028:救世主

「こ、この、水……いや、この術は……というか、あ、貴方の魔術は」

 

 うん、甲田さんなら判るか。だよねぇ。そうだねぇ。感知できるよなぁ。成り行きだったけど、イロイロ見せちゃったし。

 水を生み出す……という術は、他にも使える探索者がいるだけに分かりやすく比較しやすい。まあ、多分……ここまでハッキリした……生活に密着してるかのような「普通」の魔術は……多分、見たことが無かったハズだ。


「じ、じ、じふゎじぶんの、ま、まじゅちゅ、つい、ついては、と、とりあ、え、な、ない、内緒と、と、い、いう、こと、でで」

「それは当然。理解致しました。何故、貴方が、自らの力を隠したいのか」


 あ、あれ? 何かさっきまでと口調が違う様な。あれ? どうしたんだ? これ。


「約束は厳守致します。私の持つ全財産も献上致しましょう。ですから、ですから一つお願いがございます」


 ざざっ! と音が聞こえた気がした。が、がーん……いきなりの土下座……。そ、そう来たか。というか、何がどうなってそうなるのか。

 どうやって言い訳しようかと思っていただけに、こいつは予想外の展開過ぎる。えーと、なんだおい、どうすれば。シナリオ分岐的にどの方向に進んでいるのか?


「いえ、願いが叶うのなら、我が命、我が生涯を捧げましょう。いきなりの請願、無礼は重々承知で、お願い申し上げます」


 そう言ったきり、まさにThe土下座。顔を上げない。


 取りあえず話を聞くことを約束して、まずは事後処理を済まそう。


(まずは、処理をします)


 何か突然の展開に焦ってしまって、折角パーティ会話だとちゃんと会話ができることに気付いたのに、通常会話で話してしまった。この後はパーティ会話だ、パーティ会話。


 今、ここには真紅狂熊レッドマッドベアの死体と、散々引き千切られ、喰い散らかされた二人の日本人の遺体が存在する。


 まず。レッドの死体はそのまま、保存庫に収納する。コイツは未確認の新種だが、丸々は迷宮局の討伐部情報課には引き渡せない。高額買い取り間違い無しなんだけど、どうやって倒したのかを検証されはじめるとイロイロと面倒なことになるからだ。

 右手を……切り落とし……後でこれを提出して、鑑定してもらうことになると思う。迷宮初心者が剥ぎ取りを上手くできずに、本体を迷宮に回収されてしまうのはよくある話だし。


 残りは全部、とりあえずしまっておく。残念だけど魔石の即換金はお預けだ。多分、結構お高く買ってもらえると思うんだけどね。


「鉄塊」「黒刃」の遺体は。


 腕から腕輪を回収する。急ぎであればこれだけでもいいが、今は周りに敵もいない。めぼしい装備を回収し、便利袋に詰める。

 便利袋は超強化なんちゃらポリマー製で薄いのに破れない、名前の通り便利なヤツだ。腕輪の機能である保存庫にあまりモノが入らない(魔力の多寡によって変化するため)探索者にとって、魔物の素材を集めたり、採取時なんかに非常にありがたい。通称:探索者ゴミ袋。


 ヤツラの肉体は……まあ、じきに迷宮が吞みこむだろう。その証拠に、既に、俺が最初に倒したマッドノームたちの死体は全く見あたらない。


 とりあえず、これら事後処理によって……上位とはいえ、探索者2名が未確認新種の魔物に不意に襲われ、奮闘するも惜敗。ランキング下位の俺たち二人を庇うように惨殺され喰われた。ただ、かなり弱っていたのもあって、俺たちは必死でその弱点を攻め続け、なんとかヤツを倒すことが出来た。という物語を生み出すことに成功した。


 かなり胡散臭いし、さらに裏を知ってる偽勇者一味からしたら「あり得ない」ということでこちらを疑うことになるだろうけど、まあ、そんなのはどうでもいいか? 幾ら強くても、ヤツは勇者ではなく、偽であって、さらにあんな部下しかいないところをみると、その強さもそこまでではないのではないか? と思えてくる。


 で。だ。うーん。これはどうすればいいのだろうか。事後処理あとしまつが終了しても甲田さんの土下座は、そのままだった。なんなら、さっきよりも力が入っている気もする。なんだ。何があったのか。

 というか……こういう命がけで願いを請う人……久々に見た気がする。ああ。うん。俺も……多分、どちらかといえば、土下座をする側の人間だったわけで、流れ的に放っておくことはできないだろう。と思う。


(話してみて。そんな真剣な願いに対して何ができるか判らないけど、考え無しに断ったりしないから)


