様子見です
エルフが遊びに来ているとの報告を受けた私は、ちょっとした遊び心で城下街に降りていました。
もちろん、ウンディーネとミリアさんも一緒です。
「なぁなぁ、何をするつもりなのだ? やっぱりエルフと会うのか?」
『リーフィア……帰ろう? エルフと会うのは、危ないよ』
と、私の後ろを歩く二人は口々に言ってきます。
「ちょっと、気になったことがあるんですよ」
「『気になったこと?』」
「ええ、まぁ……エルフを見ればわかるでしょう」
そろそろエルフが居るであろう関門まで来ました。
「二人とも、気配を消してください」
私はそう言い、魔法で気配を遮断します。
二人も私がやりたいことを理解したのか、静かに頷き、同じように気配が薄くなりました。
「リーフィア・ウィンドを出せ!」
徐々に近寄っていくと、中から男性の声が聞こえてきました。声の様子だけでも、かなりイライラしていることがわかりますね。
「エルフは何を怒っているのだ?」
ミリアさんは私に近づき、コソコソと声を発しました。
「さぁ、エルフの考えはよくわかりません」
エルフは「リーフィア・ウィンドを出せ」と言って聞きません。
つまり彼は、魔王軍幹部を無条件で出せと言っているようなものです。しかも、勝手に魔族領に侵入している。
怒るのは我ら魔王軍であって、エルフではありません。むしろ侵入した罪で処罰されないだけ、優しい対応と思うべきなのに、なぜか彼はそのことを棚に上げて、めちゃくちゃに怒り散らしています。
「早く出せ!」
「リーフィア様には会わせられない。何度もそう言っているだろう!」
一向に態度を改めないエルフに対して、エルフを囲んでいる兵士も怒鳴ります。彼らの表情は怒りが7割。呆れが3割といったところでしょうか。両者とも、かなりイライラしているように思えます。
「まさか、ここまで酷いとはな……」
どこぞの魔王以上に会話が成立しないエルフを見て、ミリアさんは「うわぁ」と嫌そうな顔になっています。
「リーフィアはこんな奴らに付き纏われていたのか。これには余も同情するぞ」
「苦労を理解していただけて嬉しい限りです」
『あの人達、反省してない……やっぱり滅ぶまで苦しめたほうが……』
「はいはい、ウンディーネは落ち着いてくださいねぇ」
ぐぬぬ……と呻くウンディーネの頭に手を置き、落ち着かせます。
でも、ウンディーネの言う通り、エルフからは反省した様子が見られません。むしろ悪いのは私の方だと言いたげに、頑なに私を出せと連呼します。
エルフの雑魚達が頭悪いのは知っていましたけど、あの……なんでしたっけ? ダ、ダ〜……ううん、やっぱり名前を思い出せない。あのクール気取りの仏頂面の……えっと……ああ、そうだ。カオナシでした。
その人はまだ考えられる方な気がしたのですが、こうやってエルフが来ているということは、彼が命令を下したということですよね。つまり、あの人も考え無しだったと……あははっ、エルフ本当に面倒臭いですね。
滅べばいいのに(ボソッ)
『リーフィアもそう思う……!? やっぱり、そうだよね。うんっ、今すぐにでも滅ぼ』
「ウンディーネ落ち着いて。そして、こういう時だけ見事に心を読まないでください。まだ滅ぼしませんからね」
『ちぇ……』
ちぇ、って何それ可愛いかよ。
──おっと、つい本音が出てしまいました。
「リーフィア・ウィンドを出さなければ、俺はここから一歩も動かないからな! さぁ、早く出せ!」
リーフィア・ウィンド、リーフィア・ウィンドって……ずっとフルネーム言っていますけど、面倒臭くならないんですかね? そういうところも気にならないほど馬鹿なんですかね?
「ったく、おい、ヴィエラ様への報告はどうした」
「やはり、リーフィア様は出せないと。本人も強く拒絶しているらしく、あいつらの前に出るくらいなら魔王軍滅ぼした方がまだマシだと言っていたと……」
おおぅ? ヴィエラさん、何をとんでもない嘘言っちゃっているんです?
確かに精神的にそっちの方が良いかもしれませんけど……ああ、ほらっ、ミリアさんはこっちを見て驚愕しています。
言葉には出していませんが「嘘、だろう……?」と心の声が聞こえてくるようで、少し胸が痛いです。
「無理矢理にでも会わせたら、我らが滅ぶか……それは絶対に避けなければならないな」
って、兵士も真に受けちゃってるんですか。そんなの私一人では…………本気を出せば魔王軍くらい壊滅させられるかもしれませんけど、そんな面倒なことしませんから。
「リーフィア……! お、お前はそんなことしないよな? しないよな!?」
「安心してください。ミリアさんを裏切るようなことはしませんってば……あれはヴィエラさんの冗談です。真に受けないでください」
「そう、だよな。はぁ〜、びっくりしたぁ……」
ヴィエラさんには、後でよ〜く文句を言ってやりましょう。
おかげさまでミリアさんに疑われそうになったと、耳元でグチグチ言い続けてやります。
「貴様ら、魔王軍の分際でエルフに楯突くのか! そちらがその気なら、我らエルフが貴様を──」
「ほう? 我ら魔王軍を、どうするのじゃ?」
新たに現れた人物。
静かに、でもその場に響く声を発したその人に兵士とエルフは振り向き、そして硬直させた。
「聞かせてもらおうかのぉ……妾達に、長耳風情が何をするというのじゃ?」
…………なんで居るんですか、アカネさん。
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