変質者です……?

「──ん?」


 それは魔王城へ帰っている途中のことでした。

 私は不意に何かを感じ取り、立ち止まります。


『どうしたの?』


「…………いえ、何でもありません」


 誰かに見られているような気がしたのですが、今は何も感じません。

 私はエルフですし、精霊のウンディーネも居ます。目立つ要素は十分なので、誰かが見ていただけだと思われます。


 ……きっと気のせいでしょう。


「──っ」


 そう思ってまた歩き出した時のことです。


「…………やはり、見られていますね」


 場所は斜め右後ろ。

 裏路地に続く建物の角から視線を感じます。


 ……そしてその視線は消え、少ししたら再び視線が注がれます。


 これはウンディーネに、ではありませんね。

 私に注がれた視線です。


「はぁ〜〜〜〜ぁ……ウンディーネ予定変更です。もう少し歩きますよ」


『えっ……う、うん……』


 長い溜め息の後、ウンディーネの手を取り、行く道を変更します。

 右へ左へ。細い道を進んでいくうちに、広場から大きく外れた裏道に入っていました。


「…………もしかしたら、と思っていたのですが……上手い具合に進みませんねぇ」


 私は立ち止まり、再び溜め息を吐きました。

 視線は、まだ感じたままです。


「出てきてください。見えているのですよ」


 それを合図に、曲がり角の奥から大勢の人が現れました。

 全員がフード付きのマントを羽織っていて、顔がよく見えません。

 ……そのマントに認識妨害の魔法でも掛かっているのか、魔力をあまり感じません。


 ですが、人間ではないでしょう。

 それは雰囲気で何となくわかります。


『り、リーフィア……この人達は……?』


「誰でしょうね?」


『リーフィアも知らないの?』


「知っていたらもう少し明るい場所で歓迎していましたよ」


 いや、知り合いだろうと歓迎するのは面倒ですね。やっぱり無視して魔王城に帰っていたでしょう。

 というか今も眠いので帰って良いですかね?


「ウンディーネ。やっぱり帰りましょう」


『え、でも……何か用があるみたいだよ?』


「だるいです」


『……あ、うん……』


「ですが…………あちらは返してくれそうにありませんね」


 私達が呑気に話している間に、謎の人達に囲まれていました。


 ……ふぅむ。


「意外と統率が取れていますね」


『うん……この人達は、もしかして…………』


「ストーカーのくせに」


 ──ガクッ。


 私を囲っている人達。ウンディーネ。

 そこにいる全ての人達が一斉にコケました。


 …………あれ?

 私何か変なこと言いました?


『リーフィア……うちの目には、変質者に見えるけど……?』


「ええ、変質者ですよね…………え? つまりストーカーではないのですか?」


『それは……そうだけど…………なんか違う気がする』


「そうですか? まぁ……どうでも良いです」


 そう、どうでも良いです。

 私が知りたいことは、この人達がストーカーかどうかではありません。


 私が知りたいことはただ一つ。


「どうして私を見ていたのですか?」


 …………ふむ、返事はありません。

 何も言うつもりはないようですね。

 だったら、こちらから言いたいことを言ってやりましょう。


「どうして私なのですか?」


「『…………?』」


 変質者達は首を傾げます。

 どうやら、事の重大さをわかっていない様子です。


「私よりもウンディーネの方が可愛いでしょう。見るなら絶対にこっちでしょう……!」


 ──ガクッと、再び変質者達とウンディーネがコケました。


『リーフィア!?』


 …………あれ? また変なことを言ってしまいましたか?


「だって見るのならウンディーネでしょう? 可愛いのは絶対にこっちでしょう? あなた達の目は腐っているのですか? 攫うならまず彼女を狙うでしょう普通。それともウンディーネは可愛くないと? ぶっ殺しますよ?」


『そろそろストーカーの概念から離れよう!? ……後、物騒なのはダメだよ……!』


「あ、はい……すいません」


 ……コホンッ。まぁ、良いです。

 これ以上この人達と関わっても意味はありません。


 私はウンディーネの体を抱き寄せ、魔力をその身に纏います。


「──っ、抑えろ!」


 変質者の一人が手を伸ばしますが──遅いです。


「──ダウンバースト」


 変質者の全てが、私に頭を垂れるように地に伏せました。


「もう少し強くしましょうか」


 私は魔力をより強く流しました。

 風はより一層勢いを増し、それは圧力となって変質者達を襲います。ミリアさんやウンディーネくらいでなければ抗えない風の拘束。それをそこら辺のストーカーが受けて無事なわけがありません。


 彼らはすぐに動かなくなりました。

 …………あ、殺してはいませんよ? 気絶しただけです。


「さて、ストーカーも気絶したことですし、行きましょうか」


 意識を取り戻して、また別の女の子をストーカーし始めたら困ります。

 念のために縄できつく縛って、私はその場を後にしました。警備隊に持っていく? そんな面倒なことはしませんよ。これを見かけた人が勝手に持って行くでしょう。


「結局、今のストーカーは何だったのでしょうかね?」


『……ストーカーなのは、もう変わらないんだね……』


「え? ストーカーじゃなかったのですか!?」


『…………もう、ストーカーで良いと思う……』


 ウンディーネから呆れたような視線を感じました。

 ……なんか、今日は色々な視線を向けられますね。


「…………?」


 私は意味がわからず、首を傾げるのでした。

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