第37話 6-8
ニセモノの生首は切断され、血をまき散らしながら床へと落下する。
床に落ちた生首は、床に落ちると同時に、ガラスが砕ける音を響かせた。
生首が、ガラス細工のように砕けたのであった。
瞬間、ミラーハウスの至る所で、鏡が割れ始める。
「兄さん、動ける?」
「無理だ。肩を貸してくれ」
ジュリはジョンに肩を貸すと、足早に入り口を目指す。
まるで、2人を逃すまいと鏡の破片の雨が降る。
それはニセモノの最後の断末魔のようであった。
「兄さん、あと少しで外よ」
「ああ」
鏡の破片塗れになりながらも、2人は出口からの風が感じられるところまでたどり着く。
あともう少しで出口、というところでミラーハウスが大きく揺れた。
「ジュリ、急ぐぞ!」
ジョンは一瞬だけ振り返ると、すぐさま正面を向いてひた走る。
兄に釣られてジュリが後ろに振り返った時に、見えた物は崩れ始める天井、そして、
舞い上がる埃がまるで人の顔に見えた。
「しつこい女は、嫌われるわよ?」
ジュリは兄の胸に着けた閃光手榴弾を取ると、ピンを抜いて後ろに投げ捨てる。
一瞬、世界は白く染まる。
次の瞬間には人の顔が崩れ、ただの舞い上がる埃に変化した。
ジュリとジョンがミラーハウスを出ると、遊園地は先ほどまでの喧噪が嘘のように、以前に来たように暗く寂れていた。
遊園地の至る所でガラスの割れるような音が響く。暗闇の中、よくよく目をこらすとムカデが粉々に砕けて、灰のように消えていく様が見て取れた。
ジュリはジョンに肩を貸しながら、遊園地の外に停めた車を目指して歩く。
「終わったわね」
「ああ。にしてもあのニセモノは何だったんだ?」
「鏡の向こう側から来たんじゃないの。ある意味、英雄だとは思うけど」
「どういうことだ?」
「だってニセモノからしたら、自分以外は異形の世界に来たのよ。異形を相手に1人で戦うなんて英雄でしょ?」
「考えようによっちゃあ、そうだな」
「まあ、こっちからしたら良い迷惑なんだけどね」
ジュリとジョンは、動きを止めた廃遊園地を後にした。
2人が去った後の遊園地には、静寂だけが残る。
時々、うち捨てられた観覧車が、風に吹かれてもの悲しそうに鳴いていた。
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