017:教習所

 次の日。授業が午前中で終わり、巣鴨迷宮へ向かった。指名依頼となってしまったので、さほど稼げていない。そもそも、ロングソードを新調したのは、さらに強くなるためだ。鍛錬が自分内ノルマに全く届いてないなー。迷宮に慣れる作業も足りていないし。


 実際、俺はまだまだ弱い。長年の鍛錬と、じいちゃんたちの稽古のおかげで外の世界ではそこそこな実力が付いていると思う。


 そこそこ? なんて言ったら失礼か。不意打ち、殺人、なんでもあり、生き抜くという闘いなら、日本全体で百位以内には入ってるんじゃないだろうか? 判らんけど。裏世界の実力者とか漫画っぽいが、決して表に出せない戦いの技はそれなりに覚えているし、使える。


 が、迷宮では、そんな強さはクソの役にも立たない。迷宮内なら、こないだは初見殺しで何とかなった「鬼斬」にもイロイロと手を尽くさなければ、あっさり力負けするハズだ。奴が同じ手を喰らうはずがないし。多分、こないだの薬も……ヤツのレベルだと耐性が高くて効果が発揮されない気がする。


 まあ、探索者としての強さ、純粋に経験値、熟練度、さらに魔力のある世界への馴致訓練が足りないのだ。


 俺の誕生日は7/7。試験休み〜夏休み中盤を使って迷宮免許教習所に通い、10級免許を取得した。


 自動車普通免許の数十倍難しいと言われている迷宮免許の取得のための教習授業は、コマ数……えーと、取得しないといけない実技単位は100存在する。一日に受けられる実技教習は最大4コマ=4時間のため、最短でも25日かかるのだ。しかもこれは、毎授業ごとに合否が存在する。教官に合格の判子をもらえなければ、何度も同じ段階の授業を受けることになるのだ。ちなみに、授業の合否判定の確立は平均で3割を切る。特に武闘系の授業はかなりの経験者というか、黒帯や段持ちでも、初見合格は難しいと言われている。

 ちなみに学科単位も100あるが、一日の制限が無い上に、合否がない、授業を受ければ良いだけなので、こちらは実技に比べれば超楽ちんだった。


 俺の通ったKEIHOKU迷宮免許スクールの最短卒業記録を更新し、その後の学科試験も一発合格だったため、授業料と試験料が免除された。教習所から優秀生徒認定されたのだ。

 迷宮免許教習所の授業料は大体100万円。こいつは大きい。前納で納めてたので、貸してくれたじいちゃんに即返した。

 教官が言っていたが、教習所代が100万円というのは破格なんだそうだ。実際、真面目に運営している教習所には、支援助成金が倍以上入るらしい。合格者が出るとさらにボーナス的な補助金もあるという。


 試験料として三千円、免許取得時にはさらに十万円かかる。これも教習所が出してくれた。探索腕輪代なんだそうだ。この性能の魔道具として考えれば、破格値で、もしも普通に売れば、一億円は固い! と、これまた雑誌にかいてあった。


 うん、まあ、確かに、身分証明だけでなく、行動記録に、保存庫まで付いてるからなぁ。安いか。


 そもそも、迷宮での経験を探索者の身体にフィードバックしてくれるのがこの腕輪なのだ。簡単に言えば、腕輪をしないで迷宮に入り、魔物を倒しても、経験値は入手できない。

 スキルや熟練度の測定方法が存在しないので詳細の確認はできないが、迷宮で戦ううちに、魔力に身体が適応し、熟練度の項目が生えたり、経験値でレベルが上がり、成長しているハズだ。

 教習所や探索者に成り立てのうちは、イロイロと迷い、試してみる事になる。特に魔術は、大元になる魔力が、迷宮で鍛えないと増加しない。なので探索者になって1年くらい経過すると、魔術の適正がないか、再度、教習所に通ったりする。

 本当の探索者として、一人前として認められるのは、魔力の判定を踏まえた、自分の能力に合わせた役割を認識してからと言われている(これまたエクマガ調べ)。


 足立の免許センターで学科試験に合格し、正式に免許が交付されたのは8/18。そこから、迷宮三昧、迷宮中心の生活を送っている。

 今日は9/24。本当なら一カ月ちょいで強いの強くないの言うこと自体がおかしいのだ。だが。鮮明に残る自分の影が、足りない、足りないと叫び続けている。


 あの頃ですら、さっぱり足りていなかったのに、それにすら届いてないもどかしさ。


 迷宮内の懐かしい空気を吸い込む度に、焦燥が身を焦がす。


 厨二病的な、ハードボイルド風味で思考してみたが、前向きに何かが変わることもなかった。笑。焦ったところでどうにも出来ないのはわかっているので、出来ることから初めていかないとなんだろうけど。うん。


 ということで、やっとこのロングソードにも慣れてきたということで、指名依頼をこなしつつ、先へ進む事にした。


 現時点での俺の最高到達層は、第13階層。通称、地蔵洞窟の3階層めだ。無理をすればもっと深くまで潜れるのかもしれないが……ソロ活動は石に躓いても命を落とす。


 まあ、第25階層以降で出現する黒毛狂熊マッドベアを無傷で倒せたのは、奴が単体行動を取っていたからだ。他に余計な奴……それこそ巣鴨最弱の魔物、リトルクロウラーが数匹でもつるんでいたら、俺はお漏らしさんたちを助けることができなかっただろう。


 タイマン限定とはいえ、自分の能力の限界を把握出来たのはよかったのだが。


 巣鴨迷宮の第11階層から、15階層までは通称通り、洞窟が続く。そこそこ……体育館くらいの広さの「広間」と、それを繋ぐ「通路」で構成されている。


 洞窟なので仕方ないのだが、何よりも、暗い。巣鴨迷宮は第10階層までフィールド系ばかりなのでショックを受ける人も多いようだ。ここで、ファッション探索者がスゴスゴと引き返すことになる。

 そもそも巣鴨迷宮は女性を襲う魔物がいないため、女子向けと言われている。さらに、浅い階層には、奪い合いになったりするレアアイテムを落とす魔物も少ないので、ギスギスとした命がけな探索者も比較的いない。女子探索者を差別するつもりは無いが、まあ、特に浅い階層で女子が多いのは事実だ。まあ、大抵が第11階層で探索を終了するようだが。


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