エピローグ『楽しくて気持ちいい七夕になった。』

 盛況の中、午後8時頃に七夕そうめんパーティーは終了した。

 俺と美優先輩、風花、花柳先輩でパーティー会場の後片付けをする。4人で行ったので、結構スムーズに進んだ。

 暗くなっているので、笹については明日以降片付けることに。

 また、美優先輩曰く、笹に飾られた短冊は、元号初詣で参拝した伯分寺神社にお焚き上げをお願いするのだそうだ。先輩の伯父夫婦が管理人をしていた時代からの伝統らしい。この処分方法なら、みんなが書いた願いも叶いやすくなりそうだ。

 片付けが終わり、美優先輩と俺は一緒に入浴することに。


「あぁ……お風呂気持ちいいね」

「気持ちいいですね」


 髪と体を洗い終わった俺達は一緒に湯船に浸かる。その際、美優先輩が俺を背もたれにして。俺は先輩のことを後ろからそっと抱きしめる。最近はこの体勢で湯船に浸かることが多くなった。肌の密着が多くて、先輩の柔らかさや温もりをたっぷりと感じられるので、俺はこの体勢が好きだ。


「温かくて気持ちいいね」

「そうですね。夕方からでしたけど、今日はそうめんパーティーの準備をしたり、片付けをしたりしましたからね。あとは冷たいそうめんをたくさん食べたのもありそうです」

「ふふっ、そうだね。それに、時間が経つにつれて、段々涼しくなっていったからね。あと、由弦君。準備と片付けを手伝ってくれてありがとう。由弦君のおかげで美味しい料理をたくさん作れたし、片付けもスムーズにできたよ」

「いえいえ。美優先輩の的確な指示もあったからだと思います。これからも、あけぼの荘のイベントがあるときは、一緒に準備や片付けをさせてください」


 管理人さんをしている美優先輩の恋人として、少しでも先輩の力になりたい。気付けば、先輩を抱きしめる力がちょっと強くなっていた。


「嬉しい」


 一言そう言うと、美優先輩は体を俺の方にゆっくりと振り返る。そんな先輩の顔は言葉通りの嬉しそうな笑みが浮かんでいて。


「ありがとう、由弦君」


 優しい声色でそう言い、美優先輩は俺のことを抱きしめてキスしてきた。

 美優先輩にキスされることで、体の内側からも温かくなってきて。今は夏で入浴中だけど、温もりをもたらしてくれるのが先輩だから、本当に心地いい。いつまでも感じていたいと思える。

 少しして、美優先輩から唇を離す。そのことで先輩とは超至近距離で目が合って。その瞬間、先輩は彼女らしい優しい笑みを向けてくれる。


「由弦君と抱きしめ合ってキスすると、お風呂がより気持ちいいよ」

「俺も同じようなことを思いました」

「そっか。嬉しいよ。……今日は七夕当日だから、織姫と彦星もこうしてイチャイチャしているのかな」

「あり得そうですね。一年に一度しか会えませんし、2人は夫婦ですからね。あと、俺も短冊を飾った後、星空を見上げながら同じことを考えました」

「そうだったんだ」


 ふふっ、と声に出して楽しそうに笑う美優先輩。浴室だから笑い声がよく響く。

 ただ、美優先輩が声に出して笑うのはすぐに終わる。笑い声が聞こえなくなると、美優先輩の笑顔にはちょっと寂しさの影を感じられるように。


「どうしました? 美優先輩」

「……七夕の日は織姫と彦星が一年のうち一緒にいられる一日でしょ?」

「そうですね」

「去年まではそう考えると素敵な日だなって思っていたけど、今年は何だか寂しく感じちゃって。一年に一日しか会えないんだなって。まあ、夫婦になって禄に仕事をせずに遊んでばかりいたからっていう自業自得とも言える理由だけど」

「確かに。『一年のうち一緒にいられる一日』っていい響きですけど、一年に一日しか会えないんですもんね」

「うん。たぶん、由弦君っていう恋人ができて、同棲しているからそう感じたのかなって。も、もちろん由弦君が悪いってわけじゃないよ!」

「ははっ、分かっていますよ」


 なるほど。美優先輩が寂しそうな笑顔を見せた理由は、織姫と彦星の話について寂しく感じたからだったのか。

 今の美優先輩の話を聞いていたら、俺も少し寂しい気持ちになってきた。先輩への抱擁を強くさせる。


「ゆ、由弦君?」

「……織姫と彦星の話をしたら、美優先輩とずっと一緒にいたい気持ちが強くなって」

「……私もだよ」


 美優先輩は恍惚とした笑みを見せる。そのことにドキッとして。


「……あの、先輩。今日はみんなと一緒にいる時間が多かったですから、寝るまでの間……先輩と最後までしたいです。期末試験もあって、最近はあまりしていなかったですから」


 美優先輩のことを見つめながら、俺は肌を重ねたいと誘う。これが初めてじゃないけど、誘うと凄くドキドキする。顔もすぐに熱くなって。きっと、結構赤くなっているんだろうな。

