038:化物戦②

 総長クラスの達人になると、獲物、今回の場合は六角棒の長さが変幻自在になる。体の向き、腕の長さ、そして、脇に挟んだ際の距離。握る位置を微妙に変化させて「あとどれくらい棒の長さが残っているのか?」が分からなくなる。


 違和感で思考が止まる。そして、そういう戦い方を得意とするのが、総長「EX立花」だ。


 突きの間合い。これを後ろに下がったら最後……のハズなので、ワザと後ろに下がる。当然の様に伸びる射程。握りを緩めて伸ばしたのではない。くっ。反対側に手を当てて……強引に突き出したのか。


 棒が来る。伸びた棒が……目の前で止まる。そう。ここですよね。螺旋の回転が止まるのもこのタイミング。つい、口の端が上がってしまう。総長の顔には驚愕の表情。ええ、そうでしょう。これを完全に避けられたなんて……過去になかっただろうし。


號!


 おちょくられた仕返しとばかりに……螺旋に捻り込まれた棒が空気を纏って突っ込んでくる。ちょっ、いや、まっ! 待って! くそっ! さ、さすが……というか、これ、いや、その、うん、なんでそこからさらにがあるかな? 当たればお終いな突きの連続だけど。でも、強引に豪快に力を乗せてくる。それはもう、確実に、筋肉の予備動作が読める。


 そして。避けるだけなら、そこまでムチャクチャな攻撃じゃぁない。正統派の。但し剣道、剣術に加えて棒術。まあ、さらに背景には居合、槍術、他、様々な武道が複合されているのが透けて見える。示現流も……ってあれ? 総長って警察関係出身じゃなかったような。元自衛官じゃなかったっけ? その前があるのかな? 何していてもおかしく無いか。というか、若い頃、武者修行とかやって全国行脚とかしてそうで怖い。「たのもー」とか。


 突きの連続、連発、連射。しかしこれは確かに厄介だ。それにしても……スタミナ無限かよ! あ。そうか。そういうギフトか。多分、その手の特殊能力を持ってるのね……そりゃ強いわ。これ、一発でも擦ったら確実に肉毎抉られる。練習、稽古……じゃないよね。普通の稽古で、この螺旋の技、使わないよね? きっと。


ガポッ! ゴグ! ゴグッッ! 


 嫌な音が……連発する。空気を纏った螺旋突き。若干まとわりつく大気の震動で、ピシピシと細かい衝撃が走る。ギリギリで回避していることもあって、顔なんかは特に感じる。小さな切り傷が沢山できていることでしょう。


 でも。


 でもでも。


 でもねぇ、ごめんねぇ。これくらいの力なら、技なら。見たことがあるんだ……よっ!


 と。この日初めて、俺は踏み込んだ。長期戦に持ち込んでもいいが、視界の隅の観戦者に別の流れが加わって、一瞬乱れたのだ。何かあったと踏んだ。


ガッ!


 俺とは逆側、違う方向からの一撃。防御された直後に。総長の巨体の影から、死角に屈む。で。一瞬、一瞬だけ闘気を消し、腑抜ける。


 総長の気が揺らいだ。


 うん、貴方と対峙して腑抜けられるヤツがこれまでいなかったんだろうね。無意識のうちに闘気で敵をターゲットする癖がついてるよ? 


 木剣の剣先が総長の顎下に吸い付く様に添えられた。なぜ、俺の動きを見失ったかは、まあ、そんな大したことじゃない。でも、なぜ、死角からいきなり、剣を突き付けられたかは、判らないはずだ。


 停止。エネルギーの停止。空気すら揺らがない。


 声がかからないので、勝手に木剣を納めた。まだ、この場にいる全員が現実を認識出来ていない。


「これで、よろしいですね?」


 なので本人も唖然としていた甲田さんに言ってもらった。その声に、場の音が戻る。


(ああ、ああ、我が主君マイロード、さすが、我が仕えし御方。素晴らしい、素晴らしいですが。これより討伐隊は潜在的に敵対すると思わなければ)

(んー大丈夫だと思うよ?)

(いえ、ヤツらの総長への敬意は相当なモノです。宗教の教祖に対する崇拝に近い。何をしてくる事か判ったモノでは)

(大丈夫。そんなこと言ってる場合じゃないから)


「なんだと? ドラゴン?」


 ほら。決着直後、駆け込んできた隊員からの報告。気になるワードが聞こえて来ちゃった。

 

 そこから先は。情報統制されたため、何も漏れてこなかった。なのに。俺たちは出張所ロビーのソファに座っていた。


(なぜ、帰っちゃダメなのか)

(……なんとなく予想は)

(?)

我が主君マイロードは総長に勝ちました)

(いやー実戦なら、あの後、まだまだ続いたと思うよ? 本気……ではあったけど、まだまだ明らかにしてない技。あったろうし)

(そうかもしれません、相手はEX立花ですからね。本当にトドメを刺さない限り、あそこからでも、何が起きても不思議ではありません。ですが。あの場では勝った。そのイメージは消えません)

(? つまり?)

(先ほど聞こえたドラゴンが、私の知るあの「ドラゴン」であれば。遂に、ということになります。戦力は多ければ多いほど良いと、考える者がいても不思議ではありません)

(ああ、そうだねぇ。すごく嫌な予想だけど、当たってそう)

(はっ。申し訳ありません)

(いやいや、申し訳ないなんてトンデモナイ。俺なんて所詮、16歳、高校生の浅慮な思考、データしか持って無いわけだし。諫言は大いに結構)

(その辺が既に高校生らしくないと思うのですが)


 まあ、そうか。というか、そういうことだろうなぁ。

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