012:無いと思う方がバカ

 まあ「迷宮内では火薬、電気が×。エンジンも×。毒ガスも×」と覚えておけば問題無い。日本の高校生は銃を触った事も無いし、スマホもこれから。原付免許も無い。違和感を感じる以前の問題なのだ。


──世界の価値観が変わったポイント、BC、AC以来の歴史の大分岐点……とも言われる十三年前の事件と共に訪れた時流は、生活全般を変化させてしまいました。

「ええ、特に武器は……分かりやすいですね。銃火器以外の個人携行武器を複雑に再進化、再開発させましたから」

──そして様々な新素材が発見されました。

「素材と生産方法、鍛造と鋳造に加え、魔力合成等の革新的な新しい金属加工方法。ファンタジー世界の産物でしかなかったミスリル鉱、アダマンタイト鉱、さらに魔物が討伐時に落とす数多のレア素材。金属だけでなくモノの硬度の概念、仕組み自体が「新発見が常態化」されてしまいました」

──探索者による大航海時代、新素材発見がブームになったくらいです。

「固いのに粘るとか、超固いが百回で砕けるなど、金属だけでなく、新素材が数多く実用化され、マテリアル業界は未だに、数カ月毎に取り扱い素材一覧のジャンルを含めた枠組み自体を書き換え続けていますから」

──今もまだ、それが続いていると。

「そうですね。何よりもそれを一番求めているのは実際に使う探索者たちです。高額であっても、命と引き換えには出来ないため、とにかく使える優秀な武器防具を生み出すことが優先となっています。職人の腕が最も重要な価値となり……職人気質、物作りに対するこだわりに関しては一家言持っているのが我らが日本、そして日本人ですからね。多くの工房が気炎を上げ続けて、今では世界で扱われる迷宮装備の約八割は日本製というのが現状です。特に近接武器の進化は……有り得ないレベルと言って良いでしょう。過去の武器群に外観が似ていても、全くの別物ですね」

──迷宮学界の先駆者、「記録者」にして私立京北大学迷宮学部副学長、専任教授、逢坂今日子氏に聞く、最新迷宮市場! より


 ……なんてインタビューを、今月のエクスプローラーズマガジンで読んだ。


 で。そんな中。近接武器を持ち、正面切って戦うというのが当り前の流れのまま……一騎打ちや決闘などが、いつの間にか探索者の間で行われている。当然、非公式だ。

 今、襲いかかって来ているアレな人は迷宮内外で事情が大きく異なる事を、わざと忘れた、気にしない無視するタイプだろう。

 迷宮の中ならある程度ムチャをしても回復アイテムがあれば、さらに光属性の術ならかなりのムチャも回復できる。高ランクの使い手がいれば、腕を落とされても、すぐであれば問題無くくっつき、修復されてしまうのだから。

 実際、初期にはこの手の私闘、決闘、喧嘩を禁止していた政府側も、迷宮内では警察等の治安機関の介入が間に合わず、どうしても、もめ事は無くならないという現実に気がつき、現在では逆に死人が発生しなければ黙認という方向に傾いている。迷宮局ではさらに、高ランクの決闘を配信などで迷宮側の外の会場で行い、生中継して、それでお金を稼ごうと画策しているという。さすが、ずる賢い。

 あ、因みに迷宮内各階層に交番システムを構築し、セーフゾーンを建設しようとしたこともあった様だ。が、建造物を建て逗留期間が長くなると、原因不明の地割れが生じ、全て飲み込まれてしまったという。それはまるで異物を認めない、生物組織の様だったと生存者は語った……ってコレもエクマガで読んだ。


「ちゃんとこっち向けや」


 ん〜だって打つ手無しだもの。よそ見しながら避けてると若干荒くなるからね。真藤さん。


 そもそも高校生に何を期待しているのか? 無理だって。得物無しで武専に仕掛けるのは。自分でもそれが判って仕掛けて来たんでしょう?

