060:梁山泊希望

 あの後、真白さんは母さんにボロボロにされたらしい。稽古という名のパワハラ道場で。


 魔力を根こそぎ持って行かれた討伐隊のメンバーと、甲田さんは数日の意識喪失、記憶剥離、剥奪で事無きを得た。症例、病名的には原因不明の気絶だ。迷宮に飲まれて(吸収されて)しまった人はいなかった。というか、魔力塊アイツが存在していた時には迷宮の機能がほぼ停止していた様だ。


(肝心な所で申し訳ありませんでした。御守りせねばならない立場の私が……)

(それを言い始めたら、討伐隊総長も倒れてたんだから、どうにもならなかったよ)

( 巣鴨迷宮は当分閉鎖だそうです。ドラゴンに破壊された以上に、大きな新規階層が出現しているようで)


 まあ、あの迷宮は今、絶賛「新生」中なのだ。火竜を倒した階層、えーと十七階層まではこれまで通り。そこから下が迷宮核によって大改装されているようだ。報告によれば、これまで歩いてきた通路が、いきなり消えるたりするらしい。


 何それ、怖い。文献でちらっと読んだ事があったけど本当にそうなるんだ。


 火竜の売却は迷宮局、というか、母さんに直接行った。ぶっちゃけ新規魔物のため、その価値を正確に算定することは不可能らしく、低めの査定となった。が、素材研究を兼ねて竜の各部位から作成する竜装備のプロト版を無料で回してくれることになっている。

 

 迷宮局の正式名称は「独立公益財団法人 東京都迷宮公社 迷宮局」。その下部組織に当たるのが、「公益財団法人 東京都迷宮公社 東京都迷宮研究所」だ。まあ、ここは……東京都と名前が付いているでのイメージとしては小規模に思えるが、世界最先端の迷宮関連の研究組織。全世界のスパイ機関が狙っていると言われている。所在地も、いや存在すら明かされていない。

 ここでまずは竜の素材を扱えるだけの設備の作成から入るそうだ。竜の素材は竜の素材を使った道具でないと加工出来ない。さらに一部は迷宮内で魔力を用いて行わないと厳しいと思う。


 何だけど、母さんはやはりその辺のアドバイスをしないようだ。あくまで自力でやらせている。大変だなぁ。研究開発陣。二億の素材を丸投げって。俺ならオシッコちびる。


 そう、二億。二億円だ。火竜のお値段は二億円ちょいとなった。うっはー。しかも。これ、税を抜いた分だ。

 日本は探索者優遇税制度を導入している。生命に関わる危険と引き換えの職業のため、探索者の所得税はほとんど無いに等しい。だが、単価が二千万を超える取り引きの場合は別だ。約三割、税金で持って行かれてしまう。


 つまり、迷宮局は約三億で火竜を購入したことになる。


 高いのか安いのか分かんないな。


(まあ、とりあえず、これで、甲田さんに給料も払えるし)

(ありがとうこざいます、ですが、この資金を元に、まずは法人化を済ましてしまいましょう。細かい手続きは私が行いますが、我が君主マイロードにはクラン名をお願い致します)

(……株式会社名ね?)

(そうとも言います)


 ある程度稼いでいる探索者は、個人事業主から、株式会社化、会社役員になる場合が多い。


 会社にすると、生活で必要な資金のほとんどが経費で処理出来るのが大きいが、探索者優遇税制度のおかげでその部分だけなら、実はあまりおいしい訳では無い。


 会社化の最大のメリットは社会保険、厚生年金の他に、探索者保険を経費化できるところにある。


 個人事業主の場合、医療保険は国民健康保険となるが、的場さんの例に漏れず、迷宮での傷病に対する一般診療は尽く原因不明と判断され、保険対象外とされてしまう。

 その場合、諸外国と同じように自己責任で任意保険、個人保険に入ることとなるのだが。個人保険の税控除は迷宮以前のまま、一般的なモノと変わらず、二十万円までだ。探索者用の個人保険なんて大抵、最低でも月に十万円以上かかるのに。


 だが会社組織の場合、社会保険とは別に、保険会社の用意したさらに高額の企業用探索者保険、探索者年金に加入することが出来る。そしてそれらは全て経費扱いとなる。

 当然不公平だという声もたまに上がるが、日本の保険制度に追加に追加を重ねた流れで構築されているため、融通が利かない。 

 とりあえず探索者は高収入者を除いて、税的に凄まじく優遇されているため、文句を言う者が少ないというだけだ。

 

 最初に二億もの資金が手に入ったため、色々出来る! と甲田さんが喜んでいた。俺自身は装備買いたい! としか思って無かったけど。


 とりあえず、会社設立を行うことが決定した。もう、甲田さんと会計士さんに丸投げである。

 

 さらに、じいちゃんから(スゲー安く)長屋を購入することになった。うちの流派の師範代、高弟、食客の居住用に屋敷敷地内に建てられていた長屋。老朽化が進んでいたため、近日取り壊す予定だった。それをまるごと購入し、リフォーム&一部建て替えを行ったのだ。


「お前の元に集う者は、甲田くん以外にも確実に増えるはずじゃ。それは通常の会社ではない、運命のような、戦う者の絆で結ばれた関係となるだろう。そうなると、場が絶対に必要になる。ここを貴様らの梁山泊とするが良かろう!」


 じいちゃんが暴走した結果だ。梁山泊て。……まあ、好きなんだよね。そういうの。判るけどさ。実際自分が宗家だった時の御厨流の総本山がここだったわけで。当時はニギヤカだったみたいだから……。

 でもなぁ……「水滸伝」みたいにこの家の場所に集え! とかやるわけじゃないんだから、こんなに沢山の部屋のある社屋兼社員寮は必要無いと思うんだけどなぁ。……まあ、とんでもなくお安い(ほぼ経費)ので文句は無いけどね。


 長屋に積み付いていた、師範代の山県さん、夜辺やべさん、高弟の三崎さんはじいちゃん、ばあちゃん、俺と一緒の母屋に引っ越した。御隠居様(じいちゃん)と同じ屋根の下など……と恐縮しきりだったが、母屋はいつでも風呂には入れるし、道場、駐車場も近いしでこの屋敷の中で一番暮らしやすいのだ。まあ、長屋がイマイチ遠かったってだけなんだけどね。


 甲田さんの知り合いの工務店さんにお願いして、これまた格安であっという間にリフォームが行われた。んーなんだろう。あれか、学校の部室校舎……かな。コンクリ剥き出しの無骨な建物はそのまま、補強や耐震構造を組み込んで、さらに、床や壁も塗り直した。


 最終的には二階建ての無骨な外見の倉庫? の様な建物が完成していた。地下には倉庫も作ってもらったしな。


 装備の確認とか、訓練なんかには道場があるし、スペースが必要なら、裏庭、裏山に荒れ地状態の開けた(石や岩は点在するが、サッカーフィールドくらい取れる)土地もある。演習とかすることがあったとしても十分だろう。


 20畳程度の食堂兼ミーティングルーム、業務用のキッチン。司令室(何それ?)、資料室、8畳のワンルーム(シャワー&トイレ付き)×五。6畳のワンルーム(シャワー&トイレ付き)が八。男女別の風呂(母屋の温泉を流用)、ランドリールームも用意した。さらになんと! 全室クーラーと冷蔵庫を完備! うん。これは何なんだろうと……どうしたいんだろう……と思ったら、いつの間にか社長室ならぬ、宗主室も用意されていた。


 要らないと言うか……自分の部屋との行き来が面倒なんですけど……。

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