街に行きます(パシリ込み)

「ねぇリーフィア」


「嫌です」


「まだ何も言っていないんだけど……」


 開幕から即答で拒絶した私に、ヴィエラさんは呆れたような表情を浮かべました。


「まだ何も言われていませんが、何を言いたいかくらいはわかります」


 大方、手が足りないから手伝って欲しいとかでしょう。

 こういう場合、連絡係とか荷物を運ぶとか、何かしら動くお手伝いが多いです。


 そんなの私がやるわけないじゃないですか。


「まぁ聞いてくれって。今日、ミリア様は仕事が無いんだ」


「…………はぁ、だからなんです?」


 ミリアさんの視線は、ちょっと前から気付いていました。

 なんか暇そうにこっちをチラチラ見てくるなぁと思ってガン無視していましたが、今日はお休みだったんですね。


「ミリア様……ご自分の口からお願いします」


「うむっ!」


 ミリアさんは元気よく返事をして、ベッドに横たわる私に手を差し伸べます。


「リーフィア! 街に行くぞ!」


「嫌です」


 私はその手を、パシッと払いました。

 これ以上絡まれるのも面倒なので、ゴロンと壁の方に体を向けました。


「なー! なー! いいだろぉ、余は暇なのだ。一緒に街に行こー!」


「いーやーでーすー。大体なんで私なのですか。他の暇そうにしている使用人の人と行けばいいじゃないですか」


「だってお前、余の護衛じゃん」


「ぬぐぅ……」


 それを言われると、ちょっと苦しいです。

 街に行くから護衛もついて行くのは……まぁ、当然なのでしょう。


「いちいち歩くのは嫌です。マジで面倒です。一歩も動きたくないです。そもそも街には良い印象がないんです。というか街なんていつでも行けるじゃないですか。また今度行きましょう。よしこの話は終わりですね。お休みなさ──」


「アホォ!」


「ぐふっ……!」


 言いたいことだけを言って目を瞑ったら、ミリアさんの体が降ってきました。

 それはそれはプロも感嘆の声を上げるほどのボディプレスを受け、私の体はベッドの上で『くの字』に曲がりました。


「おまっ、いきなり饒舌になってびっくりしたわ!」


「びっくりしたのはこっちなのですが……」


 目を瞑ったらボディプレスですよ? びっくりしない方がおかしいです。


「お前は護衛! 余は街に行きたい! 行くぞ!」


「暴君。ここに極まれりですね」


 これ以上はもう何を言っても無駄でしょう。


「はぁ……わかりました。……わかりましたが、ヴィエラさんの用事はこれだけではないでしょう?」


 ミリアさんと街に出かけるだけなら、ヴィエラさんが直接何かを言ってくる必要はありません。先程のように「街に行くぞ!」だけで十分なはずです。


 ……そう考えると、ヴィエラさんのお願いはまた別にあるのではないか?


「と、私は考えたのですが、どうでしょうか?」


「……まぁ、否定はしない。私がリーフィアにお願いしたいことは、ミリア様のわがままとは別にある」


 ミリアさんが「わがまま!?」と驚愕しているのを、私達は無視します。


「リーフィアには、街を散策するついでにとある店に行ってほしいんだ」


 そう言って渡してきたのは、やはり書類でした。


「これを渡せばいいのですか?」


「それと、その店に注文していた物を受け取ってほしい。私の名前を出せば受け取れるはずだ」


 まさかのパシリ追加です。


「受け取ると言っても、大量にあると面倒なのですが?」


「君には『アイテムボックス』があるだろう?」


「あの……あれは私だけの能力であり、共通の便利グッズではないのですが」


「多分入ると思うんだけど、ダメだったら連絡してくれれば兵士を向かわせるよ」


 おおぅ……まさか私が無視されることになるとは思いませんでした。


 これは完全に私の言葉を聞かないモードに入っていますね。

 最近、こういうの増えているんですよねぇ……まぁ、これくらいされないと私は動かないので、私の特性を理解しているとすればそうなのですが……やっぱり思うところはあります。


 でも、流石はヴィエラさんと言うべきでしょうか。


 ちゃんと私が不満を持たないよう、無理矢理お手伝いさせた後は多めに休みをくれます。


 だから満足しちゃっているのですが、これっていいように使われているだけ?

 ……ま、まぁ、ちゃんと仕事分の休暇はもらっているので、一応満足しています。なので細かいことは気にしないようにしましょう。


「……はぁ、わかりました。それで、どこの店に行けばいいのですか?」


「それはミリア様に言ってある。だからミリア様の案内通りに──」


「ミリアさんの道案内? そんなの信用出来ません。地図をください」


「おいリーフィア! 流石にそれはひど──」


「そう言うと思って、地図を用意しておいたよ」


「予想してたの!? あるの!?」


 ミリアさんがギャーギャーうるさいですが、私達は全く気にしていません。

 もはや耳に入って来ていないレベルです。


「……とりあえず了解しました。かなりの無茶を強要したのですから、それなりの休暇を期待していますよ」


「ああ、本当に申し訳ないと思っている。存分に期待してくれ」


 渡された資料と地図を『アイテムボックス』に収納して、私はミリアさんと手を繋いで部屋を出ます。


 今日街に行くことは予定外でしたが、引き受けてしまったものは仕方ありません。

 こうなったら、久しぶりにミリアさんとのお出かけを楽しむとしましょう。

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