ちゃんと待ちました

 結局バックれて帰ることはせず、店主が帰ってくるまで適当に中で休むことになりました。


 でも、今は私一人です。

 ミリアさんも途中まで大人しく待っていたのですが、そこはやはりお子様。うずうずし始めてついに我慢出来なくなったのか、急に「行ってくる!」と言い残して店から飛び出してしまいました。


 流石にあのミリアさんから目を離すのは危険なので、今はウンディーネに頼んで彼女の監s──もとい子守りをしてもらっています。


「はぁ……暇ですね」


 何もせずに待っているというのは、本当に無駄な時間です。


「流石に寝るわけにはいきませんよね……」


 私は常に惰眠を貪りたいエルフですが、それでも場所は選びます。

 流石に店内だったり汚い場所だったりと、そういう場所で眠りたくありません。眠ることは出来るのですが、快眠出来るかと言われたら……まぁ無理でしょうね。


 なので、今寝ることはしません。


「さて、どうしますかね」


 話し相手が居ないとなると、ちょうどいい時間の潰し方がありません。


 ……あー、ウンディーネを呼び戻して話し相手になってもらいましょうかね?

 最近はエルフを警戒していたせいでウンディーネとあまり話せていませんし、何より体がウンディーネから発される独特の癒しを欲しています。


 でも、それではミリアさんが心配ですし、ヴィエラさんに怒られてしまいます。


「さっさと帰って来てくれないですかねぇ──よっと」


 ただただ座っているのも嫌になって来たので、適当に店内を歩くことにしました。


 ここは鍛冶屋なので、それなりに武器や防具が揃っています。


 私は元居た世界でも芸術とか、そういう物に対して全くと言っていいほど興味がありませんでした。なので、今装備を見たところで何かを思うわけではないのですが、ちょっとした暇潰しにはなるでしょう。


「へぇ〜、意外と質の良い物を扱っているんですね」


 珍しいと言われている『魔法装備』も何個か取り扱っているようですし、腕は良いようですね。


 魔法装備とは、装備に魔力を流すことで更なる効果が付与される特殊な装備のことを言います。『魔法剣』や『魔道具』と言った、異世界ファンタジー系で有名な物を思い浮かべてくれたら良いでしょう。


 それは生産が難しいと聞いていたのですが、思ったよりも置いてあって驚きました。


 流石、ヴィエラさんが依頼するだけはあるって感じです。……って、何偉そうに語っているんですかね、私。



「──おう、なんだ客か」



 と、そこで店の扉が開かれた時に鳴るベルの音が聞こえ、その後に重圧感のある男性の声が背後から投げかけられました。


「あなたが…………この店の店主ですか?」


 振り向いたら私の視界に誰も居なかったので、思わず「え? 幽霊と会話しちゃった?」と焦って間が空いてしまいましたが、視線を下に向けると立派なお髭を生やした小柄な男性がちょこんと立っていました。


 成人男性にしては背が低すぎる気がしますが、おそらく彼は『ドワーフ』なのでしょう。彼の種族はほとんどが鍛治師として十分な腕を持っているので、この店に数々の魔法装備が揃っている理由も納得です。


「そうだ。俺がここの店主だ」


「幽霊じゃないですよね?」


「あ? 幽霊……? 何言ってんだ、お前」


「……いえ、気にしないでください」


 ちょっと気になって言ってみたかっただけなので、あまり気にされると逆に困ります。


「……どうやら、かなり待たせちまったみたいだな。用件はなんだ?」


「ヴィエラさんから頼まれた物を回収しに来ました」


「ほう? ということは魔王様の新しい護衛のリーフィア様か」


「あら、私のこと知っているんですか?」


 そう問いかけると、心底呆れたような表情をされました。


「……そりゃそうだろ。この街では魔王様の配下ってだけで憧れを抱かれるもんだ。その中でも腹心となれば、魔王と同じくらい慕われるもんだ」


「へぇ〜。そうなんですねぇ……」


「そうなんですねぇって、あまり驚いている感じしないな」


「だって、どうでも良いですし。人の評価を気にしても何の得にもなりませんし」


 街に行けば色んな人から食べ物をお裾分けしてもらえるのは嬉しいのですが、あまり慕われているという感じはしませんね。

 逆に話しかけづらいのか遠巻きに見られているので、はっきり言ってしまえば視線がうざいです。



 それを口にすると、店主は何とも言いづらそうな顔になり、苦笑いしました。



「魔王様の腹心は珍しい性格な方ばかりだと思っていたが、アンタは……いや、リーフィア様はその中でも別格だな」


「別に様と付けなくても良いですよ。変にかしこまって話されたら気持ち悪いだけですし」


「そうかい。んじゃ、その言葉に甘えさせてもらうわ」


 途端に人の良さそうな笑みを浮かべる店主。

 ……案外、ディアスさんと気が合うかもしれませんね。


「それでヴィエラ様の注文だったか。…………かなり量があるが、他の奴はどうした?」


「私一人ですけど、何か?」


「いや、流石に一人で運ぶのは厳しいだろ。ここから魔王城までめちゃくちゃ遠いってわけじゃないが、往復すると考えたら結構な時間と労力になるぞ」


「問題ないと思いますよ? それより、早く例のブツを見せてください」


「ああ、わかった……って、何でそんな残念そうな顔をしているんだ?」


「…………いえ、こちらの話なのでお気になさらず」


 やはりこのネタはわかりませんでしたか。

 こういう時にディアスさんが居たら、彼もこのノリに乗ってくれたんでしょうか?


 まぁ、知らなくても仕方ないですよね。


「頼まれた物は裏に置いてある」


 店主はカウンターの奥にある扉を開き、こちらを一瞥します。

 ……ついて来いってことですかね。

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