054:ラルファ・マズルグンド①

 私の祖父は王直下親衛隊隊長。父は近衛騎士団副長だった。祖父が非常に秀でた戦士、将で、戦場で名を挙げた。デルベキオの撤退戦。何度も聞かされた話だ。


 デルベキオ砦に残された兵は約50名。攻めよせるヒィナア帝国は大将軍グルレオ率いる2000の精鋭騎馬兵。鎧袖一触。そう思わない人はいない。

 そもそも雌雄を決するサンカーラ平原の大決戦で、我がルザ王国軍は惨敗したのだ。グルレオの策略にまんまとはまり、騎士団は疲弊し王国軍主力は撤退すら難しい状況に陥っていた。

 そこに風穴を開けたのが、祖父ランパード・マズルグントだった。祖父は砦の後詰めに残されたしがない部隊長だったが、敵の後背を確認するやいなや、真夜中にも関わらず奇襲を仕掛けた。豪雨だったのも幸いしたのだろう。帝国軍は大軍による援軍と勘違いし、大いに乱れた。そのすきに王国軍本隊、総指揮官であったレンザルオ皇太子が砦を経由して撤退に成功した。


 ここまででも万々歳の大手柄だ。だが祖父はさらに砦に残り、敵を引きつける動きを繰り返した。砦に至る道に穴を掘り、罠を仕掛ける。森の至る所に障害物を配置する。愚直にもそれを何度も繰り返したそうだ。

 それが結果的に騎馬2000、歩兵二万を引き止め、追撃を許さなかった。結果、王国軍の再編成の時間を稼ぎ、数度の交戦の後、最終的に対等な講和条約までこぎ着ける事になる。


 この結果。マズルグント家は男爵に叙爵された。士爵を飛ばしたその暴挙は、主にレンザルオ王の直言によって進められ、誰も表立って文句を言う者はいなかった。

 その後、祖父は王直下親衛隊で隊長を務め、その才を継いだ父も、近衛騎士団に席を置き、副長にまでなっている。


 自分、ラルファ・マズルグントも、そうなるのが当然の様に幼少期より剣を握った。毎日毎日、鍛錬を繰り返す。が。自分で思ったほどその技は磨かれなかった。


片手剣3

両手剣5

両手槍2

盾2

身体頑強2

持久維持1

乗馬3


 それは父も同じだったようで、十歳、学校を選ぶ段階の測定結果から、跡取りとして同じ道を継ぐのは難しいと、ハッキリと伝えられた。


「この歳でここまで鍛えた事を、父は誇りに思う。お前の気持ちを最優先してやりたいのは山々だが」



 熟練度は稽古や訓練等、自分の行動、生活によって増加してゆく。広く多くの事に手を出すほど、極めるのに時間がかかると言われている。


 ギフトが無かった。ステータス欄の表示には熟練度のみ。ギフトとは言葉通り、神からの贈り物と言われている。天性の秀でた才能、能力を指す。

 祖父は兵貴神速、父は謹厳実直。さらに二人とも、剣神の加護というギフトを所持していた。つまり、二人は二つのギフト持ち。古代語で二つの星を意味する「フゥーリエ」と呼ばれる。

 貴族だけでなく、人の上に立つほとんどの者が、フゥーリエ以上、二つ以上のギフトを所持しているといわれている。それくらい能力が必要だということでもあるが、単なる慣例でもある。暗黙の了解ってやつだ。 


 この国では騎士になる子供の通う騎士学校、それ以外の通う普通の学校で進路が分かれる。騎士学校に通わなかった者は、後に剣士として成長しても、騎士に成れる可能性はほぼ無い。それこそ祖父くらい活躍してやっとだ。逆に騎士学校へ行って、挫折、または怪我等を理由に、一般的な職に就く者も多い。

 騎士学校の方が潰しは効く。が。うちは只でさえ二代前に大目立ちしたばかりだ。しかもバリバリの武闘派と思われている。騎士学校へ行けば確実に、近衛入りしなければならない。これが難しいとなると、祖父や父を推挙した陛下に迷惑が掛かってしまう。このまま成長したとしたら。多めに見て実力で近衛に入るのは難しいと言われれば、身を引くしかなかった。


 当初は自分の力の無さに失望したが、だが、一流の騎士は無理でも、一流の魔術士ならどうにかなるのではないかと父に言われ、思い直した。騎士修行時から、魔力が凄まじいと褒められていたのだ。

 騎士として活動するには、最低限の身体強化の術が使いこなせなければ難しい。全身鎧を着けて闊達に動き回るということは、そういうことなのだ。


 幸運にも高位の魔術士に師事する事を許された。元宮廷魔術士長のカラドリウ・メヌエット師。弟子にして欲しいと国内外から希望者が殺到している御仁だ。夢破れた哀れな息子にせめても、と、父が無理を言ったらしい。

 ちなみに魔術士の学校は存在しない。魔術士として大成出来るくらいのギフト、才能、ステータスを持つ者は少ないため、引退した高名な術士に師事することで、学校の代わりとなっている。


 早速、魔力の測定が行われた。これは、自分の予想通り、SSランク。膨大な魔力はそのまま、魔術士の力に直結する。

 兄弟子たちの期待を浴びたまま、属性測定を行う。



 部屋を支配する沈黙、静寂。魔術に疎い自分でも知っている事実。


 空魔術は別名:寝間着運び、と呼ばれている。使える呪文は保存庫という、生活魔術に近い、こことは別の空間にアイテムを収納する術のみ。多々ある魔術属性の中で、唯一「使えない」と言われている属性だ。


 だが。


 その現実をどうしても受け入れられなかった私は、その日から狂った様に修行を開始した。


 あの時周りにいた全ての人間は自分を無かったことにしたようだ。


 ただ、カラドリウ師は「それは良い」と、私の修行続行を認めてくれた。誰も相手にしてくれない代わりに、他に煩わされない時間。何よりも修行には持って来いだった。


 本当に何も考えず朝から晩まで、無心で魔力容量の拡張、属性や術固有で変化する魔力の識別、練り上げ等の変質。魔力操作の向上、属性強化の修行を繰り返していく。


 魔力枯渇状態でこれ以上は訓練も厳しい……と言う時は、自分では使えない他の属性の呪文も暗記していった。空の初期呪文などあっという間に覚えたからだ。保存庫以外、存在しないのだから当然だ。

 

 保存庫の術はどんなに極めても寝間着程度しか収められない。大きさも、重さも、大したモノは入れられないと言われている様に、その通り、魔力がSSランクでも、それは変わらなかった。これがもう少し大きく、重いモノを入れられれば話は変わるのだろうが〜そんな気配は感じられなかった。



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