 美優先輩の顔が見る見るうちに赤くなっていく。視線もちらついていたが、すぐに俺の方に定まる。


「……もちろんいいよ。最近はご無沙汰だったし、私もしたいなって思っていたの。ただ、明日は学校があるから、日付が変わる前までね」

「分かりました」


 肌を重ねていると、気付けばかなり時間が経っていたってパターンが結構あるからな。夜の深い時間までしてしまわないように気をつけないと。する前に、スマホの目覚まし機能で、日付が変わった瞬間にアラームが鳴るようにするか。


「七夕の間にするから、今回のイチャイチャは『七夕ミルキーウェイ』って名付けよう」

「七夕ミルキーウェイですか。今日らしいネーミングですね」

「七夕といえば天の川だからね。だから、英語でミルキーウェイ。個人的にミルキーって何かいいなって思えて」

「ははっ、そうですか」


 肌を重ねることのネーミングをすぐ思いつくことに感心する。

 それからもお風呂から出るまで、美優先輩と抱きしめ続け、たまにキスをするのであった。




 お風呂を出た後、美優先輩と俺は主に寝室のベッドで七夕ミルキーウェイをした。

 最近はあまりしていなかったので、いつも以上に気持ち良く感じられて。美優先輩をたくさん求めていく。先輩の表情、声、体の動きが魅力的で、先輩への欲が膨らむばかり。

 また、美優先輩がリードしてくれることもあって。積極的な姿勢の先輩もとても可愛らしく感じられた。

 俺達はたくさんキスし合って、「好き」とか「愛してる」などとたくさん言い合って。とても幸せな時間にもなったのであった。




「あっという間に過ぎていったね、由弦君」

「そうですね。気持ち良かったので、とても早く時間が過ぎた気がします。スマホの目覚まし機能を使って正解でしたね」

「うんっ」


 ミルキーウェイしている間は美優先輩のことばかり考えていた。だから、時間の感覚が全然なくて。だから、スマホのアラームが聞こえて、日付が変わったと分かったのだ。

 たくさん体を動かしたから、明日は寝坊してしまうかもしれない。いつもの時間に起きられるように、再びスマホの目覚まし機能をセットしておいた。


「これで、明日は寝坊してしまうことはないと思います」

「そうだね、ありがとう。由弦君達のおかげで、今までで一番楽しい七夕になったよ」

「俺も今までで一番の七夕でした。七夕そうめんパーティー楽しかったですし。それに、美優先輩っていう恋人ができて、同棲する中で初めて迎える七夕でしたから」

「そう言ってくれて嬉しい。あと、由弦君のおかげで今までで一番気持ちいい七夕にもなったよ」

「そうですか。俺もですよ、美優先輩」


 恋人ができて迎える七夕も、恋人と肌を重ねる七夕も今年も初めてだった。七夕にそうめんパーティーをするのも初めてだったし。本当にいい一日だった。今年の七夕のことはずっと忘れないだろう。


「……美優先輩と肌を重ねたら、一緒にいたい気持ちがもっと強くなりました」

「私もだよ、由弦君。ずっと一緒にいたい。短冊に書いた願いごとが叶うように頑張ろうね」

「はい」


 しっかりと返事して、俺は美優先輩のことを抱きしめる。何度も肌を重ねていたので、美優先輩から温もりが強く伝わり、甘い匂いは濃く香ってきて。そして、美優先輩の笑顔がすぐ目の前にあって。いつまでも、こうやって先輩の笑顔を見たり、全身で先輩を感じたりできるように頑張りたい。


「美優先輩。今日はこのまま抱きしめて寝てもいいですか?」


 美優先輩にそう問いかけると、先輩はニコッと笑ってゆっくりと頷いた。


「いいよ。由弦君に抱きしめられるのは気持ちいいし。由弦君がお願いしてくれて嬉しい」

「……ありがとうございます。じゃあ、寝ましょうか」

「うんっ。おやすみ、由弦君」

「おやすみなさい、美優先輩」


 俺は美優先輩におやすみのキスをする。

 キスすると、美優先輩はそっと目を閉じる。今日はパーティーの準備と片付けをして、お風呂から出た後は何時間も肌を重ねていたからだろうか。目を閉じてすぐに、先輩は可愛らしい寝息を立て始めた。生温かい吐息が肌に直接かかってくすぐったいけど、定期的にかかるので段々気持ち良くなってくる。

 あと、今夜も美優先輩の寝顔が可愛らしい。ついさっきまで肌を重ねていて、今は先輩を抱きしめているから、いつも以上に可愛らしく感じられる。


「おやすみなさい、美優先輩」


 美優先輩の額にキスして、俺もゆっくりと目を閉じる。

 目を閉じた瞬間、心地良い眠気と疲れに全身を包まれた感覚に。美優先輩の温もりや甘い匂い、体の柔らかさも感じられるので、幸せな気持ちに包まれながら眠りに落ちていったのであった。




特別編8 おわり

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