045:大きいトカゲ退治

 人語を解さないドラゴンなど、図体の大きいトカゲと一緒だ……と、父さんが言っていた。当時はそんなバカな……と思ったモノだが、今、こうして冷静に対策を積み重ねていくと、確かに大きいトカゲと戦うのだな、と、思えてくる。但し空を飛ぶけど。火も吐くけど。多分。


(さすがに、この展開は……)

(ない?)

(ええ。予測しろと言われても、有り得なさすぎて。ちょっと笑えてきています)

(それは重畳)


 ドラゴンは現在、18階層、地蔵火山にいる。暖かい……というか、熱い階層だ。それまでは徐々に上に移動してきていたのに、既に二日間、火山で一番大きい火口脇の洞窟から動かないらしい。気に入ったな……。

 

 迷宮の各階層はゲートで繋がっている。これは地上にある大門と同じ様なモノで、腕輪がないと通過できない。正式名、転移ゲートの通り、階段とかではなく、ドコで○ドア的なゲートを通過しようとすると瞬間移動、転移する。前に尾行してきた影の探索者を放り投げておいたのはゲート部屋といって、各階層の間に位置している。イメージ的には……


第○階層

 ↓

ゲート部屋

 ↓

第×階層

 ↓

ゲート部屋(以下同じ


 迷宮は下の階層に、こんな感じで繋がっている。10畳間位のゲート部屋には横幅二メートル、高さ三メートル程度のゲート=門が二つ。完全に安全といえるかキチンとした検証は為されていないが、ゲート部屋に魔物は入ってこない(と言われていた)。魔物は転移出来ない(と言われていた)。

 まあ、とにかく。ゲート部屋を介さなければ階層間の移動はできないのだ。魔物が階層毎に区分けされているのは環境以外でも、上下に混ざらないからというのもあるだろう。

 が。今回、ドラゴンは階層を超えてきている。ゲートを部屋ごと破壊しながら……らしい。なんだそれ。どういうことなんだろうか? 


 まあ、いいか。


(よくありません……本当に我が主君マイロード、お一人で?)

(一人じゃないでしょ。確かに、ドラゴンに対峙するのは俺一人だけど……少なくとも、作戦的には俺一人じゃどうにもならない)

(ですが……)

(だから。言われちゃったじゃん。「氷帝」の人に。足手まといだって)

(……もう言わないように致します。畏まりました。では予定通り……討伐隊の面々と合流いたします。あのメンバーであれば……この階層の雑魚なら、こちらに被害無く討伐が可能かと思われます)

(うん、すまないっすね)


 とはいえ、まだ心配そうだ。ちゅーかまーねー。そうだよねー。ドラゴン、竜といえば、迷宮界待望の魔物……さらに強大凶悪なスペックで~当然の様に、あっという間に、討伐隊の精鋭が瞬殺されている。


 討伐隊の精鋭といえば、世界の精鋭。腕輪を付けて探索者として活動しているとレベルが上がる……ということを考えると、迷宮内世界最強の暴力装置、軍隊、部隊が迷宮局の討伐隊だ。米国の特殊部隊など、精鋭を指す部隊名は昔からよく登場するが、人間自体、個体としての強さが段違いすぎる。

 そんな人たちが一切歯が立たなかった相手……にたった1人でというのだから、まあ、心配だよね。甲田さんがなんでそこまで俺に入れ込むのかは良く判らないけど。


我が主君マイロード……やはり……)

(ああ、うん、んじゃ、ちょっと安心出来る話を)

(はい?)

(あのさ、俺さ、言ってなかったけど。剣士じゃないんだよね)

(は? あ、あの剣捌き……で、ですか?)

(んーと、今までのは魔力に体を慣らすためのリハビリ……かな。剣を振ってたのは。ロングソードも、昔振った事があったからってだけだし。あと、魔術も段階的に使って、体を魔力に馴らしていかないと、体調不良になるし、変に疲れちゃう……最悪気を失うこともあるからね)

(で、では武器は……な、何を)

(んーんとね、あのね、俺、前衛じゃなくて後衛。純粋な魔術士なんだよね)


 何かが抜け落ちた顔……というのはこういう顔の事を言うのだろう。甲田さんの顔色が……凄い勢いで白くなっていっている気がする。


(……はっあああああ!? マジで?)


