058:ラルファ・マズルグンド⑤

「空の術……空間系魔術を極めた者を、取るに足らない、恥ずかしい、騎士であるまじきなどと、蔑んでいるとは本当に情けない」


「戦闘、いや、戦場の勝敗は大前提部分の九割、兵站で決定する。事前にどこから準備するかで話は変わるのだろうが、もしも、ほぼ同装備、ほぼ同数の軍隊がぶつかった場合、補給が行われる側と、度々途絶える側、戦えるのはどちらか、どんなバカでも判るハズだ」


「そもそもの話、優秀な空の魔術士が居れば一騎当千どころか、一騎当万に値する戦果が得られるのが、明白。当然なのだが。生かせていない時点で、この国の……いや、この世界の国家指導者、軍部指導者が無能だということが良く判るだろう」


「いいか? オマエらは理解出来なかったかもしれないが、この「完全に包囲され、籠城中の味方砦に補給を行い、継戦を維持した」ことがどれだけスゴイコトか。味方を助けたことも当然だが、敵に包囲されても継戦の維持される砦が存在することの、戦局に与える影響力がどれほどのものか」


「戦場で、蹂躙するための絶対必要兵数が大きく変更されるのだぞ? さらに現場の人間ですら。指導者と同じレベルで満足しているからか、理屈や道理が判らないままだ。それを上手く利用しようとも考えられない。この世界の軍属のレベルの低さが露悪している」


 対魔王軍世界会議で、勇者が、忌憚なき意見をと何度も求められたため、発言したと言われている内容だ。非常に辛辣な言葉が選ばれているため、当然、会議に出席したほとんどの王や指導者が勇者に嫌悪感を感じ、その後の勇者に対する扱い、対応に様々な影響を及ぼすことになった。


 とはいえ。この言葉によって始めて、この世界では、荷駄部隊、補給、兵站……といった、物資が重要なのではないか? という疑問が発生し、意識、価値観が広められたと言っていい。


 育成に凄まじい時間が掛かる。さらにレベルアップの判りにくさから訓練が継続しにくい。だが、空の魔術を使う者たちの有用性が提唱され、認知されたと言って良いだろう。


 父の汚名を晴らしてもらい、さらに祖父の仇も取ってもらったことで、自分の一族郎党の無念を晴らしてもらった上に。空の術がどれだけ有用かと、私自身のこれまでの半生まで肯定していただいたということになる。


 これはもう、感謝しないではいられなかった。当たり前だ。心酔、崇拝といってもいいかもしれない。ほぼ強引に……命じられてもいないのに、押しかけで勇者様の従者として、行動を共にすることにした。

 まあ、簡単に言えば。既に騎士団にいる意味を無くした私は、当然の様に退職し、爵位も妹に譲り、勇者様の役に立とうと後をつけ回した。しつこく追い回してしまったが、最終的には許可を戴いたのだ。何しろ自分の能力は飛び抜けて「便利」だ。


 勇者様の目的は魔王の討伐だ。魔王は意味なく、無秩序で混沌とした世界を生み出そうとして画策しているらしい。悪魔族だろうが、側近だろうが、本当は使い捨てなのだそうだ。戦い方はともかく、混沌による世界支配は普通に生きるものにとって非常に難易度が高い。


「我が主君、混沌は悪、害ではないのでしょうか?」

「混沌が悪いとは思わない。だが、それだけで塗りつぶされているのはダメだ。人は法と混沌。理性と本能。その両方を制するからこそ、自分たちよりも強い個体、魔物、竜にすら、滅ぼされなかったのだから」


 時にはそんな疑問に答えをもらいながら、我々勇者軍は魔王軍と戦い続けた。


 いつしか。そう、旅を開始して数年は過ぎていたと思う。


 勇者一行は、魔王の領域の最奥部、魔王城と呼ばれる山をまるごと要塞化した巨大な建造物に辿り着いた。というか、城というよりは山だ。魔王山峰だ。

 まあ、自分は補給物資を大量に運びながら、足手まといにならぬように戦う、動くのが精一杯だったが。


 トンデモナイ量の魔物で溢れ返すその城に、勇者様のパーティが突入する。


 私たち……パーティメンバー以外の従者隊は、山の麓に結界で安全地帯を維持し続けて、キャンプを張り、その帰りを待つことになった。城の中は全体的に敵の平均レベルが高く、戦えない者には非常に過酷な戦場だった。

 私の様な中途半端な戦力には、ここで、それ以外の者……行軍中に助け出した女子供や、移動手段である騎馬、飛竜などもいた、を守る役目を与えられたのだ。


 最前線なのにお前のおかげで簡単に砦が構築できる、何よりも風呂に入れるのが最高だ。と、喜んでもらっている。

 この頃には私の保存庫はかなりの大きさに拡張していた。なので、砦を分割して幾つかのブロックに分け、運んでいる。何故か砦をそのまま収納する事はできなかった。大賢者様は魔力不足と言っていたが……神級に魔力がなければ大きな建物は出し入れできないのだそうだ。

 

 勇者様パーティが魔王城に乗り込んで数週間後。それまで体験したことのないレベルの衝撃が、麓のキャンプを襲った。

 後で聞いたが、その激しさは元々あった山を三つくらい巻き込み、巨大なクレーターを生み出したという。

 世界中の大地が大きく揺れ、暗雲が立ち込め、暴風雨の嵐が五日間続き。殆どのモノが洗い流された。


 魔王の領域から魔王城いや、魔王山一帯が跡形もなく消滅した。大きく剔られた台地には、あっという間に水が流れ込み、巨大な湾を形成する。


 当然だが、私の意識は衝撃を受けたその瞬間、その時点で消し飛んでいた。




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