043:対策会議

 ちなみに、迷宮局からの連絡は、腕輪の告知機能と登録したメールアドレス両方に届く。ありがたい。


(……なんで未確定魔物5463号、通称ドラゴン対策会議に呼ばれるのか)

(当然かもしれません。靖人様は総長に勝ってしまわれたのですから)

(そんなに?)

(えぇ。ドラゴンというパワーワードのせいで場が一転しましたが。申し訳ありません。我が主君マイロードのお力を信じるべき私ですら、どの様に幕引きするかを必死で考えておりましたから……)

(いやいや、それが普通でしょ。あの場で俺の勝ちを信じるなんて、狂信でしかない。狂信者は好きじゃない)

(はっ。心に刻み込みます)

 

 その真面目さがちと怖い、けど大事なことだからね。俺を信用されすぎてもやばいし。実際、まだ高校生だからなぁ。現代社会の基礎知識が足らなすぎる。


 次の日の放課後。校内放送で言われた通り学校のエントランスに向かうと、車寄せに黒い渋い車と甲田さんが立っていた。あ、え? 運転手もするの? 


(この車は?)

(御屋形様が自由に使って良いとのことです。何台かお持ちのようですよ?)

(じいちゃん……ばあちゃんに怒られて、デカいワゴン1台以外は処分したって)

(なので、名義はお弟子さんのものです)

(普段、車を使わないから、乗り心地か良いのか悪いのか、サッパリだ)

(素晴らしいですよ。型番は数年前のモノですが、迷宮対応済みですし)


 迷宮対応っていうのは、迷宮産の新金属等で強化補強されている乗り物や建物などの事を指す。こいつも、どこまで改造されてるのかは判らないが、通常の車両よりも、強くて安心なのは確定だ。


 まあ、だからって、「凄い乗り心地〜」とはしゃげるほど、車好きじゃないし、車に詳しく無いし、乗ってない。東京は電車網がバッチリだからね。日本全土で新都市交通システムが採用され、ほぼ自動運転、自動ルート制御、渋滞緩和など、昔よりは良い感じに移動出来る様になっているとはいえ、まだまだ、渋滞は多いし。


 多分、じいちゃんがばあちゃんに内緒にしてるこだわりの高級車ナンだろうけど、何の感慨も無く、乗り込んでいる。すまんな。


(本日から、面倒だとは思いますが、基本移動はこれで。我が主君マイロードに何かあってからでは遅いですから)

(えーマジで?)

(はい)

(そんなに?)

(は、そんなにです。あの総長に勝ったという事実は消えません。現時点でいつ襲われてもおかしくないですよ? 特に討伐隊の奴らには注意をしませんと)

 

 白手袋の甲田さんがドアを閉めて、運転席に乗り込む。本職みたいだ。


(探索者として生活出来る様になるまで、板橋のフランス料理屋で、ソムリエをしておりました)


 ああ〜だから、姿勢が綺麗なのか。甲田さんのメイン武器は主に短剣やナイフ。流派とか師匠を聞いたら、全て独学だったそうで。なので基礎の基礎が無いらしく、今、じいちゃんと、山県さんによってウチの流派をミッチリ仕込まれている。まあ、これ以上はないって位、彼の探索者スタイルとうちの流派は相性バッチリだからね。


 何てことを考えながら到着した……巣鴨迷宮、迷宮局出張所の会議室は非常に重い……どんよりとした空気で満たされていた。


 案内されて後ろの椅子、しかも隅に座る。いやいや、途中出席していい会議なのかよ、これ。視線集まってるし。


「さあ、真打ちがお出ましということで、本番です。どう対策するか。進めましょうか」


 ものすごく普通のハゲオヤジ……こと、討伐隊監査役「不知火」本田健二が、進行役……うん、そうだね。会議を進めそうな人は貴方だけだね。この会議室で。うんうん。


我が主君マイロードは、この様な場で話をすることを苦手としています。幸い、パーティ会話を使用すれば私と迅速な意思疎通は可能です。代弁者として発言する事をお許し頂きたい」

「君は?」

「三級探索者の甲田です。現在は赤荻靖人様の執事を生業にしております」

我が主君マイロード……か」


 総長を挟んで「不知火」の反対側。たった一言で場の温度が数度下がる。あ、これは比喩ではなく、現実に、だ。

「氷帝」。討伐隊副長、御影啓一。鋭利な刃物の様な、という表現はこの男の為にあったのか、というくらい、尖っている。目線で魔物も女も殺すとまで言われている美麗な、危険な容姿。総長、ex立花に次いで……いや、世界的にはオタク層の支持によって「氷帝」の方が有名かもしれない。


「本来なら、赤荻くん位の症状……いや、病状か? であれば、こちらが真摯に対応すればキチンと聞き取れると思うのだが。先日は暴言を吐いた者がいたな。ここで正式に謝罪しよう。言った者は君の症状を知らなかった様だ。すまなかった。それを踏まえた上で。今日は何よりも時間が惜しい。こちらこそ代弁をお願いしたい」


 おおーまともだ。


(いえ……彼が……間違いなく世界で一番、最も総長に入れ込んでいます。気は許せません)


「よろしくお願い致します」


 既に……まあ、朝から? 議論を重ねてきたのであろう。「氷帝」以外の全員が、疲れた顔をしている。


「本題の前に。まず先に……あー赤荻くんの能力、いや、君は何か重要な要素を開示する必要が有るのではないか? という意見があるのだが。どうだろうか?」


 ハゲオヤジが笑顔でふざけたことを言う。


 おうおう、そう来たか。ああ、まあね。何かズルでもしていなければ、おかしい、さらに、そのズルは社会的、人類の進歩のために、隠しておくとは何事かというモノではないか? と、良心に訴えて来ているワケな。


「迷宮での危機は、人類の危機である。何かあるなら提示したまえ」


 さみーよ、「氷帝」。


「それは脅迫ですか?」

「なんということを。我々が脅迫など。全てにおいて任意だ。協力要請となる」

「ならば、当然、ノーです。何処に自分から武器を投げ捨てる探索者がいるのですか?」

「そういうことではないのだ!」


 だから、冷たいって。


「既に討伐隊精鋭パーティが2つ。壊滅状態にある。昨日からの会議で、戦略を検討したが、これぞという有効な手段が見つからないのだ。被害を減らす可能性が有るのなら、藁にもすがる所存である。この通りだ。お教え願えないか?」


 総長が椅子に座ったままとはいえ、頭を下げた。これは。多分、俺の思うより安くない。だが。

 甲田さんも、どうしますか? といった顔でこちらを見る。


「無理ですね」

「な!」

「貴様!」


 ちっ。「氷帝」! 洩れてるよ! 洩れてる! 冷たいって! 言わないだけで、全員、総長だって寒がってるよ!


「その代わり……ではないですが、提案が有ります」


 甲田さん、お疲れ様。この冷気の中で噛まずに発言できたの、スゴいと思う。

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