チョコレートデスマッチ

第0話~始まり~

「見てっ、木島君だ!!」




「木島くーん!!」




「おはよぉっ!!」




雪が少しだけ降る、一月十五日。


女子生徒の黄色い声に包まれて、一人の男子生徒が高校の校舎に歩いて向かう。


登下校の際に必ずと言っていい程話題になる男子生徒、彼の名は『木島 悠希』という。


今日は冬休み明けなので、女子生徒は悠希に会えて狂喜乱舞した。




「皆おはよう!」




後ろから声をかけてきた女子生徒、教室の窓を開けて声をかけてきた女子生徒、玄関で待ち伏せしていた女子生徒全員に朝の挨拶を返す。


ここまでで十分お分かりだろう、悠希はモテる。


高校二年生の悠希は、黒髪長身運動神経抜群……勉強は中の中だ。


勿論美形でもあり、これでモテるなと言われても無理な話。


女子生徒達を丁寧にあしらい、ローファーから内履きに履き替える姿まで周りを見とれさせる。




「先生、おはようございます。」




二階の教室までの道のりで、すれ違った女教師に挨拶をすると、




「……。」




悠希の輝くオーラに目を殺られ、声を発せなくなった。


そんな女教師には、軽く一礼をしてから去るのが一番良い方法。


生まれた時からモテ続けてきた経験値、侮れるものではない。


このオーラは男女関係なく効果を発揮する……ただ一人を除いて。




ガラガラ




自分の教室である二年三組の扉を開けると、一際目立っている女子生徒がいた。


別に派手な格好でもなければ、目立つ行動をする訳でもない。


ただ、スクールバックから教科書類を出して、普通に机に入れているだけ。




「あ、おはよう、木島君。」




女子生徒は悠希に気づいて声をかける。


教室の窓側の席だというのに、入り口にいる悠希にはその挨拶がはっきりと聞こえた。


友人に声をかけられ、同じクラスの女子生徒達にも声をかけられたのに、彼女の大きくも小さくもない声が一番聞こえた。




「おっおおおはよう木南。」




悠希は彼女……『木南 千代子』に挨拶を返す時、緊張して声が裏返ってしまった。


実はこのモテ男は、隣の席でもある千代子に小学六年生の時から恋心をいだいている。


父親の転勤で都心から離れた土地に引っ越した悠希は、転校先の小学校で千代子に惚れた事から現在も住んでいるこの町が好きになった程。


当時からモテていた悠希に、当時唯一笑顔を向けなかったのがきっかけで千代子を目で追う様になり、いつしか秘められた優しさに気づき……恋に落ちたのだ。


ただ、恋愛には非常に奥手でいまだに友人止まり。




「はあ~。」




「……どうしたの? ああ、学校始まっちゃったもんね。もう少し冬休み長ければなぁ。」




違うんだ木南!


俺の不甲斐無さに嫌気がさしつつ、君の横顔に見とれたんだよ!


……と心の中で思っても、千代子に聞こえるはずもなく。


こんな二人の様子を見て、同じクラスの生徒達は悠希の気持ちにとっくに気づいている。


王道的物語ならば、千代子に危害が加えられるかもしれないが、そんな事はこれまで一切ない。


なぜなら、千代子が美しすぎるからだ。


長い黒髪大きな瞳、背筋が伸びてまるで白百合の様に美しい肌。加えて頭脳明晰品行方正。


学校一の美少女の一人として、千代子の知らない所でその名を轟かせている。


その美しさを汚す様な真似、誰も出来ない。




「……どうしよう。」




適当に教科書を机に突っ込んだ悠希の隣で、朝の準備を黙々としていた千代子が急に慌て始めた。




「宿題でも忘れた?」




悠希が聞くと、ストレートの髪をサラサラ揺らして首を横に振った。




「鞄に付けてたストラップ……どこかで落としたみたいで。」




「それって、東野とお揃いの?」




「うん。」




ガラッ




教室の扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。


女子生徒はスカートを短くしている訳ではないのに、スラっと伸びた白い……千代子よりもさらに色白の足で悠希達のもとにやってきた。


彼女こそ千代子とお揃いのストラップを持っている張本人、学校一の美少女のもう一人でもある『東野 美代』だ。




「美代……ストラップがっ!」




「はい、これ。」




千代子の声とはまた違う……この世の物ではないくらい、綺麗で不思議な声を使う短い返事。


それと同時に美代は、体が桃色で首に白いリボンをつけている兎のストラップを千代子の机に置いた。




「あっ、ありがとう! 良かったぁ……。」




「通学路に落ちてた……まあ、千代子の事だから寄ってきた男子生徒が勢い余ってぶつかってきて、弾み引っかかりストラップの弱っていた紐が切れたんだと思う。違う?」




「……当たってる、凄い!!」




「東野……超能力者?」




「そんな訳ないでしょう、ただの推測よ。二人ともモテるんだから、それくらい想像するのは容易いわ。」




そう言う美代も十分……いや、二人以上にモテる人間だ。


外国人並みに白い肌、髪は染めている訳でもないのに銀髪。


両目とも上半分が青色、下半分が赤色……容姿だけでは他の次元から来たように見える。


世間一般的に考えると変わった容姿かもしれないが、中身はなんでもこなす完璧少女であり、性格もとても良い普通の女子高生。


その頭の良さには、誰もが一度は驚かされるもの。




「毎度毎度びっくりするよ……でも、見つけてくれて本当にありがとう。」




「いや、まだ鞄に付けてくれているなんて嬉しい。」




美代は自分が肩から下げているスクールバックにぶら下がる、桃色のリボンを付けた白い兎のストラップを指さした。




「ずっとつけてるよ、小学生から仲良しの……親友とペアで買ったストラップなんだから!」




笑う千代子の顔は、悠希から見ると天使よりも美しかった。


つられて笑う悠希を見て、美代もまた口角を上げる。


この三人の笑顔に周りのクラスメートが見とれた始めたその時。




バシィーンッ




ただでさえそこまで新しくない校舎だというのに、教室中に響き渡る程大きな音を出して扉を開けたのは、悠希よりも長身の男子生徒一人。


ガッシリとした体つきで、一言発する……。




「……ごめん。」




のそのそと熊の様に歩いて、悠希達の前に立つと。




「おはよう、また力加減間違えたんだよ。」




「ったく、修はいつになってもこの調子なんだから。幼稚園の時から変わらないわ。」




「いや~、力が有り余ってるからさ。」




右手でパンパンと左腕を叩く彼は『花咲 修』という、学校一身長がある男子。


美代の幼馴染で、家が金持ちだけどそれを鼻にかけない悠希の友人でもある。








これでメンバーは出揃った。




デスマッチが始まったきっかけは、放課後の教室で居眠りをした悠希の夢に出て来た一言だけ。




「バレンタインに……好きな人からチョコを貰えないと、死んじゃうよ?」




現実世界とはかけ離れた声が脳内を回るまで、あと少し。


さあ、死闘《デスマッチ》の鐘がなる。


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