面倒なことになりました
侵入者。もといエルフ達は、魔王城の地下室に監禁となりました。
一応まだ人間の協力者だという疑いは晴れたわけではなく、ただ単に嘘を付いている可能性もあります。なので、軽く尋問しながら目的などを聞いていく予定らしいです。
それを執務室で聞かされた私は、出された紅茶の残りをグイッと飲み干します。
「大変そうですね。では私はこれで……」
「ちょっと待てい」
「──ぐふっ」
自然な動作で立ち上がり、部屋を出て行こうとする私の後ろ髪を、ミリアさんが掴みます。ちょっと首が痛くなりました。後遺症が残ったらどうしてくれるんですか、もう……。
「何を他人事のような顔をしているのだ。今回の件は、お前が一番関わっているのだぞ?」
「──チッ」
「舌打ちをしてもダメだ」
「でも、まだ言い訳をしているだけかもしれません。私が関係していると決めつけるのは良くないと思いまーす」
これ以上私を働かせるなー。
労働基準法で訴えるぞー。
私に休みを与えろー。
給料3倍にしろー。
私はわーわーと喚きます。
「お前、こういう時だけうるさくなるな……というか最後だけは意味わからん」
「休めるのなら全力を尽くすのみです」
「それをもっと他の場所に……使うわけないか」
「よくお分かりで」
「そこはドヤ顔をするところではないぞ」
確かにドヤ顔をするところではありませんね。
ですが、そこに全力を注ぐのが『私』という生き物です。
休めるのであれば、どんな手を使ってでも休む。そう決めたのですよ。
「ってことで、私は帰ります」
「帰さぬと言っているだろうが……!」
ミリアさんは私に抱き、引っ張ります。
絶対に部屋から出さないという意思が見えますが、私も負けていられません。
「いーやーでーすー。私は帰るんですー」
私は大人の体で、ミリアさんは子供。
体格差から違います。普段なら筋力は均衡していますが、こういう場合は私に利があります。
「くそ面倒なことに構っていられるほど、私は暇ではないのですー」
「このっ、とうとう本性を現しおったな! というかどうせ寝るだけだろ! 絶対に暇だろう!? 正直に言えお前!」
「──仕事です」
「余の護衛のことだよな!?」
「…………いえ、睡眠のことです」
「そこは黙秘しろよ! 正直に言うなよお前!」
「んな無茶な」
正直に言えと言ったり、正直に言うなと言ったり……私はどうすれば良いのですかね。
……あ、その答えがわかりました。
寝ます。
「ミリアさんミリアさん」
「ん、なんだリーフィ──っ」
ミリアさんの拘束が一瞬だけ緩んだ時を狙い、私はその場で素早くターン。
両手をミリアさんの脇に潜り込ませ、手をわしゃわしゃと動かします。
「く、あひゃひゃ! やめっ、やめろリーフィ……!」
「そぉい!」
声を我慢して抗おうとするミリアさんの隙を突き、私は大きく後退して扉まで跳びました。
「あ、こら待──ぶふっ!」
ミリアさんが私に手を伸ばす前に、私は扉を閉めました。
その際になんか鈍い音が聞こえた気がしますが……今は気にしないことにしましょう。
「ウンディーネ、居ますよね?」
『……うんっ、ちゃんと居るよ……!』
「よし、自室に逃げますよ」
私はウンディーネを引き連れ、走ります。
私が本気で走れば、それはまさに風のよう。
すれ違った使用人達も廊下に一瞬だけ舞う風に戸惑いながらも、不思議そうに首を傾げるだけでした。
『でもリーフィア……本当に良かったの?』
「多分、良くないです」
『えぇ……!?』
ウンディーネは目を丸くさせて驚き、今からでも遅くないから戻ろうと提案してきます。
しかし、私は首を横に振ってその提案を否定しました。
「これからミリアさん達は彼らを尋問するでしょう。彼らの目的が何なのかを調べるのでしょう」
どのような理由があっても、彼らは正式に入国した者ではありません。
そんな侵入者への尋問は絶対です。
彼らはエルフ。
私に用があるという言葉に嘘は感じられませんでした。
「ですが、私がその場に居て何になるでしょう?」
エルフの視線からは、私に何らかの敵意を感じました。
「私が尋問の場に居れば、彼らはきっと何も話しません」
なぜ私に敵意を向けているのかは知りません。
ですが、私が尋問に参加すれば彼らの精神を逆撫でするのはわかりきっていることです。
だったら最初から居ない方がいい。
私はそう考えました。
『リーフィア……そこまで考えて……』
「今考えました」
『リーフィア……!』
「ふふっ、嘘です。一応ちゃんと考えていましたよ」
ちゃんとした理由を付けて、眠るために休みたいというのが本音ですけれどね。
とりあえずはミリアさん達に任せることにします。
本当に何かがあれば、手伝えば良いだけですからね。
「それに、まだ休暇期間は残っています」
それまではゆっくりと休暇を楽しむことにしましょう。
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