 まあ、ここまでの実力者だもの……こんな風に避けられたことないんだろうなぁ。やだなぁ。なんでこんな絡まれてるんだろうなぁ。厄介なんだよなぁ。諦めないから。この手の人。とはいえ、殺しちゃうわけにはいかないからなぁ。公務員、しかも元警察、いや、警察からの出向組かな? 現迷宮局討伐部討伐課三番隊副長。公的な信用度とか発言力とか完全に上だしな。って普通の高校生が大人に勝てるわけがないし。

 あ。そうか。この人……こんな性格だから、この実力なのに副長なんだな! 判ったぞ! 過去にもいろいろと問題を起こしてるな? 過剰な可愛がりとか、過剰な拘束とか、過剰な手が滑って叩いてしまったとか。アレだ。取調室の可視化で備え付けられたカメラの死角を利用して、さりげないダメージを与えたりしてたんだな? きっと。うん、絶対にそう。決定。


 右から……金属刀が並行にスライド? それまで流れるかのような太刀筋が、一瞬ギクシャクと、タイミングがズレる。ガクッと落ちる。なんだ、その動き。気持ち悪い。しかも、今度は逆! うはっこわっ! 必死でしゃがんで避ける。髪の毛が数本、持って行かれたのを感じた。今の、どこかの流派の奥儀じゃねぇの? 明らかにおかしかったぞ? なんだ? 腕の……いや、持ち手を一瞬だけ逆にしたのか? なんだ? 関節を自分で外した? その軌道。手品か。こんなの通常の剣道、剣術の太刀筋になれちゃってたら、絶対に避けられないじゃねぇか。汚ぇ。

 この金属刀、作りが伸縮する特殊警棒と同じ作りになってるので、鍔が存在しない。なので、無刀の際に敵の武器を持つ手元を狙う技を使おうにも、キッカケが掴みにくい。というか、難しい。その辺判ってるからか、握り手を狙われないように、意識しているし。


 まあ、向こうもいつも使ってる獲物とは違うから、若干不慣れが感じられるので良いんだけど。


「てめえ……何してやがる?」


 あ、ばれた。なーんてね。何もね、出来ないふりだね。ふう……うん。やっと効いてきたかな? 


「くっ」


 真藤さんが膝を付いた。これだけ時間をかけてこの程度か。普通なら末端から、あっという間に痺れて、既に喋る事も出来ないハズなのに。

 スゴいなぁ。幾ら警察鑑識のチェックで検出できないレベルの濃度とはいえ、うち秘伝の麻痺薬が効くのにこんなに時間がかかるなんて……。象か? 恐竜か? というか、探索者……高ランクの探索者には自慢の薬もこの程度と認識しないといけないな~。

 この薬は、迷宮内で魔物にも有効という数少ない種類だ。つまり……どんなに強化された冒険者であっても不用意に吸い込んでしまえば、身動きが不可能になる。


ドッ


 肉体が投げ出される音が響いた。その辺の音は人間も魔物もあまり変わらない。


「では」


 横たわっている「鬼斬」を一瞥し、何もなかった様に歩き出す。


 墓地へ一気に静寂が流れ込み始めた。歩き去る俺の足音。それもすぐに聞こえなくなり、辺りは夜の闇と静寂で塗りつぶされた。……多分。

 


 元々通常の帰宅時間から遅れていたので、じいちゃんとばあちゃんには、かなり怒られた。元武専が相手だったと言ったら、指導員如きに遅れを取るなとさらに怒られた。

 いやいや、現在の迷宮時代、指導員がちゃんと、師範として血を被って戦ってるのよ? さらにさっきの鬼斬クラスは確実に、人を斬ってる。今は一線を越えてるのは、じいちゃんたち闇の住人だけじゃないの。ね? と言いたいところだが……。


「う、うん」


 と頭を下げてシャワーを浴びて、就寝。おやすみなさい。


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