 土下座は動かない。が。


「私の幼なじみに的場宗一という探索者が……います」


 偽勇者と同じ下の名前を持つ的場宗一さん。甲田さんの願いは親友の回復。あの悪者二人が言っていた、痛めつけられて病院から身動き取れなくなった探索者だそうだ。ああ、そういえばいたな……的場宗一……ランキングで100位近辺をウロウロしていたハズだ。特に目立つ要素……特徴とか悪い噂とかもなかったので、深く気にしていなかったが。最近リストで見かけなかったのは怪我で入院していたのか。

 的場宗一、彼は非常に正義感が強く、以前から何かと偽勇者一味と対立していたらしい。おお、そうか、偽勇者悪者決定か。うん、いいぞ。さらに、彼の妹も探索者なのだが、それを偽勇者が気に入って、なんとか口説き落とそうと何度もちょっかいを掛けてきていたそうだ。それを無碍にされたのも理由の一つだという。


 彼が、ヤツラにされたのは物理的な怪我。そして、しばらく何か術を使われたことによって、回復魔術でも治りにくくされたのだという。ちなみに、証拠は無い。何らかの罠だったんじゃないか? と、的場さん自身が思っているというだけだ。

 とはいえ、探索者のダメージ回復、治癒率は地上よりも高い。偽勇者側は当然として、怪我を負わされた本人も嫌がらせ程度の感覚であり、当初はさほど重大な事と考えていなかったそうだ。

 駆けつけた甲田さんたちによって、迷宮内で魔術による回復が行われ、安静にするという名目で地上の病院に入院した。が、その際に、粉砕骨折した手足の骨の欠片の一部が、体内、血管に侵入。それが幾つかの部位で悪さをしているらしい。場所によっては今後手術で処理出来るモノもあるのだが、一番ヤバイのが心臓付近の欠片で、摘出手術もできない状態でいつ死んでもおかしく無い爆弾を抱えているのと一緒状態なのだという……。


 なので、なんとか一部欠損はあるものの車椅子での日常生活が可能……となりかけたのだが、再度絶対安静、ベッドから動かせない状態にあるそうだ。


 話を聞くとなんか、近代医学でどうにかできそうな気がするのだが……。


「暴行後、迷宮にしばらく放置されたことによって、肉体が変に回復してしまった部分があって、癒着がおかしいことになっているのだそうです。なので一筋縄ではいかなくなっていて……」


 ああ、的場さんは自己回復系のギフト持ちか。自覚無く使えていたのだとすれば常に発動し続けてるタイプ。この手の「内部に異物が残っている」場合、確かに逆効果になる事がある。骨が骨で無くなってしまっているのだろう。

 さらに、通常の病院で、何かを治療するにしても、迷宮帰りの特殊事情を鑑みて、保険が利かない高額医療になってしまうのだという。まあ、それも聞いたことがある。外の医者で治さなくても、迷宮で魔術で治療すれば一瞬で治ってしまうので「迷宮での傷」と言った時点で、何かあっては困ると高額治療コースに変更されてしまうと。


「しかし、しかし……貴方様の術、魔術であれば……いえ、先ほどの術は我々の知る魔術とは大きく違う……どちらかといえば、魔道具の魔力というか……ああ、いえ、良く判らないのですが、なんというか……澄んだ魔力というか。アレであれば宗一を助けられるのでは無いか、と」


 ああ、うん、まあ、理由はわかった。うーんと。えーと。ちょっとそんな噂のある彼にそれを聞くのは違うのかもだけど。でも。


(なぜ、そこまでして彼を助けたい?)


「彼は……私のヒーローでした。幼い頃からこんな容姿だった自分は常に虐められっ子で、宗一はいつも助けてくれました。ですが、そんな彼は実生活で非常にツキが悪く。兄妹が多い上に、御両親を中学生の頃に失っていますし、探索者としても苦労続きで。さらに今回の仕打ち。彼はこんな目にあって、こんな人生を過ごすことになってしまって良い人ではないのです。せめて私と、私の様なお金のためにイロイロと汚いことに手を染めてきた人間と入れ替わってでも、幸せに、お日様の下で生きる権利がある人なのです。おべがいじばう……がれを、かれをすぐって、すくってあげて、くだあい……」


 最後の方は既に号泣と混ざり合ってしまって何を言っているのか良く判らなかった。が。うん。「恋人なんです」とか「好きなんです……」なんてセリフが出てこなくて良かった。

 別に自分と属性が違う人を差別する気にはならないけど、こちとら社会生活の少ない高校生。直接は触れあったことないし、あまり聞いたことがないからね。うん。ビックリしちゃいそうだったからさ。


 現代医学が匙を投げた患者を治しちゃうのかぁ……ってまあ、迷宮がもてはやされているのはそういう所だしな。全般的に。医療に関しても、迷宮での病気治療とか、魔術治癒とか、まあ、イロイロと言われ始めているし。


 ただ、一番の問題は、現在彼は迷宮外の普通の病院に入院中……ということか。

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