042:探索者腕輪

 腕輪に告知というか、連絡が届いた。


 腕輪。というかイベントか何かでチケット替わりに使われる様な、シンプルなシリコンバンドに似た探索者の証。これには「迷宮局からの個別告知機能」が付いている。境目が分かりにくいが、小さい画面? カラーではなく……モノクロの表示画面が組み込まれているのだ。ここに、最小限の文字情報が送られて来る。迷宮内では携帯、スマホ、全部使えないからね。


 あ、探索者腕輪と呼ばれているこの腕輪は厳密にいうとハイブリッド魔道具だ。迷宮内では魔道具として、外では個人認証用のICチップが動作するらしい。探索者は基本、この腕輪を外さない。迷宮内でしか外せないという制約以前に、常に付けていた方が何かと便利だからだ。


 付けっぱなしで痒くならないのか? 汚くなったら? なんて海外からの質問が話題になったりしていたが、実はほぼ常に、微弱ながら清浄の術が発動しているので、汚すこと自体が難しいのだ。清浄の術がカバーとなっているからか、痒くなったなんて情報も見たことが無い。


 で、この腕輪が実質的な探索者免許証だ。自動車の運転免許証と同じ様な身分証明アイテムとして、公的に認められている。

 実質的に、というのは、真の探索者免許証はA5サイズの特殊紙製で、持ち歩きには不便なタイプだからだ。んーと、医師免許とか、調理師免許と同じ感じになる。

 なんでそんな事になっているかというと、「魔道具」という未知のワードに、個人情報の電子化すら乗り越えられていなかった世代が反発したのだ。頭の固い国のお偉いさん対策に迷宮局側が妥協した結果が、今ではあっても意味の無いモノの代名詞になっている。


 で、探索者腕輪の機能を解説すると。


①個人認証:世界最強の! 個人認証だ! パスポートいらずとはまさにこのこと

 迷宮外でも使用可能。魔道具部分で制御されているため、DNAレベルでデータが保障されている。住民票や、社会保険番号等の国民番号関連は当然として、さらにこの、個人認証には公的な電子情報を付帯する事が可能。自動車運転免許証に、パスポート等、資格情報が全て電子化されている日本において、それを全てひとつでまとめる事が出来るのは探索者腕輪のみである。


 世界で一番信頼できるID、ドッグタグとも言われており、海外で腕輪を使用すると(本物と確認されると)、一瞬でVIP扱いされるというのは有名な話である。

 探索者の場合、マスクされているが昇級の為の貢献度もここに蓄積、保存されている。


②電子マネー取引:これまた世界最強の! 電子マネー取引

 迷宮外でも使用可能。クレジットカード、交通系ICカードの上位互換と思えば間違いない。

 各種サービスを統合可能。これも、世界最高の個人認証を裏付けに使用しているため、信頼度=使用可能店舗数は多く、既に日本国内なら89%。海外でも67%という、日本独自の規格としては脅威の普及率となっている。

 迷宮局からの報酬も当然このシステムで支払われる。


③保存庫:探索者には必需品というか、武器の携帯の為にも必需品! 保存庫

 迷宮内のみ使用可能。ストレージ。収納、アイテムボックス……様々な呼ばれ方をしているが、まあ、簡単にいえば、某猫型ロボットの四次元ポケットだ。腕輪を着けることによって、有限だが、魔法の袋が使用可能となる。アイテムの出し入れは迷宮内限定。そのため、迷宮を出る際に探索者は武器や防具を保存庫に格納してから外に出ることになる。

 腕輪を着けた本人の所持魔力によって許容量が変化するため、低級の探索者は少量しか保存できないことが多い。

 購入した武器防具が自分の保存庫に入りきらないなんて場合は、迷宮一階層に設置されている迷宮局○○出張所(○○にはその迷宮名が入る)で預ける事が可能。


④行動記録:探索者には個人情報保護なんて無い! なんでも筒抜け!

