第72話 11-5
ジュリ、ジョン、鈴が岩手の花巻空港の上空を旋回し、鈴は管制塔に無線を入れる。
ジュリの耳には「……over」だとか、「……OK」などと鈴が話しているのが、途切れ途切れに聞こえていた。
少しして、鈴は管制塔との連絡を終えたのか、無線を元の位置へと戻す。
「さあ、着陸しますわよ?」
鈴は振り替えずにジュリにそう話しかけると、セスナ機は着陸態勢に入る。
セスナ機はゆっくりと高度を落とし、指定された滑走路へと着陸態勢を取った。
そしてセスナ機のタイヤが滑走路に接し、機体は速度を落とすとともに横にやや揺れるのであった。だが、それも少しの間、セスナ機は完全に止まり、鈴はヘルメットを脱ぎ捨てると、運転席から飛び降りる。
「岩手へようこそ、と言いたいところですが、時間がないので早く行きましょう」
その声に反応するより早く、ジュリとジョンもまた座席から飛び降りると、自分たちの荷物を下ろす。
そして2人は荷物を背負うと、先を歩き始めていた鈴の背を追ったのであった。
*
空港に着いてから、1時間が経った頃、3人は盛岡市内の古い五階だでの商業ビルの前に立っていた。
そのビルは駅からやや離れた、人気があまりないようなところに建てられていた。
「ここがアナタたちの支部なの?」
「ええ、ワタクシたちの支部の1つです」
一見すると、そのビルは何の変哲も無いただ商業ビル。鈴の案内が無ければ、ジュリはこのビルに気がつかなかったであろう。
そして、鈴を先頭にしてジュリとジョンはそのビルへと足を踏み入れた。
中も外観と同じく、年月が経っているためかコンクリートは風化し始め、足下に敷かれたタイルにはヒビが入り、埃が隅に積もっていた。
あるフロアを除いては。
「ここが”オルハ岩手支部”です!」
鈴は手を広げて、自慢をするように2人を振り返る。
このビルの3階だけは、まるで高級ホテルのようにきらびやかな装飾が施され、足下には赤い絨毯が敷かれていた。
「他のフロアとは大違いだな。他のフロアには、誰も居ないのか?」
「ええ、このビルはワタクシたちがビルごと買い上げてありますのよ? このフロア以外はダミーですが」
ジョンと鈴が話しているときに、突然黒いスーツの男がフロアの奥から顔を出す。
どうやら、鈴の声を聞きつけて現れた様であった。
「鈴お嬢様、お話ししたいことが……」
黒スーツの男はジュリとジョンの2人をちらりと見てから、鈴に目配せをする。
「鈴お嬢様、こちらへ」
「”アレ”の話なら、ここで話しても大丈夫です。こちらの2人も関係者ですから」
その言葉を聞いた黒スーツの男は少し間を置くと、ゆっくりと口を開いた。
「菊、芍薬、サザンカの組の準備が出来ましたので、すぐに行動を移せます。残る組みもあと少しで出発できます」
「分かりました。ワタクシとこの2人は”椿”組で出発します」
「他の組にはそう伝えておきます。 ……失礼ですが、そちらのおふたりは信用できるので?」
「それはワタクシが保証します。早くこのことを伝えてください」
黒スーツの男は無言でうなずくと、鈴にある小包を手渡してフロアの奥へと姿を消す。
その小包は、長方形で30センチほどの大きさで、真っ白な包装紙に包まれていた。
鈴は大事そうにその小包を抱きしめると、2人に目配せをする。
そして、鈴は無言でフロアの奥を指さして、ある一室へとジュリとジョンを案内するのであった。
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