ミッションコンプリートです
今も黙り続ける古谷さんに、私は手を伸ばします。
「まて、リーフィア。そいつは……」
ディアスさんの制止の声を無視して、私は古谷さんの頬に触れます。
「ここ、傷がありますね」
「えっ……」
「治ってください」
私の魔力が古谷さんを包み、傷は一瞬で消え去りました。
「ついでに疲労しているようだったので、疲れも癒してあげました。まだ体は重いですか?」
「え、あ……いや。随分と軽くなった。ありがとう」
「どういたしまして。本当ならば出血大サービスと言ってぼったくるのですが、ディアスさんを助けていただいたということで、今回はチャラにしてあげます」
私達の立場を考えれば、私とディアスさんは魔王軍の幹部であり、古谷さんはそれと敵対する勇者です。
ここでどんぱちを繰り広げるのが普通ですが、恩を仇で返すようなことはしたくありません。なので、ディアスさんを助けていただいたお礼に、彼の傷と疲労を癒した。
これで、お互いに遠慮する必要は無くなりました。
「…………」
古谷さんは相変わらず黙ったままですが、先程のような気まずさはありません。あの時のことを根に持たれていたらどうしようかと思っていたのですが、そこら辺はあまり気にしていないみたいで安心しました。
あの時──ボルゴース王国が崩壊した日は、今となっては懐かしい記憶です。
古谷さんと会うのは…………えっと、何日ぶりでしたっけ?
「一週間ぶりですね?」
「流石にそれ以上の月日は経っていると思うけど!?」
「あれ、そうでしたか……んじゃ、数えるの面倒なのでお久しぶりです。で構いませんよね。というかそれでお願いします」
「あ、うん……リフィ……リーフィアさんはいつも通りだね」
「むしろ変わったらおかしいでしょう? ……あら、古谷さんお久しぶりですわね。ご機嫌いかが? お暇でしたら私と共にお昼寝しませんか?」
「…………うわ、寒気がしたよ。感情が皆無だったのが特にね」
「そうやって直球投げてくる辺り、古谷さんって私にキツいですよね」
なぜか私には容赦のないツッコミが飛んで来るのですが……って、思い返せば古谷さんだけではなく、他の方々から飛んでいましたね。解せぬ。
「んで、どうして古谷さんがここに? 私が言うのもなんですが、加担するのなら逆だと思いますよ?」
「この人を助けたのは、本当に偶然だよ。リーフィアさんが来るまで魔王軍だってのも知らなかったし……なんかディアスさんを見た時、俺達に似た何かを感じるなとは思っていたけれど、それだけだよ」
なるほど。だから私の登場であんなに驚いていたんですね。
一見すると、人間と魔族は区別が付きません。魔力を見ればすぐに判明するのですが、古谷さんはまだそういうところまでわからないのですね。
でも、ディアスさんが敵側だとわかっても、襲いかかる様子はありません。……まぁ、ここで殺そうと動いても、私とディアスさんを相手にすることになるのです。ちょっと頭が残念な傲慢野郎でなければ、剣を抜くことはないでしょう。
──にしても、古谷さんに似た何か?
「…………ああ、なるほど。ディアスさんも『元』勇者なので、互いに感じる何かがあるのですね」
「いや、俺は別に感じないな」
「……ディアスさんは、ちょっと黙っていただけます?」
勇者同時の何かがあると期待した私が馬鹿みたいじゃないですか。
本当にディアスさんは大雑把というか、そういうところが残念というか……とにかくガサツな人ですね。
「え、というか何。お前勇者だったの?」
「え、ディアスさん、元勇者だったの?」
お互いに知らなかったんかーい。というツッコミは置いておきましょう。
……なんか、見ていると面白いので。
「──それで、古谷さんは偶然ディアスさん達が襲われているのを見て、とりあえず助けたと」
「うん」
「ディアスさん達が何者か知らず、私が来たことで初めて魔王軍だったと知ったと」
「そうだね」
「なのに、敵対するつもりはないのですね」
「そりゃあ、自分の力量と、相手との差くらいはわかるさ。これでも俺、各地を旅して強くなったんだよ?」
「……ああ、そのようですね」
勇者としてはまだ頼りない感じではありますが、以前とは比べ物にならないほど強くなっている。それは彼の魔力量を見ればすぐにわかりました。
彼の中で何があったのかは知りませんが、本当に頑張ったのでしょうね……。
体付きも……ひょろひょろだった頃より男らしくなりました。
でも、纏っている優しい雰囲気は変わりません。それが古谷さんの取り柄でもあるので、性格まで変わっていなくて良かったと安心したのは、内緒です。
「──隊長!」
「隊長! どこですか!」
と、そこで魔族の兵士達を呼ぶ声が聞こえて来ました。
彼らに、ディアスさんの無事を伝える必要がありますね。
「さぁ、行きましょう。歩けますか?」
「……ああ、問題ない──っと」
「ああ、もうっ……ふらふらじゃないですか。瀕死のくせに格好つけるなと言ったでしょう?」
「……悪りぃ……肩貸してくれ」
「言われるまでもなく、貸してあげますって……ったく……」
私はディアスさんに肩を貸して運びながら、古谷さんと共に兵士の前に出ました。彼らに、傷は癒えたけどまだ安静にさせておけという旨を伝え、新たな馬車が寄越されるまで、私達は森で待機することになりました。
そこでようやく、私も落ち着くことが出来ました。
「はぁ……疲れたぁ……」
色々と予想外なことは起きましたが、とりあえずこれで『ミッションコンプリート』ですね。
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