初心〔うぶ〕と少女とチェーンソー
第109話14-1
「……もう一度言ってもらえるかしら?」
「だから、なんでジュリさんがチェーンソーを使っているのか知りたいんです」
ジュリは自身が通う大学の最寄りの駅に併設された、ここサンマール・カフェでショートケーキをつついていた。
そして、2人掛けの席の対面に座るは横溝 雅司。彼の手にはメモ帳とペンが握られていた。
「実はジュリさんを元にした小説を書こうと思いまして」
「いや、急にそんなことを言われても嫌なんだけど」
ジュリは不機嫌そうに眉をひそめながらも、ショートケーキを突く手を止めることはない。
しかし、横溝は諦めずにジュリに何度も頼み込み、ジュリはとうとう諦めたようにため息を吐いた。
「わかった、わかったわよ。その代わり、ここのお代は雅司君が持ってよね?」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、どこから話そうかしらね」
ジュリはショートケーキをつつくのを止めると、少し間を置いて話し出した。
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話は今から6年前、私が14歳の頃の話。
そして私がまだ怪異を退治し始めてまだ間もないお話。時期は、梅雨に入る直前くらいの蒸し暑くて不快なある日のことだった。
中学校から家に帰った私は、制服を着替える間もなく兄の乗る車に詰め込まれたわ。
『おい、ジュリ。近くの山の廃ホテルに化け物カマキリが出たって通報があった。 たぶん”ファリス”が現れたんだ』
兄さんはそのとき高校を卒業して、”怪異退治”をこなし始めたルーキーみたいな存在だったらしいわ。
いつも兄さんは怪異退治に行くときは、まるで近くのコンビニに行くみたいな態度だったのに心なしか焦っているようだった。
『ね、ねえ、兄さん? ”ファリス”って何?』
『不細工な人間の頭、カマキリの体と鎌、脚の代わりに4対人間の腕、オマケに人間の倍はある体躯のデカさ。ああ、コンクリートの壁くらいならぶち破る力も忘れてた』
『そ、それだけ? そのぐらいなら、前に兄さんと倒した海に居た化け物と似たようなものじゃないの?』
『無限に湧くんだ、奴等は。で、人間に対して”友好的”ときたもんだ。人間を好んで連れて行っちまう』
『え?』
『……順序立てて話すか。奴等は何の変哲もない扉から突然出てくるんだ。どうもその扉は奴等がこっちの世界にやってくるための通路になっているらしい。で、どこに繋がったかは分からない扉の向こうに、人間を拉致していくんだ。家畜の様に繁殖させて喰っているのか、あるいは知的好奇心からかは分かっていないがな』
『無限に出てくるって言ったわよね? そんなのどうするの』
『答えは簡単。奴等の世界と繋がっている扉を閉めれば良い。 ……ああ、扉のある建物ごと空爆したらとか考えるなよ。扉が吹き飛ばされたら、奴等を扉の向こうに追いやることが出来なくなるからな。昔、ロシアでそれを実行した馬鹿が居てな、”ファリス”を封印するためだけに地殻まで大穴を掘って建物ごと捨てたらしいからな』
『……そんなの2人で相手できるの?』
『安心しろ。助っ人は頼んださ』
そうして、私は兄に連れられてその”ファリス”が出たって言う郊外の山まで行ったのよ。
その時はいつもの通り、兄さんが突っ込んで私がフォローって考えてた。
いつもと雰囲気の違う兄さんの姿に、私は手に持った純銀のクロスボウをさらに強く握り込んでいたわ…。
そして小一時間も車で走ったぐらいに、ようやくその山に着いた。今でも山の名前を忘れたことはないわ。その山の名は”黒山”。
この事件がきっかけで、私はチェーンソーを振るう様になったのよ。
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