015:影

 巣鴨迷宮の大門をくぐり、出張所で情報を確認する。昨日の喧噪は何処へやら。掲示板には「事件多発。フェイズ4 警戒管理中」の文字か見えた。4か。指定探索者以外立ち入り禁止、侵入禁止令発動だったかな? このフェイズから、迷宮全体への指令となるハズだ。大事だな。

 迷宮は警戒管理中となると、迷宮局の依頼を受けた探索者以外は中に入れなくなってしまう。純粋に本来この迷宮のメインである低級や実力不足の探索者は、追い返されることになるのだ。


 仕方ない、帰るか、と受付にいた……高階様と目が合う。御辞儀され、こちらへ、と、手で招かれる。


「あ、あの、きょう、は」

「お疲れ様です。赤荻様。本日ここにいらっしゃるということは、御助力いただけるということでしょうか?」

「え? あ、あれ、じ、じ、じぶは、じゅっじゆつきゅうでで、は、はい、おねぎあしま」


 ああ! 思い切り噛んだ! 10級とはいえ、迷宮局にはログが渡っている。高階様は課長。課長よりも上の職員は探索者のログ開示閲覧権を所有している。なら、俺の実力は知っていておかしくない。迷宮局の守秘義務は厳重で有名なので、そこは信じるしかないだろう。お漏らしさんに公開を拒否したのは、一般の保険会社にログを漏らしたくないからだ。迷宮の外だと個人情報は簡単に漏洩する。


「優秀な探索者さんは、常に足りておりません。現状、現時点で判っているのは、迷宮の大改編では無いということです。マップ自体が変更されているという情報は入ってきていません。ですが……」

「は、はいちが」

「ええ、新規魔物の確認、魔物の出現位置、配置位置がかなり入れ替わっているようです。それこそ、階層を超えて」

「ほ、ほか、に、あ、浅いとこに、強いの、が?」

「最高が……赤荻様からの報告にあった、3階層に出現した黒毛狂熊マッドベアでしょうか。それ以外はそこまででは無いようです。ですが、結構致命的な結果も多く。現時点で18名の死亡を確認。28名の行方不明者が確認されています。腕輪の個人認証と行動記録ログを元に洗い直したデータですので確実かと」


 フェイズ4で迷宮に入るのは、迷宮局からの指名依頼を受けなければならない。さっきのはそういうことだ。つまり、高階様は10級の俺を認めてくれたということになる。というか、10級に指名依頼……って、聞いたことないぞ。

 まあ、とはいえ。ソロ探索者、しかも高校生の俺に、本格的な調査は依頼されなかった。当然か。高階様に依頼されたのは、低階層の洗い直しだ。

 既に全マップを埋めるように探索者を派遣したのだが、それの漏らしが無いかの再チェックだという。さすが、優秀。こういうのは念には念を入れるのが大事だからね。あと、迷宮のシステムは時間経過も関係している場合があるから、再度調べることで、今回の事件の原因が少しでも掴めればいいわけで。


 男子更衣室に入り、保存庫から装備を取り出して差し替える。この腕輪の最大の能力、保存庫は中に入ってるアイテムを任意の場所に展開することが可能だ。集中して行えば、今みたいに、一瞬で変身、着替えをした様に見える。それこそ、外でも誰かから見られていても問題無い、判らないレベルだ。昔実験で高解像度カメラを使用して撮影してコマ送りしてみたらしいが、一瞬で装備が変更され、下着などは写ってなかったそうだ。

 まあでも出張所には男女別の更衣室兼ロッカールームが用意されている。新人のうちは、保存庫から取り出した装備にここで普通に着替える。この保存庫、容量は魔力に比例するので、最初のうちは装備2~3個しか収納出来ない者もいる。その場合は、ロッカーに預けるのだ。

 出来る上級探索者は出張所の待合室を通過中、一瞬で着替えて探索に向かう。わざわざ更衣室に行かなくても問題無いのだ。まあ、10級なんていう最下級な俺は何かもめたりしないようにコソコソと、わざわざ更衣室へ行って着替えている。変に絡まれると面倒だし。


 いつもの装備。そしてまだ完全には馴れていない新しいロングソード。うん、まあ、とりあえず、あまり人の行かないような場所を虱潰しにしていこうか。

 

 学校を出た所から尾いてきている……ウザい虫たちは、迷宮をしばらく歩くうちに、また後を跡を付け始めたのを確認した。ちょっとビックリ。偉いなぁ。ちゃんと迷宮内で活動出来る様に対応策を構築してあったのは偉いと思う。探索者相手にやり合った過去があると思っていいんじゃないかな?


 が。と、なると、かなり大規模な集団を相手にする……ことになる。もの凄くウザそうだ。実力もそこそこちゃんとしてそうだし。うーん。現在の所近くには寄ってきていないし、監視、観察だろうか? 放置で良いのかなぁ。


 一人……二人……三人か。迷宮の外だと六人での波状追跡だったから、人数は半減している。それでも、スゴイ。探索者の場合、当局に行動がバレバレになってしまう。基本的に怪しい行動が出来ないのだ。今だって、非常事態で迷宮局の依頼でしか中に入れないというのに、外と変わらずに俺を追いかけている。

 つまりは。指名依頼を受けることのできるレベルの探索者を雇うにはかなりのお金が必要になる。または、最初から組織の者を探索者にしたのなら……それなりの年月を経ているハズだ。そのリスクを踏まえた上で、探索者兼務の人員をキープしていると。運営側がお金の使い方も分かってる。優秀だ。

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