032:最強課長

 で、その三人。聞かなくても分かるし、知っている。


 山は……東京都迷宮局討伐部討伐課総長、「不動」立花隆平。既に伝説と化している有名動画のせいで、世界的には「殲滅立花」「extermination=EX.Tachibana」の方が有名だ。ある意味、探索者と言われて世界の人がまず思い浮かべるのは彼の姿だろう。その他にも「ハルク立花」とか「ドワーフ立花」とかまあ、様々な別名が生まれるくらい、認知度は高い。


 彼の肩書き、役職的には課長でしかない。が、部下人数は五百名を超える……ってことは、軍隊なら少佐か。でも課長。ああ、そういえば史上最強の課長とも言われている。

 相撲取りとはまた違う筋肉系の巨体。大鉈と呼ばれる分厚い鉄板の様な両手剣を振り回す姿は、迷宮初期にアップロードされた動画で何億回繰り返し再生されたかわからない。

 そもそも迷宮最初期に現場指揮の自衛官として派遣され、それ以来生き残っている事がスゴい。その頃のデータを見るに、今から考えればわざと命を投げ出しているのか? と疑う様な行動も多かったのだ。


 まあ、銃器神話、科学神話の存在など、それまでの常識が強大過ぎて、仕方なかったのは判る。だがそれにしても犠牲は大きすぎた。当時の頭……特に首相が年寄りで、既得権益、既得制度にしがみつきすぎた。迷宮といういきなりのアクシデントに対処出来ないばかりか、結果的に、被害拡大に注力してしまった。


 特に「晴海封鎖時に於ける自衛隊、警察特殊部隊による封鎖撤退戦」での「殲滅立花」の活躍は非常に有名なエピソードであるが、この戦い自体は自衛隊創立以来、最大の失敗、最大の人災とまで言われている。


 当時、米軍基地引き上げに伴う、自衛隊人員補完計画が発動中であり、自衛隊員の総数は四十万人。そのうちの十パーセント、四万人近い隊員が死者となった。

 その用兵はとんでもなくお粗末、酷いもので、なんらかの作戦を明示されることもなく、文字通り、一般市民の「盾」となって死んでいったのだ。


 その辺の悲劇は探索者マニアでは、知らないなどあり得ない。ちなみに小説化、漫画化、アニメ化もされている。


 その「殲滅立花」の映像は……当時の魔物との戦闘は……戦闘とも言えないレベルのモノが多かったが、明確に「人間が魔物に立ち向かう、立ち向かえる様」を見せつけた。俺的に……これは国とか都、迷宮局がわざと流布したんじゃないかと思っている。総長が戦う姿はそれまで魔物に対して絶望しか見いだせてなかった日本人に、初めて「戦える」という気持ちを教えることになった。

 さらに、そこに朧げながら映っていた、後に無名勇者と呼ばれる強者の存在も大きかった。総長の影に隠れていてイマイチ分かりにくかったが、戦闘に長けた者が見れば、明らかに彼が敵を引きつけ、多くを「魔術」で屠っている。その迫力は作り物ではないか? CGではないか? と、人間に違和感を感じさせるほど、ぶっ飛んでいる。未だに魔術はこの映像から得たヒントをも元に構築されていることが多い様だ。


 大規模テロ。そのテロ集団との戦い。さらに降って湧いた様に出現する迷宮群。やっと落ち着いた……という時期に、さらにその迷宮からの大氾濫。街にあふれた魔物によって多くの景観、建物の破壊、人的にも多くの被害を受けた日本。その上さらに迷宮が、全国に出現した。


 日本は一時期に政治も混乱し、経済的にも打ちのめされる。


 壊滅状態に近い所から、迷宮局主導の元、大氾濫が収まり、徐々に迷宮が管理され、日本を痛めつけている元凶、迷宮から「希少価値のある」アイテムが多数発見。見つかる端から新素材として、過去に例のないその価値が実証され続けていく。

 そうこうしているうちに、日本は続々と迷宮に関する取り決めやシステムを構築し、管理することに成功してゆく。世界は凄まじいスピードで対応されていく、日本のシステム、判断力と行動力に圧倒されたままだった。


 実は、迷宮以前、大規模テロの際に日本政府は国会議事堂を襲撃され、与野党含め、殆どの大物政治家を失っている。内閣及び、当時の与党若手議員はテロ対策会議に参加しており無事で、現在の首相、内閣はそこで生き残った若手出身である。

 この時点より、日本の主な意見は日本復興優先主義で統一され、各種対応策、法案等の成立が確実にスピードアップ。さらに、過剰な福祉社会、無制限な人道主義も一時的なのかもしれないが、なりを潜めた。一致団結して国を復興させるというモードに入った日本は、非常に強かった。


 さらに現状の政府は決定までのスピードが国家レベルでないくらい、速い。特に迷宮に関する取り組みに関しては、現場の問題が、あっという間に制度として取り入れられている。


 そのような過程で復興に成功した日本だが、現状で言えば、難民問題は次第に大きくなっている。これらは殆ど、水際で追い返しているのが実情だ。これからはともかく、今までは自分たちの余裕が無かったからだ。

 移民に関しても同じで、日本国籍の取得は非常に難しいままだ。日本が魔物に襲われて壊滅状態になっていた時は一切近寄ろうとせず、経済的に復興し始めた途端、手の平返しで擦り寄って来られても……という事だ。


 日本は、あっという間に平和を取り戻した。第二次大戦、敗戦直後よりも酷い、物理的に、経済的に痛んでいた所からの復活。諸外国は、その奇跡を、口を開けて見ているしかなかった。


 この辺の世界情勢の解析はうちの大学の迷宮学部のレポートが本当に詳しい。さすが世界に通用する京北大学。付属とは言え高校生でもこの辺の情報を図書館で普通に閲覧できるのはありがたい。

 

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