししないといけないなぁ……と。ちなみに、母さんは呼吸をするかのように範囲魔術を行使する。

 

 雑魚が倒れた向こう側に立つ巨大なオーク。エランって気力とか体力とかそんな意味だっけかな、うーん。なんで? そんな感じに見えな……。 


 って、あ。強化系魔術、多分、「腕力強化」を使った! それによって、オークの巨体が淡い緑の光に包まれる。そうか、これが気力とか、適当にそんな感じに見えたんだな? 強くなるしね。明らかに。


 ということで、避けることを主体にしながら攻撃していた甲田さんに任せても……よかったんだけど。あの腕力は厄介だ。


「風刃」


 目を潰す。瞳に命中させるのは難しいが、さっきと同じ十発くらい放てば、目の周り周辺をズタズタにすることは難しくない。


グアアアア! 


 おう、痛かろう痛かろう。オークのターゲットが俺に移る。が。俺に向かって動き始めた瞬間に、的場さんの「挑発」が発動する。巧い。このタイミングより早いと、多分「挑発」の効果が最大限に引き出せない。


 ターゲットは再び、「守護者」である的場さんに集中する。俺はそのターゲットを奪わないようにワンテンポ置いてから、「治癒」の術を弱ーく発動する。正直、俺の掛けた強化術と彼の技のおかげで、大して体力は減っていないみたいだけど。


 敵のターゲットが盾に固定され、安定したたところで、甲田さんがオークの後ろに回る。そして多分、ギフト「バックスタブ」を発動させた。


ギシュッ! 


 現在甲田さんは短剣と、以前使っていたトンファーを装備している。


 多分、普通に斬りかかったのではかすり傷しか負わせられない短剣による攻撃。だが「バックスタブ」を使ってから、背後から攻撃すれば、効果的な一撃となって、大ダメージを与えられる。甲田さんはさっきからこれしか狙っていない。

 ちなみに、この「バックスタブ」後の一撃は、敵に与えるヘイト(敵の怒り)も少ないという非常に優秀なギフトだ。ヘイトが少ないのでターゲットが盾から動くことも無いのだ。便利。


 うん、このまま任せて、俺は適当に「治癒」の術でも使っていようかな……と思った時、ちょっと離れた脇で横たわっているお漏らしが目に入った。


 うーん。早いほうがいいのか。ボスの体力は異常に多いからなぁ。このままだとあと30分は掛かるだろうし。


(ごめん、やっちゃってもいい?)

(はっ、問題ありません)

(ありがたいっす)


「氷の槍」


 ドラゴン戦で使用したあんな、得体の知れない氷ではなく、通常の魔術で生み出された氷。それを薄く薄くしたカミソリの刃ような氷が20本程度。長さは約一メートル。それが一気に中空に舞い上がる。


 まあ、うん、このまま何もしなくても既にオークに氷の刃が突き刺さるんだけど。甲田さんがポーズは大切だとよく言うので、親指を突き出して……下にひねる。


ザシュザシュザシュザシュザシュ!


 判りやすい音と共に。オークの上半身がハリネズミ状態となり……


ドウン……


 重たい肉の塊が地面へと倒れる。よし。討伐。これでお漏らしも結構なレベルになったはずだ。


 お楽しみのドロップ品は……「オークの肉」のみ。世の中甘くない。

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