第41話 7-4

ジュリは上着の袖に腕を通して、小型チェーンソーを手に持って部屋から出る。彼女が急いでいた理由は、先ほどの携帯電話で話していたことに起因していた。

電話口で篤は震える声で、ジュリに訴えかける。


「雅司が……繁華街の……人が死ぬところに必ず居たって……!」


ジュリは嫌な予感がしていた。

雅司の携帯電話に、電話を掛ける。しかし、返ってくるのは『お掛けになった電話は電波の届かない場所に居られるか、電源が入っていないため掛かりません』のみ。


 ジュリはキッチンで料理をしている兄に、呼びかけた。


「兄さん、ちょっと良い?」


「ん? どうした、ジュリ?」


兄であるジョンは、揚げていた唐揚げを頬張っている。


「車を出して。急ぎで」


「……何かあったのか?」


「詳しいことは、車で話すわ」


「わかった。すぐに車を出すから、外で待ってろ」


ジョンはコンロの火を消すと、水玉模様のエプロンを脱ぎ捨てた。


 先に外に出たジュリは、チェーンソーを鞄の中に隠して、兄が家から出てくるのを待つ。

程なくして、半袖の黒シャツ1枚のジョンが家から出てきた。


「悪い。待たせたな」


ジョンは頭を掻きながら、駐車場に止めてあるスポーツカーの鍵を開ける。

すぐさま、ジュリは助手席へと飛び乗った。


ジョンはスポーツカーに乗り込むと、すぐさまエンジンを掛け、アクセルを踏み込む。

夜の暗闇を、スポーツカーのヘッドランプが切り裂いた。。


「で、何があったんだ?」


「この前、『黒ナメクジ女』退治で協力してもらった男の子、知っているでしょう?」


「ああ、お前とデートしたヤツか。そいつがどうかしたのか?」


「少し、マズいことになっているみたいなの。だから、彼が居る繁華街に行って欲しいのよ」


「……ああ、大体の理由は分かった。 ……飛ばすぞ」


 ジュリとジョンが家を出てから1時間が経った頃、2人は繁華街に到着していた。

ジュリは周囲を、雅司の姿を探して辺りを見渡す。


「……見つけた」


ジュリは繁華街の大通りで、診断機を掲げる雅司を見つけた。


「兄さん、私、先に行くわね」


ジュリは助手席から飛び降りると、雅司の方へと駆けていった。


「おい、ジュリ! 待て! ……ったく」


ジョンはハンドルを切ると、車を停車できる場所を探すのであった。



 ジュリは雅司の目の前に立つ。


「アナタ、何があったの?」


雅司は、何も答えない。彼の姿は髪は乱れて、服には汚れが目立っていた。

そして、いつから寝ていないのか、目の下には大きな隈が出来、顔には生気がない。

足下を見ると、靴には穴が空き、足先が覗いていた。


「とりあえず、ここから離れるわよ」


ジュリは雅司の腕を取り、引っ張ろうとしたが、激しい抵抗に遭う。

雅司は診断機を振り回し、その場から逃げようとした。


引っ張ろうとするジュリ、逃げようとする雅司で、もみ合いになる。

そして2人がもみ合いをしていたとき、診断機の先が雅司に向く。


「ジゴク! ジゴク! ジゴク!」


診断機から、何度も聞いた機械音声が流れる。



診断機は、雅司に反応したのであった。


 繁華街の中、けたたましく響く機械音声。


「ジゴク! ジゴク! ジゴク!」


「これは、何?」


ジュリは一瞬だけ、雅司から視線を外して、雅司の手に持つ診断機を見る。


 それが悪かった。

ジュリの視線が外れた瞬間、雅司は猿のように奇声を上げる。そしてジュリの手を振り払うと、人混みへと消えていった。


「待ちなさい!」


ジュリはすぐさま雅司の後を追おうとしたが、通行人が多く、思うように前に進めない。


「ああ、まったく……」


ジュリは、雅司の姿を見失ったのだった。

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