019:堅牢

「君……苛つきますね」


 まあ、そうだろう。ヤツの様な回転で攻撃力を稼ぐタイプは、圧倒的な速さで、既に仕留めてなければいけない時間だ。俺の様な雑魚にこんな手間を……と、思っちゃうんだろうな。


「ふむ。修正しましょう。君は受け身、回避だけであれば、一流。その実力は探索者免許を一カ月前に取得した、初心者マーク付きのペーぺーではないわけだ」


 うわっ。仕切り直しやがった。くそ、さすが、腐っててもランカー。気持ちの切り替え早ぇ。


「何か上手いこと罠で仕留めたんだと思っていましたが。彼らが為す術なくやられるはずだ。10級? 十六歳? 間違いなくランカーレベルじゃないですか。日本はまだまだ広いということですね」


 そうか、聞いてないのか。じいちゃんとか家の事とかは。ということはコイツ、捨て駒として良いように使われてるだけだな。


「ゲイショタ」の剣が角度を付けて、さらに複雑な動きを加えてくる。このためのカットラスっ! 形状の複雑な剣は、俺の剣を絡め取ろうとしてくる。


 剣の強度的には確実に、ロングソードの方が分厚く固い。その分重いのだから、当然だろう。美味いことやらないと剣速も遅くなる。なので、片手武器の使い手は両手武器と戦う際には、盾を巧く使うか、スピードで避ける事になる。


 その剣は、それらの一般的な戦法、剣法とひと味違っていた。


 まず、ヤツは、俺の一撃、ロングソードの一撃を片手剣で受け止める。前述した通り、物理法則的に受け止められるはずがないのだ。質量差は如何ともしがたい。だが、避けるだけでなく、受け止める。たったこれだけだが、大きく違う。そうして出来た隙間に、トンファーを無造作に振り切る。

 さらに、切り替えて以来、ロングソードを受け止めた後に、カットラスが余計にしなり、たわむようになっている。

 撃ち合った直後に、嫌らしい粘りを感じるのだ。これは、俺の事をどうこう言う資格は無いと思う。本当の意味で対戦相手を苛つかせるのは、こういう戦い方だろう。ワンテンポの半分の半分の半分。格闘ゲームとかでいえば、数フレームのズレ。これは少しずつ蓄積し、苛つき、焦りとなる。さらにそれらが結びついて集中力を低下させる。


 長い腕、それに伴うしなやかな筋肉。広背筋まで稼働させた、身体全体で行う衝撃吸収。さらに、衝撃吸収しながらの武器へのチョッカイ。その動きの尽く全てがお構いなしで気持ち悪い。正直、尊敬すべき凄まじいテクニックであるにも関わらず、だ。

 この手の卓越した剣の技術は、舞と称されることもある様に、すべからく美しく、儚く、鋭い。研ぎ澄まされた技の逃れられない運命とでも言うべきか。

 だが、目の前の剣技は部分部分はその辺を捨てる所から始めたのだろう。情けない、みっともないと言われながらも、重ねた鍛錬が滲み出ている。


 その結果。こうしてトータルで見ると美しく見えるから不思議だ。パーツは見にくくても、組み合わさり方が卓越していれば、総合的には美的感覚すら超越するのかもしれない。


 ああ、「ゲイショタ」……いや、目の前の武芸者は何らかの辛かった日々を訓練に、鍛錬に全て注ぎ込んだのだ。変態だけれども。


「くっ……何を」


 まあ、でも。速さと技術に特化した結果。持久力は相反する。迷宮のせいでレベルアップしているからこそ、この細い腕にここまでの無理をさせても「耐えられて」いるのだ。

 俺とのレベル差が何十倍もあれば、どうにかなったかもしれないが、既にこの辺のトップ探索者たちとのレベルに二倍差は無いとみている。

 

 そもそも俺は、幼少時、独力でレベル上げをしていた。魔力総量アップはその頃から心がけている。

 そのおかげで魔力の存在が感じ取れる場所=迷宮なら、最初から全属性の基礎魔術を扱えた。それは、基本的な能力の底上げにも関係してくる。戦闘開始時から、全力でいくのが彼のやり方らしいが、俺は違う。というか、迷宮での俺は違う。

 現時点では必殺技の様な強力な一撃が繰り出せないからこその苦肉の策なんだけどね。それこそ、顎を貫くストレートパンチで、一発KOとか格好いいけど。そんな、急所らしい急所なんてこのレベルの相手が触らせてくれるわけがない。


 ということで、豊富な魔力総量を惜しみに無く使い、基礎魔術の中でも肉体強化系の術全種を少しずつ使い続ける。

 基本的な能力を底上げし、長期戦に持ち込む。徐々に魔力を多くし、自分も気持ちを上げていく。


 このやり方なら、一撃で意識を刈り取られなければ、まあ、どうにかなる。多分。これまで魔物相手にはどうにかなってきた。

 多分、探索者にこの手の長期戦を好む者が少ないからか(地味だしね)、何か奥の手が隠されてるんじゃないかと勘ぐってくれるんハズだ。

 

 というか、そもそも、付与系というか、強化系の魔術……あまり使われていないんじゃ無いだろうか? 前衛系の魔力持ち、さらに魔術の素質持ちが、火事場のバカ力的なスキルと勘違いして、なんとなくは使っている気がする。


 が。体系立った強化付与術の解析は「まだ」行われていないハズだ。


 さらに幾ら高レベル探索者でも長時間ラッシュを仕掛ければ、疲れ、動きが鈍くなる。


 まあ、鈍くなるといっても、若干、行動が荒くなる程度なのだが。


 それで十分だ。


ジッ!


 擦れるような音が聞こえた。彼の装備している防具……篭手と腕ガードの隙間にロングソードが入り込み、左腕、肘の上側に浅く切れ込みを入れた。

 一瞬の間。当然、大量の血が流れ出した。赤……いや、迷宮洞窟の薄暗い広間では黒い液体が流れ落ちているようにしか見えない。


「はっ! はは! こんなにアッサリ、切れ込みを入れられたのなんて何時ぶりだろうか? それほどか!」


 荒くなっていた行動が、一瞬で正される。そしてその瞬間、仕掛けてくる。


 ああ、スゴい、この期に及んでまだ、自分がやられた隙を分析し、戦闘中に修正を行って、さらに仕掛けてきたのだ。放置しておけば、失血死しておかしくないくらい深く、刃は食い込んだ。


 それでもなお、挑み向かって来るというのなら、こちらも受けて立とう。さらに強固に魔術を強化し、細心の注意を払って、攻撃を受け止める。


 一見ラフになった様に見えるが、あれは巧妙な、誘いだ。重傷を負わせた俺が、ここぞと攻め押す事を想定して、罠を張っているのだ。まがいなりにも「裏」ランク49位。ここからの返し技が無いわけがない。


「君は……つまらない……いや、老練にして厳正、臆病で慎重、故に頑強にして堅牢。私の今の実力では疵一つ付けることも出来ませんか。本当につまらない」


 冷静であろうとしている。失われる血液。不自由になりつつある身体を精神力で押さえ付けて。


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