011:墓斬

ガス


 振り切った黒い特殊警棒……いや、アレはもう、刃が付いて無いとはいえ模造刀レベルだな。金属製の木刀。略して金属刀? 重さとか調節されて、刃はないから、必要以上に斬れない様になってる……んだろう。

 金属製とはいえ、木刀と似たような形状の棒で、墓石が斬れるとは思わないよね。うん。俺も。思わない。何だそれ。バカだろ、お前。


「鬼斬」真藤の二つ名、喧嘩屋っていうのも伊達じゃ無かった。まあ、威圧感とかはね。知ってたよ。巣鴨迷宮に巡回で来てた時にね。漏れてたからね。でも太刀筋を見たわけじゃないからさ。うん、予想以上だ。身長は180センチちょいで巨大と言えるほどじゃない。その分小回りは効きそうだ。


 浅い右袈裟、跳ね上げて左袈裟、そしてそのまま戻しモーションキャンセルしたかの様な突き。思い切り殺しに来てるじゃねぇか! 最初から。様子見ろよ! 様子。擦っただけで、普通にそのまま即死コースだぞ、即死。


「こいつらを仕留めた所は見たからな」


 ああ、そういうことか。疑問をあっさり解消、ありがとう。そうね。これくらいしても死なないっていうのは判断済みってことね。いや、それにしたって。バカかっ!


 横胴薙ぎから、手首を返しての斜め斬り上げ、ってさらに首薙ぎか! 首というか、目の辺りに当たれば良いと思って振るったな? もうさ、全部致命傷からの殺しに来てるジャンよ! だから嫌なんだよ。戦闘中毒患者キ○チガイバトルジャンキーの相手は。


 ああ、ムカつくなぁ。というか、こんな面倒くさいことになって……自分自身にムカツクわ。もうちょっと考えないとだろ。そもそも、人助けとはいえ、お漏らしに姿を確認されていることがな。ダメだよな。自分は何をしたいんだか。中途半端なんだろうな。うん。ただ単に死にそうな探索者を助けたかった。のかな? 偉いねぇとか、スゴイねぇとか言われたかったのかな? 探索者なんて面倒くさい仕事だって知ってるのに。目立って良いこと少ないのに。

 で。手段、過程として考えるのなら、一人でやってる自分は、あらゆる意味で常にリスクが高いんだから、安易に人助けなんてしちゃダメなんだよな。多分。だってあの時、黒毛狂熊マッドベアが四匹、五匹出現していたら。ぶっちゃけ結構所か、本気でヤバかっただろうなぁ。戦闘中に使える広域感知能力とか無い訳だから、あそこが常に安全かどうかも良く判らなかったしなぁ。というか、俺の感知能力ってなんで、基本単体にしか使えないんだろうか? 複数相手にすると、情報量が格段に減る。緊張するからなのかな?


「てめぇ……何か違うこと考えてやがるな?」


 あ! バレた。うわ……激おこぷんぷん丸か。って激おこぷんぷん丸って死語で、じいちゃん世代って言ってたな。まあ、いいか。迷宮関係の動画をサーチしているとそんな死語も覚えてしまう。


 って「鬼斬」は青筋ビンビンでもう沸騰間違いなしパターンだ。なんでそんなに戦闘にマジメなんだよ。いいじゃんかよ。余計な事を考えてても。相手してやってるんだから。


 凄まじい勢いで金属刀が空気を斬り裂く。唸りを上げる。多分、一撃喰らっただけで致命傷間違いなしだろう。「鬼斬」の二つ名は伊達じゃない。というか、喧嘩屋とか言ったけど、この人、バリバリの剣道から居合に行った正統派じゃん。どう見ても。特練員……いや、武道小隊、その上の武専、武道専科クラスか。明らかに、荒れた地面での足の捌方が上手い。さっき酷いのの見本を見せられたばかりだからか、格別だ。特練員は剣道とか柔道とか特化だから……機動隊武道小隊で居合……いや、一刀流とか日本刀を使った他流派を学んだ感じか。


「け、警察、も、元、元、き、機動隊が市民を、お、襲うの……ち、ちょっと……」

「ちぃ。それもお見通しかよ」


 踏み込み。深い。縦に振り下ろされる金属刀。実戦に……示現流か? この流れ、連続技の中に組み込んでくるのはどうなのか。ってそうか。警視流木太刀形とか言ったか。その中に示現流入ってたしな。あんな深い振り下ろし、本身だとちょっと踏み込み加減を間違えれば足斬るぞ。


 あーもうなーどうしようかなーこれ、決め手が無いんだよなぁ。だって武器無いもん。素手だぞ、こっち。まさに空手。笑。手をなー出そうとするとなーそりゃもう、断たれちゃうからなー。困ったなー。うーん。あ、当然だけど、腕輪の保存庫は迷宮外では機能しない。

 というか、この墓地、結構な被害だけど……官憲がどうにかしてくれるか。うーん。どうしよう。ここでなぁ……必要以上に頑張ってもなぁ。


 正直、戦闘が長引けば長引くほど、守勢側の「被弾する」確率は上がっていく。命がけの戦闘は格闘ゲームとは大きく違う。今だって一撃喰らったら即死クラスの攻撃がギュンギュン暴力の嵐を形成している。命の取り合いの時点で……瞬殺が当り前なのだ。背後や死角に近づいて、見えない位置から仕留める。それを繰り返していけば多数の魔物と対峙してもどうにかなる。戦う以前、その前の仕込みが勝負を決めるのだから。


 ただ、迷宮での戦闘、特にボスとの戦いは、スキルや魔術が入り交じった長時間戦闘になる場合も多い。多数でボスの敵対心を分担しながら、攻撃を積み重ねていくとか。多数の敵が居る場合は、別働隊を配置するとか。

 なので、この手の格闘ゲーム的な……一騎打ち、決闘、正正堂堂と正面から姿を認め合って戦う……っていうのは、その辺から派生した迷宮文化と言ってもいいのかもしれない。そりゃ、現代以前であれば、名乗りから始まる一騎打ちは重要な意味を持っていただろう。だが、近代戦闘文化……では銃がメインとなり、公的な部分でそれは排除された。

 だがしかし。迷宮内では銃は使えない。銃火器、爆発物。火薬を使用した近代兵器の粋が迷宮内ではその効果が凄まじく低下してしまうのだ。小口径の、炸裂する火薬量の少ない銃だと、弾が銃口から飛ばなかったという。さらにハイテク兵器も尽くその機能を失う。電気を使用した武器、防具は起動せず、さらに、所謂化学兵器も大抵が効果を発揮しなかった。

 内燃機関もアウトである。ガソリンエンジン、ガスタービン、蒸気機関ですら、停止してしまう。


 化学兵器がダメなのと同じ流れなのか、ロケットなどの燃焼系エンジンも×だった。


 機関銃がダメ。レールガンがダメ、パルス砲がダメ、ドローンがダメ。衛星から金属の槍を発射して、質量兵器として敵を貫く「神の杖」も、大門を越えて迷宮内にダメージを与えることは出来なかった(某国が迷宮に対して既に試したらしい……)。


 人類の攻撃手段、ここ数百年の兵器の進化が完全否定されたのである。魔力が影響を与えているらしいが、詳しくは判明していない。


 当然、スマホや携帯、パソコンやビデオカメラもNGだ。第1階層は魔力が薄いと言われているが、それでもダメ。第2階層に降りる辺りまで行くと、いつの間にか壊れてしまう。

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