024:表と闇の差

「おいおい、引きっぱなしってのは無しだろう。つまらん」

「賢いですよ、我々二人に対して手練れの方は手負い。彼がルーキーにしてはやるとしても、隙を付くしか手は無いでしょう」


 甲田さんは傷を庇う様に俺の脇で黒刃をいなす。そうなると、俺の相手は必然、戦鎚なのだが、こいつの速度はそこまでではなかった。

 いや、ここ最近の格上との戦いで、レベルが大きく上がったのかもしれない。これなら、熊の方がまだ脅威だったな。フェイントとはまた違った余計な動きが、此方に余裕を与えてくれる。


「貴方、何者ですか?」


 守勢に回った甲田さんを攻めあぐねながらも、まだ余裕のある黒刃が此方の戦闘を伺う。


ぷっ


「くくく、ランキング54位と58位が揃っていて私と同じ感想ですか。情けない。分析能力は二人で89位以下とは。勇者様も不出来な部下を持つと苦労されるな」

「ちいっ」


 黒刃の構えが若干崩れた。苛つきなのか、戸惑いなのか。しかし……未熟。何故この程度の事でグラつくのか。戦闘中だぞ?

 腕前からしてレベルはそこそこ高いハズだ。鍛えてはいる。と思う。未熟なのは主に精神部分だ。確かにこれなら甲田さんの方がよっぽど安定していたし、戦い辛かった。

 ああ、そうか。


(か、彼、彼らのや、や、やみ、闇ランク、は、は?)

(さあ? 参加したことがあるかも分からないし、私より上という事は無いです)


 まあ、そんなもんか。探索者の表のランキングはランキング戦の結果に加えて迷宮局への貢献度で決まる。自分よりも弱い魔物を刈り続けていても、それが迷宮局に必要だと認められたら、確実に上がっていく。

 ランキング戦に参加していない探索者が上位ランクにいる何てこともよくあるのだ。それこそ、後衛、魔術士系の探索者は、前衛メインでルールが考えられているランキング戦には、ほぼ参加していない。


 残念な事に、それ以外に実力を計る物差しは無い。この世界にはレベルステータスの表示される、測定の水晶または、類似の魔道具が存在しないからだ。迷宮の宝箱からも発見されていない。当然、作れないかと研究はされているみたいだが、未だに産声は聞こえてこない。


(そ、そろ、そろ)


 言うなり、さり気なく、小さな球……BB弾位の大きさの球だ。を剣を握る手の裏に仕込む。甲田さんが「黒刃」の視線を潰す様に体を入れ替えてくれた瞬間に、「鉄塊」のブーツにそれを叩きつける。

 探索者の履く靴、ブーツは、大抵、安全靴と同じように固い素材で出来ているので、あの程度の球が当たったくらいじゃ何も感じない。


 ブーツに当たった球は簡単に破裂し中の透明な液体が染みこむ。そこまでは見た。


 強い風が吹いた。吹いたというか、吹き付けた。


 そして、それは一瞬にして、まさにあっという間に、さっきまで俺たちが戦っていた広間を陵辱した。


 多分、俺以外は何が起こったか分かっていないハズだ。探索者たる者、彼らには大前提を忘れてもらっちゃ困る。


 俺たちが戦っていた広間。元々は、俺がマッドノームさんたちと、激戦を繰り広げていた場所である。薄明るく視界が広がっていたのも、俺が出力を落として生み出した、迷宮に良くある発光石に模した光の魔術だ。

 因みに、暗闇階層の俺が移動した後には尽くこの術が置いてある。それは当然、ワザと置かなかった広間もあるし、目立つ様にかなり明るいモノを置いた所もある。光は効率重視で生み出したので、残留魔力で2〜3日は保たれる。


 暗闇に浮かぶ道標。暗視能力が無ければ、大抵の探索者、例え何処かのエージェント、手の者でも、それを追いかけてしまう。必然的にこちらの思うように誘導が可能だ。あの二人はパーティメンバーだった甲田さんのポジションを頼りに進んで来たと思うが、途中で迷ったり、寄り道したりしていないと思う。「黒刃」はなんとなく気にしているかもしれないが、ものすごく楽に着いた、位なものだろう。


 何故そんなことをするのかと言えば。まさに、こういうときのためだ。


 ここ数日で、巻き込まれすぎている。最初は誰かに仕組まれたのかと思ったが、俺を狙う流れが、お漏らし女に関係あると仮定すると、色々と納得はいく。バトルジャンキーの件は……多分、あのバカの単独犯、習性だろう。生理的に受け入れにくいが。


 やばいことに巻き込まれている、高校生の駆け出し探索者が、何も準備せずに、迷宮に通う……「子供が何か対策を取れるはずがない」と大人が思うのは勝手だが、ここまで狙われてて、何もせずに、毎日迷宮に顔を出す初心者って言うのはどうなんだろうか? 少なくともそんな大人の望む子供であれば、ただただ考え無しだろうし、考え無しに免許を交付してはいけないし、何よりも、そんなん、すぐ死ぬ。


 迷宮では大人も子供も無い。全ての探索者に平等だ。


 当たり前だが、問題を解決するために、ワザと迷宮に通い続けているのだし、トラブルの迷宮外での対処も勉強したいなぁと思って爺ちゃんたちには、手出し無用としてもらっている。なりふり構わない理由があれば、動いてもらっていただろう。そうすれば、あっという間に謎は解け、解決していたと思うし。


 で。そんな俺からのサプライズ。喜んでいただけたかな? どうかな?

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