第117話14-9

深い緑の血の後を追い、ゆっくりと地下への階段を降りる4人。そこには電気など通っているはずもなく、今までは月の光だけで物を見ることが出来た4人でさえ、ジャケットにつけたLEDライトをつけて進まねばならない程の暗さであった。

足下はどこからか飛んできたのか枯れた葉が積もり、不快な湿り気を保っていた。4人は正造を先頭に、ジョン、ジュリ、雪江の順で階段を降り始める。


 ジュリは制服に合わせてローファーを履いていたので、余計に階段を降りづらそうであった。


「兄さん、今度からこういう足場が悪いところに連れてくるのなら、着替える時間ぐらいちょうだい」


「ああ、悪い悪い。今度から気をつけるわ」


 ジョンは妹からの文句わさらりと受け流すと、壁に手を這わせながらゆっくりと階段を降りる。

兄のその悪びれない様子に大きくため息を吐いて後に続く。正造は、2人の会話など気にも止めず、真っ直ぐに正面の闇を見続ける。


「ところで、正造さん。さっきのあの2人に話していたことなんだけど、行方不明になったあの2人の友達を助けるって、あれ無理ですよね……?」


「ん?」


「だって1人はもう死んでて、もう1人はもう扉の向こうに連れて行かれて助けるのは絶望的なんですよね?」


「ああ、そうだな」


「じゃあ、なんであんな嘘をついたんです」


「……そうでも言わないと安心してここからあの2人組は出ていかないだろう。というか、わざわざそんなことを今聞かなきゃならんのか?」


「すみません。 ……希望があるなら、その友達だけでも生きて帰らせてあげたかったんです」


ジュリは言葉少なく小声で謝る。正造は気むずかしそうな顔をしながらも、ジュリの方へ振り返らずにまっすぐ前を向いたまま階段を降りきるとそのまま廊下に出る。

その廊下の幅はあまり広くなく、3人が並んで通れる程度であった。また、廊下の壁は壁紙が無残にも所々剥げており、カビのせいか何とも言えない臭いが充満していた。またそのボロボロとなった廊下には規則正しく扉が並んでおり、階段からは向かい合って4組計8部屋と左に曲がる廊下が見えた。


「血はあそこに続いているな」


 ライトを床に向けて、延々と続いた血の跡を目で追う。

その血の跡は、正造たちから見て左側手前から2番目の部屋に続いていた。正造はその扉の前に来ると、ゆっくりとドアノブを回して、ハチェットの刃先でドアを押す。


 正造はその部屋の奥にライトの光を当てながら、間取りを確認する。ホテルの部屋の間取りは細い1.5畳ほどの縦長の玄関に、8畳ほどの部屋が続いていた。

そのことを正造やジュリたち4人が確認して一歩玄関に足を踏み入れる。


 ぽたりと、正造の頬に生暖かい滴が落ちた。


 瞬間、正造は後ろに居たジュリを思いっきり蹴り飛ばす。


「きゃっ!??」


 ジュリは急に正造に胸の辺りを蹴られた衝撃で短い叫び声を上げると同時に、後ろに居たジョンと雪江を巻き込んで廊下へとたたき出される。

そして、ちょうど正造とジュリの間に巨大な鎌が振り下ろされ、床がえぐれてコンクリート片があちこちに飛び散る。


「こいつ、さっきのやつか。今度はきっちり始末してやる」


 正造は自身がたたき込んだ、その天井に張り付いた”ファリス”を見てつぶやく。

ファリスはそのぶよぶよとした肉腹から深い緑の血を垂らしながら、正造目掛けて降ってくるのであった。

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