信用って何ですかね

「え、ちょ、見たって、えぇ……?」


 侵入者を見たと言っただけで、ミリアさんは混乱してしまいました。

 目を白黒させ、間抜けな面を晒します。


「ち、ちなみに侵入者は今どこに?」


「縛って裏路地に放置しました」


「何で放置する! 持ってこいよお前ぇ!」


「そんな無茶な……」


 だって本気でストーカーだと思っていたんですもの。

 縛るだけで、後は見つけた方に放り投げてしまおうかと……。


「もしかしたら逃げられているかも……すぐに向かわせなければ!」


「あ、それは大丈夫だと思いますよ? かなりキツめに縛ったので」


「ナイスだリーフィア! よし、行くぞ!」


「え、どこに、って……あ〜れ〜……」


『リーフィア!?』


 ガシッと腕を掴まれ、ミリアさんに強制連行される私。その後ろで心配そうにウンディーネが付いてきます。

 廊下をズルズルと引きずられます。最近、廊下を普通に歩くことがないなぁ……と他人事のように思っている間に、執務室へと来ていました。


 その中にはディアスさんとアカネさんが居ました。

 侵入者について話し合っていたのでしょう。どちらも難しそうな表情をしていました。

 ですが、急に入ってきた私をミリアさんを見て、少しだけその硬い表情が和らいだように見えます。


「おお、やっと来たかリーフィア」


「来た。というより、連れて来られた。の方が適切なようじゃがなぁ」


 と、そんなことを言われました。

 少しばかりの同情したような視線が痛いです。


「二人とも! 今すぐ城下街へ向かうぞ!」


 そして新たに二人を引き連れたミリアさんは、相変わらず私をガシッと捕まえたまま廊下を歩きます。

 ……途中ですれ違う使用人達の視線が優しかったのは、きっと気のせいでしょう。


 ですが、流石にこのままでは恥ずかしいですね。

 まだ魔王城内なので問題はありませんが、城下街に向かうとなれば話は別です。


「あのぉ、そろそろ離していただけると嬉しいのですが」


「だってお前、逃げるだろ」


「いや、流石に城下街に行けば逃げませんよ」


「本当かぁ?」


 めちゃくちゃ疑いの目を向けられています。

 見事に信用されていませんね、私。


「ウンディーネからも何か言ってあげてください」


『えっ、と……ここで逃げた方が後で面倒になるから、多分リーフィアは逃げないと思う、よ?』


 うんうん、流石私の精霊です。よくわかっているではないですか。

 でもですね。もうちょっと優しく言ってくれても良いのではないですか? と私は思うわけですよ。完全に私が悪いのは理解しているのですが、ウンディーネに言われると心にくるものがありますね。


「まぁ……ウンディーネが言うのであれば……」


 どうして私よりもウンディーネの方が信頼厚いのですかね?

 というかここまで信頼の無い従者って珍しいのでは?


「どうしたリーフィア。何か不満そうだな」


「……いえ、別に」


 まぁ、細かいことを気にしたら負けです。

 今は解放されたことを喜ぶとしましょう。


「さっさと行きますよ」


 私は、ストー……侵入者を縛り上げた場所へ向かいます。


「おお、珍しくやる気があるじゃねぇか」


「どうせ面倒な用事を早く終わらせて眠りたいのだろう」


「リーフィアらしいのぅ」


 好き放題に言われてますね。

 当たっているので何も言い返せないのが辛いところです。


 そうこうしている間に裏路地に入り、私は侵入者達を縛り上げた場所に辿り着きました。


「あれです」


 彼らは意識を取り戻したのか、どうにかして束縛から抜け出そうと頑張って身をよじっていました。

 ですが、私の拘束はその程度で抜け出せるようなものではありません。


「なぁリーフィア」


 ディアスさんが何かを言いたげに私を見つめ、侵入者達を指差します。


「あれ、亀甲──」


「何も知りません」


「いや、猿ぐつわもある──」


「魔法を詠唱させないようにしただけです」


「やっぱりあれ亀甲縛──」


「ディアスさんは何も知らない。良いですね?」


「…………おう」


 笑顔で押し切ることに成功しました。

 そう、あれはただの拘束なのです。亀甲なんちゃらという縛りは知りません。


「あの拘束……動きづらいように計算されている。見たことのない縛り方だ。リーフィア、後で余にもあれを教え──」


「「ダメだ(です)」」


「お、おう」


 私とディアスさんが同時に却下したことで、流石のミリアさんも押し黙ってしまいました。

 これは別にやましい縛りではありませんが、子供が覚えるにはまだ早いです。


 アカネさんも教わりたかったのでしょう。

 ちょこっと手を挙げてミリアさんに便乗しようとしていましたが、二人の頑固たる意思を感じ取り、諦めたようにゆっくりと手を下げていました。


「──コホンッ。とにかく、あれが侵入者らしき人です。私とウンディーネのことを尾行して来たのでストーカーだと思い、縛りましたが。報告に受けた人物を同じでしょうか?」


「…………うむ。見事に一致しているな。よくやったぞリーフィア」


「では、報酬として一週間の休みを──」


「それとこれとは別だ」


「──チッ」

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