 甲田さんから敬語消えた! 


(うん、マジ。だからさ、こちらから仕掛けられる今回みたいなケースは戦闘の中で得意なんだよね。魔術士に準備をさせちゃダメだって所を見せてあげるよ)

(……か、かしこ、畏まりました……お任せいたします。早々に下がらせていただきます)


 あ……取り戻した。うん、ごめん。甲田さん、泣いた? 泣いちゃった? ちょっと忘れてたや。俺、ロングソートでやっつけてるからね……最初に。ショックかも。確かに。すまん。


 で。目の前、遠く見えているのは……赤きドラゴン。火竜、ファイアードラゴンとか、レッドドラゴンなんて呼ばれるであろうタイプだ。色からしてアレだけど、火山とか熱い場所が大好き。ちゅーか、うん、イイ感じで良いロケーションで眠り込んでいる。討伐隊のパーティと戦って……まあ、かすり傷程度とはいえ、無傷とはいかなかったのだろう。ああして自分に適した属性の土地で休息すると、体力、魔力だけでなく、傷なんかも癒える。属性持ちの魔物によくある特性だ。


 自分の属性に合っているこの階層。しかも火山口に近い場所にある大きな洞窟。その真ん中にある浅めのクレーターにすっぽりと収まる様にお休み中。ということで、色を含めて、火属性の竜。ファイナルアンサー、決定ってことで。


 火属性の竜には当然だけど、火属性の魔術は一切通用しない。それこそ、上級、最上級の呪文だとしても「なんか熱いなぁ」っていうレベルで耐えられてしまう。その分、氷属性の術にはめっぽう弱い。圧倒的に弱い。俺がソロで挑む気になったのはそういうことだ。


 18階層のドラゴン周辺は、ドラゴン自体を恐れて、他の雑魚魔物はほぼいなくなっている。それでも、地蔵火山の在来魔物はファイヤーリーチ、ファイヤースライム、ファイヤードレイク、ファイヤークロウラー、ファイヤーウルフ、ファイヤーバードと、ファイアー付けとけば何でもいいでしょ的なヤツらがてんこ盛りだ。

 そんな迷宮に散った大量の魔物を潰して行く面倒くさい仕事をするのが、甲田さんと討伐隊の精鋭たちである。まあ、甲田さんには比較的近めの場所で待機、警戒。俺の護衛も兼ねてもらうことにした。でないと、いつまでも盾になりますと五月蠅いんだもの。


 では。


 さあ、やっていこうか。魔術は……いや。この手の大規模だけど、単体の討伐は……正直、力押しだ。ヤツの魔力と俺の魔力。どちらが多いか、どちらの質が高いか、力比べである。俺のレベルが低いので魔力量で力押しは厳しい。となると。技術、準備勝負……だな。魔力を練り込むことになる。これを……意識の外、世界の外にいくつ留めておけるのか。それが勝負の決め手になる。んーあの火トカゲがどれくらいの強さか、にもよるんだけどなぁ。


 外見からするとまだ、それほど強く無い、生まれてしばらくして……といったところだろうか? というか、暴れなければ別に放置でもいいんだけど、ここで休憩して、傷が癒えたら。確実にまた、上に向かう。そして最終的には迷宮の外に出て暴れる……ということになる。空を飛ぶ魔物が迷宮外に出ると……ねぇ。もの凄く面倒なんだよね。魔物には銃火器がほぼ通用しないので、有効な攻撃は弓なんだけど、能力強化が図れる迷宮内であればともかく、外での弓はそこまで強く無い。なので、罠を仕掛けて、地に落として近接攻撃となるんだけど……。ドラゴンだと上手くいかないだろうなぁ。それで、火でもぶわーっと吐かれた日にゃぁ……ねぇ。


 まあ、ここでこうして魔力を練り込んでいるにも関わらず、のうのうと寝ているお前が悪い。一方的にやらせてもらうぞ。


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