022:日本刀と西洋剣

 鍛造、鋳造、削り出し、練成、合成……迷宮で必要とされるようになってから、近接用の武器はかつて無いほどに様々な試行錯誤が繰り返されて進化している。迷宮技術革命と言っても良いかもしれない。


 そんな中、迷宮で武器として非常に高性能だったのが、日本刀だった。迷宮では、所謂過去に名刀と言われていた日本刀が特に秀でていた。


 理由は今もはっきりしていない。名人が命を賭して作ったので魂がこもっているからなんて、良く言われている。


 日本刀は、長くなったナイフとでもいうような使われ方をしてきた。刀同士で打ち合うのは時代劇、チャンバラ、殺陣の世界だけだ(ああ、幕末という狂気の時期は刀が潰れることを前提にしていたかもしれないので抜かす)。

 そりゃいざという時には当たってしまう事もあっただろうが、刀身の美しさも愛した日本人にとって、刀同士をぶつけ合うのはあり得なかったし、そうならないように技が磨かれて来たのだ。


 つまり。日本刀は本来、他の金属製の武器と打ち合えない仕様なのだ。いくら、鍛造技術が粘り強く折れにくい刀身を生み出しても、同じ金属製の棒に当たれば、簡単に刃は欠け、刀身は捻れ曲がり、折れる。


 迷宮出現後、警察特殊部隊、及び、自衛隊に多大な犠牲を強いて確認された重大な真実。

 迷宮内では銃火器等の現代兵器が使用できず、剣や弓などの「人力主導による」武器しか有効な攻撃手段がない。これはもう、現在も変わらない、迷宮のルールのひとつだ。


 だが。迷宮探索初期は、当然、日本刀が実戦投入される事は無かった。値段がかなりお高いし、手入れも大変だ。というか、そもそも、実用可能な本身の刀……が存在しなかった。当時は刀は芸術品であり、許可の無い単純所持も銃刀法違反だったのだから。


 迷宮初期、実戦では最もシンプルで武骨な鈍器や、槍の様な長物の方がコスパ良く安全に使えると思われていたのだ。

 その傾向は数年続いたが、探索者制度がキチンと制定された位から、迷宮に、日本刀を持ち込んで活躍する剣道、剣術経験者が増加した。彼らの中で「日本刀最強説」が捨てきれなかったのもあるが、実際に迷宮での実戦で異様に強いのだから「少々金が掛かっても」仕方ない、というジワッとした流れもあったようだ。

 さらに「剣豪」目加田真司郎の活躍も大きかった。元々は学生剣道の日本一から、探索者となった彼は、ランキングを上げ迷宮無念流を起こした。それがメディアに取り上げられ、大きく認知される事になる。当然、日本刀最強説論者たちは挙って入門し、業界に日本刀ブームが到来。剣道経験者の多くが次々と探索者となったそうだ。


 西洋の剣や剣技は剣同士、剣と盾で打ち合う事を「ある程度」前提にしている。そのため、打ち負けない強度と質量が必要になるのだ。

 にも関わらず、奴の「黒刃」とまともに打ち合えば、俺の「切断」君はぼろぼろにされるだろう。日本刀とロングソード、形状も、そもそもの質量が違うにも関わらず、だ。


 迷宮出現以前に本物の、生粋の、中世から伝わる技術を継承した西洋武器職人など、本場EU圏にもほぼ存在しなかった。当たり前だ。サーベルの様な儀礼などで使用されていた軍用装備ですら、一部の保護された鍛冶工場で作られているに過ぎなかったのだ。中にはそれらの鍛冶に携わる者が、趣味で製作したことはあったかもしれない。だが、実際に使用可能な業物と言えるロングソードの製法は文献以外ほぼ失われていたのだ。

 とはいっても。本物が作られ、使われていた時代は、反射炉すら無かった。剣は、鋭利な青銅や鉄の細い板でしか無く、それ以上ではなかった。

 人に使いやすい形にするため、溶かせない鉄の棒を熱して、叩き、形を整え、刃を磨いだ物でしか無かったのだ。

 それは鍛造と言うには余りにお粗末で、乱暴に扱われる事もあってか、ほとんどが、あっという間に錆落ち、朽ちて失われていった。


 そして、溶鉱炉の改善が行われ、鉄を溶かす事が可能になり、高性能の鉄で、様々な鋳物が造れる様になった頃には、剣は武器界の標準装備では無くなっていた。産業革命に向けて市場形態も大きく変化する。身分制度や職人ギルドが消え、国の概念が変わっていった。金にならない技術の継承など行われなくて当然だろう。


 西洋で、いち早く様々な銃器が進化する事になったのは誰もが知る事実である。


 ということで、迷宮以前の鑑賞用ロングソードは、鋳造され切り出された金属の平棒をグラインダーで削り出して作られていた。刀とは比べものにならない、あくまで鑑賞用の装飾品。武器ではない。


 そもそも、千年以上前の伝統技術を現代でもほぼほぼ継承し、廃刀令、戦中の金属供出、戦後GHQの刀狩り、厳しい銃刀法違反……授業で習う部分だけでもこれだけ厳しい状況を乗り越え。それでも日本刀を武器として生産し続けていた、日本という国が「異常」なのだ。

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