 迷宮内のみ記録可能。行動記録ログ。ログ保存機能。文字通り、出張所設置の魔道具(チケット出力システムに酷似)で変換すると、探索者の迷宮内での行動が、文字情報となって表示可能らしい。まあ、実際には見たことが無い。探索者は迷宮局によって完全管理されている、と言われる最大の要因だ。この行動記録ログが公の場で証拠として提示された事は無いが、迷宮局からいきなり(本人談)免許取り消し処分通知が届いたと騒ぐ元探索者はたびたびネットで話題になっていた。

 そういう輩は大抵、騒いだ数日中に、犯罪行為が露呈して逮捕されることが多い。何という偶然。わー犯罪者って怖いなー。

 

⑤パーティ機能(会話、位置識別):仲の良いあの人とナイショの会話もできちゃう! 心の声が漏れ漏れ

 迷宮内で使用可能。まず、この人とパーティを組もうとお互いが思うと、パーティが構成される。メンバー数はリーダーによって変わり、最大6人、ヘタすると2人までしか組めないなんてこともあるようだ。で、パーティを組んでいると、パーティ会話が可能となる。まあ、うん、俺が甲田さんとよくしている、心の声で会話するヤツだ。戦闘中とかに凄く重宝する。そしてさらに、パーティを組んでいると、迷宮内でなんとなくパーティメンバーの位置もわかるようになる。ハッキリわかるわけでは無いが、多分こっちだろう……で辿り付ける様だ。


 俺はこの機能を強引に迷宮外で使用している。


⑥便利機能:その他にも色々! これが探索者腕輪だっ!

 この他にも前述の迷宮局からの告知機能も付いている。個人的なメッセージのやり取りはできないので、一方的な通告を受けることになる。そのオマケとして時計機能、アラーム機能、震動機能、バックライト機能も付いている。バックライトは少々弱めなので、照明のように使用することはできない。残念。



 と、まあ、こんな感じで、探索者腕輪は、迷宮局の首輪みたいなモノだ。奴隷の様な扱いを受けるワケじゃないし、報酬も民間が絡んで中抜きするような事業と比較すると破格だし、迷宮局の職員がとんでもなく高給でもない。

 そもそも、迷宮局は、東京都の組織、支局、役所と思われているし、対外的な発表を行う際はその体を装っているが、内実は大きく違う。


 予算的には最初から東京都から切り離されているのだ。 


 正確な組織名は「独立公益財団法人 東京都迷宮公社 迷宮局」となっていて、一般の公益法人との最大の違いは「国民の血税は一切投入されてない」事。

 つまり。迷宮局は、国、都等の権力からは一切影響を受けず、民間企業の様に営利行為を至上としない。膨大な利益はそのほとんどを、日本国内に投資、ばらまき、還元し続けている。


 最近判明したのだが、日本の探索者腕輪の保存庫、いや殆どの機能は海外の迷宮では規制され、使用できない。探索者の海外での活動は基本禁止されているので、検証などは行われていなかったが、海外支援部隊として探索者が派遣された際に当局から説明があったらしい。支援等の国家的な決定がなければ、規制解除される事は無いようだ。

 当然、日本が提供している「海外の探索者の腕輪」も同様。逆も出来ない。国毎に違う腕輪を付けなければいけないということなのだろうか? 


 って……あーなんとなく分かった気がする。


 つまりは、密輸は不可能ということだ。そんな部分すら管理されているというワケなのだが。


 公的にも私的にも、事業的にも収益的にも、公共事業的にも。完全に自立自営している為、それくらいの管理は当たり前とされているのだ。


 実際、迷宮局が通常の株式会社だったら。現在、迷宮景気で急成長した企業を従える事となり、時価総額で世界経済の1/3は押さえてしまうのではないか? とまで言われている。全ては雑誌やTV番組の受け売りだけど、まあ、概ねそんなモノだろう。


 さらに。自主独立の気風を多分に備えた探索者達が、首輪と揶揄される腕輪を積極的に装備する最大の理由。


「探索者腕輪を装備していないと、強くなれない」


 迷宮局が明言している訳では無い。が。迷宮初期から都市伝説の様に言われている、歴然とした事実だ。腕輪をしないで迷宮に入り、探索し、敵を倒しても……自分が強化されていく実感が全く湧いてこないのだ。以前実験を行った探索者は「成長している、という実感が無い」と述べている。まあ、これは逆に、腕輪をしていれば「成長しているのを感じ取れるくらいの超スピードで成長できる」ということになる。

 その仕組みは予想でしかないが……元々この世界には魔力が存在しない。つまり、人間には魔力からエネルギー? を吸収し、自分を強化する能力が存在しないのだ。


 なので、この腕輪の最大の機能は、装備している探索者に魔力から発生する「経験値」を付与すること、だと思われる。まあ、この辺の情報は公式に明らかにされていないから、極秘事項なのかもしれないけど。


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