040:会社

 なんか、はいはいと、適当に聞いていたのだけれど……甲田さんは俺をリーダー、いや、君主として探索者グループを作ろうと思っているらしい。一般的にクラスタ、ギルドなんて名称でも呼ばれるが、日本社会での実質的な登録などは株式会社となる。


 探索者は基本、個人事業主だ。迷宮内での迷宮局からの扱いや対応等は、基本各個人毎に処理される。


 が。級が上がり、魔物が強くなり、集団で襲いかかって来るようになると、パーティを組まざるを得ない。上を目指す場合、完全分業にして能力を特化させないと戦闘効率が悪くなってしまう。その結果、どうしても固定のメンバーとパーティを組むことになる。


 そして、多くの初期探索者が気が付いた。固定メンバーとパーティ活動する場合、迷宮外でのあらゆる事象、特に経費に対して効率が良いのは、メンバーとの株式会社の設立だと。


 当然、迷宮出現後、あっという間に多くの会社が生まれたのだが……探索者特有の様々な事象により、問題が多々発生。中小レベル以上の大会社、社員数百人レベルの探索専門会社は未だ生まれていない。

 どちらかと言えば、昔から存在した巨大商社や企業グループの一部門として、探索部、探索課が存在するパターンが多いようだ。いずれにしてもそれほど大規模ではない。多くてもパーティが2つ。構成員は十数人と言ったところだろうか?

 以前。とある商社が探索者の大規模な囲い込みを行ったが、最終的には報酬の折り合いがつかなかった。ならばと、某巨大警備会社が既に雇っていた社員を探索者にする方法で参入したが、たった一回の作戦ミスで全滅。その賠償問題が訴訟化し、未だに大もめしている。

 まあ、今、一番多いのは、パーティメンバーのみでの会社化。事故でメンバーが欠ける様なことがあったら解散。というパターンが普通らしい。


 そんな中、甲田さんがやろうとしているのは、クラン=氏族と呼ばれるタイプの組織のようで……ってまあ、そんなのどうでもいいか。まあ、俺の下に従おうなんていう奇特な探索者は……いないはず……あ。いた。

 的場宗一さん、探索者アイドル「キラキラ」ヨスヤのお兄さん……甲田さんの親友の上に、何時死んでもおかしくない状態から癒やしちゃったからなぁ。来そう。スゴく来そう。甲田さんの土下座的に助けないって選択肢は無かったけど、ヨスヤの件があって確実に面倒くさい事になりそう。


 コミュ障な自分にはそんな組織どころか、パーティを組めるかもな仲間すら無理と、諦めていたからなぁ。こういう時、どうすれば良いのかサッパリだ。

 まあ、でも、よく考えれば、良いことなのか。これ。今後、確実に一人では先に進めなくなる時が来る。そのためには仲間や協力者が絶対必要だ。


 甲田さんや的場さんを……巻き込んでもいいものなんだろうか? 事前に説明すれば良いのかな? うーん。いいか。


「全部出来ると思うな。できる限りでいい。ただ、その限界は自分で決めろ」


 父さんに言われた事がある。当時気負っていた俺はそれで力を抜く事は出来なかったが。


 限界、か。


 討伐隊総長を倒すことは無理でも、足止め位なら何とかなる。なった。これは、どういう意味を持つのか? 表の世界とはいえ、金メダリストと対峙出来る能力と言ってもいいだろう。当然、総長も、本気ではなかった。が、それはこちらも同じだ。


 俺の限界は……どれほどの人を巻き込んで大丈夫なのだろうか? 判らない。難しい。最低でも、パーティ一つ分位のメンバーは確保したい所だけど。


 御飯を食べ終わったら、夜の稽古である。


ああ、家は……昔は完全に闇の組織だったみたいだが、戦後しばらくして民事軍事会社となっている。まあ、当然、日本だと警備会社だ。


(ほとぼりが覚めるまで、海外で活動してたってさ)

(師範や兄弟子がほぼ戦場経験者って……)

(大丈夫。迷宮探索者とそんなに変わらないから)

(赤ん坊の様に転がされるのですが)

(それは仕方ないよ。うちの流儀に馴染んでないんだから、まだ)


 今、うちに住んでるのは師範代の山県さん、夜辺やべさん、高弟の三崎さんの三名だ。三崎さんはじいちゃんと会社のパイプ役だ。運転手も兼ねている。夜稽古は基本、その時いる人間(通ってくる人も毎日数名いる)で行う。

 師範と師範代、高弟、門下等……なんか昔は面倒な為来りしきたりが沢山あったらしい。それこそ、師範は師範代としか稽古をつけられない、師範代は高弟、高弟は門下生を……なんて感じで非常に厳格だったそうだ。

 まあでも、今はもう、既にもう、御厨流の人間はじいちゃんの会社の会社員だし、新規採用者なんかも別の場所で育成されている。たまに本社から人が送り込まれてくるのだが、大抵は短期集中訓練で、一~二カ月の荒修行の後、現場復帰というのが多い様だ。


 今日はじいちゃんと山県さん、俺に甲田さんだ。甲田さんは山県さんに、良いようにやられている。


 今やってるのは、無手組手だ。


 甲田さんは身長が高く、さらに手足が長い。無手組手では非常に有利だ。が。これまで、独学で戦ってきたからか、足捌きがとにかく疎かになる。

 うちの厳しい方々は甲田さんに一族と同様扱いをしている。宗主門下、直弟子ってヤツで、何でも教えて良いと判明するとやりたい放題になったのだ。

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