023:江戸っ子ロングソード

 さて、そんな日本刀と違い武器として完全に死んでいたロングソード等の西洋武器。それを武器として「使い物」になるようにしたのが、日本の、さらに東京の中小企業、町工場の人々だ。迷宮は、当初、東京特有の事象と思われていたので、地元では、武器の増産は切実な問題だったのだ。


 なので、西洋武器は外見だけは旧来のままだが、中身は合理的で、柄の部分や、鍔、ヒルトなんて、取り外し可能、組み立てネジ止め式な物も多い。その方が整備点検し易いからだ。当然、替え刃も可能だ。探索者の実状、現実に即したモノでもあり、懐事情にも配慮されていた。


 と、まあ、俺がここまで詳しいのは……いつもの様に雑誌知識ではない。


 西洋武器の研究開発を手掛けた日本の中小企業が世界の迷宮、探索者相手に奮闘するドラマ、「江戸っ子ロングソード」を何度も見たからだ。特に大手企業の新金属製の新商品に対抗して、まずは技術で立ち向かったが、それを物量で潰されそうになる。その時、以前、タダ同然でロングソードを売った駆け出しの探索者が、ふと持ち込んだ、妖精鉱石フェアリライト。これによって、状況が一変する……あの定番の胸アツ展開がたまらない。


 今では世界の「西洋武器」市場の30%を日本の中小企業が占めている。まあ、迷宮装備市場の90%は日本企業の独占状態なのだが。特に新金属と既存金属の合成部門は、迷宮攻略と密接な関係にある。他国が金に飽かせて企業や職人から技術を手に入れたとしても、新金属は手に入らない。日本から発せられる論文等から理論は理解できても、実践には至らない。


 その理由は。


 オークションなどで自由に売買できる……となっているし、実際にそうしてもいいのだが、迷宮産アイテムは迷宮局によって厳密に管理されている。多くの探索者を囲い日本で大規模な研究を行うのは、不可能に近い。


 では小規模ならどうか? 研究施設を日本に置かなければどうにかな……ならない。


 迷宮から出現したアイテムは、その迷宮から30㎞程度離れると十分位で溶ける様に消えてしまうからだ。


 ただ、アイテム(素材)を加工、精製してしまえば別だ。分子レベルで……なんてレベルではなく、何か一つ此方の世界での役割を付加してやるのが大切らしい。

 なので、素材自体を海外に持ち出せない、加工品は持ち出せても、既に加工済みのアイテムから元には戻せない。リバースエンジニアリング不可。これは厳しい。

 まあ、実際の所は迷宮素材の精製の難易度は非常に高く……失敗するととんでもないことになるので日本でやるしか無いのだが。


 個人的には、魔力の乏しい世界では、迷宮アイテムが存在意義、自意識を保てず、内部から崩壊するのだろうと思っている。


 これが、日本が、迷宮産業に於いて他国に先駆けていられる理由の一つだ。そして、製造加工業は我が国民性に非常にマッチしている。その部分単体で勝負してくる国が存在しないのが、大きな証拠だ。


 ああ、大好きなドラマ絡みで、大きく話が逸れた。取り敢えず現時点で判っていること、結論としては、日本刀、ロングソードなんていう、武器種の話ではなく。


 名人や一流技術者の手間と技、そして魂のこもった装備が「迷宮では殊の外強くなる」となっている。


 つまり、例外もあるものの、鍛冶師によって魂が込められにくい鋳造のロングソードは、数打ちの日本刀よりも格は低くなるのも仕方ないのだ。


 まあ、そんなこんなで。戦鎚もいやだが、黒刃なんてもっての外。遠慮したい。というか、54位と58位なんて、ランキング上位者と対戦なんてあり得ない。俺なんて当然だけどランキング圏外、測定不能の雑魚なんだから。何よりも面倒くさい。奴ら、技量もそこそこあるっぽいからなー。

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