久しぶりに苛々しました

 街中の探索を終え、私達は王城へと戻っていました。


 その間、襲撃を仕掛けてきた暗殺者の数は、27人。

 よくぞこんな数を用意しましたね。

 おそらく、国が抱えている暗殺者を全員投下したのでは?


 ──と思った私がいました。


「ですが、現実はそう甘くないんですよねぇ……」

「──ん? 何のことだ?」

「いいえ、何でもありませんよー」


 王城へ戻った私達を待っていたのは、隠すことを諦めた阿呆達の歓迎襲撃でした。

 むしろ、ここからが本番だと言いたげに、襲撃の回数が増しています。



 訓練で剣を振っていたら、勢いあまって手からすっぽ抜けてしまい、ミリアさんに一直線で飛んで来る剣。

 ──庭で訓練しないように注意しました。


 飛竜が上空にいたからと、飛んできた数本の槍。

 ──次は当ててくださいねと言いました。


 侵入者だと勘違い(大嘘)した魔法使いが撃ち込んだ特大の魔法。

 ──魔王が来ていることを知らなかったんですね。


 見るからに怪しい地雷のプレゼント。

 ──茂みに潜んでいる人達に風で送り返してあげました。


 子供を装った暗殺者の接近。

 ──ミリアさんは風景に夢中だったので、私が対応しました。



 と、そんな感じで襲撃は苛烈になっています。

 そんな中、ミリアさんが放った衝撃の一言がこちら。


『人の国は賑やかだな!』


 もう何も言うまい。


 私は潔く諦めました。

 アカネさんも常に警戒して疲れているのか、溜め息の回数が増えていました。


「そろそろ疲れました。部屋に戻りましょう」

「もう疲れたのか? 余はまだ……」

「ミリア、妾も少し疲れた。リフィの言う通り、部屋に戻ろう」

「ぬぅ……二人がそう言うなら……仕方ない。余がわがままをいう訳にはいかないからな」

「いつも言っているじゃないですか」

「何か言ったか?」

「……いえ、何でも」


 とにかく、一度部屋に戻れば襲撃も収まるはずです。


 平然を装いつつ、私達は城の中に入ります。

 途中、何度か兵士とすれ違いましたが、流石に真正面から斬りかかってくることはして来ませんでした。

 ただ感情は隠そうとせず、憎たらしげに魔王を睨んでいます。


 ……ちょっと、イラっとしました。


 友好を築くと騙してミリアさん達を呼び、隠すことなく襲撃を仕掛ける。

 王は、自分の国を何だと思っているのでしょう。

 街中で暗殺者を放ち、城内ではやりたい放題。


 市民に迷惑をかけるとは思っていないのでしょうか?

 襲撃がミリアさんにバレて、国が危機に晒されえるとは思っていないのでしょうか?


 ……まぁ、私がどう言っても王様は変わらないでしょう。


 彼が本当にどうしようもないボロを出すまで、私はミリアさんを守るだけです。

 おそらく今日の夕刻、二回目の食事会でそれは起こります。

 そこが王と側近達にとって、最後のチャンスだからです。どんな手段を使ってでも、あの人達はミリアさんを害そうとしてくることでしょう。


 アカネさんもそれを理解しているようです。

 ミリアさんは……うん、別に知らなくても大丈夫でしょう。


「ダーイブ!」


 部屋に戻り、ミリアさんは真っ先にベッドへダイブします。


「もふぅ……」


 私はその後に続き、横になります。

 ついでにミリアさんを抱き寄せ、抱き枕にします。


「アカネさん……私は寝ますぅ……」


 食事会まで、後2時間。

 それまでゆっくりと眠るとします。

 私は疲れたんで────


 コンコンッ。


「…………ん、んん……誰ですか、もう」


 微睡みに落ちようとしていたところで、誰かがドアをノックしました。


 アカネさんが見に行ってもいいのですが、ここは安全を考慮して私が行くことになっています。

 体を起こし、ドアを開きます。


「はいはーい……って古谷さんですか」

「やぁ、リフィさん」


 来客は剣の勇者、古谷さんでした。

 一体何の用でしょうか?


「丁度良かった。リフィさんに用があって来たんだ」

「私に、ですか? 何でしょう?」


 本音を言うと今すぐ寝たいのですが。


「王様がリフィさんを呼んでいるんだ。少し、一緒に来てくれないか?」

「え、嫌です」


 ガクッとコケる古谷さん。


 おっと、つい本音が出てしまいました。


「どうして王様が私を?」

「それはわからない。とにかく呼んでくれと言われただけだから」

「えぇ……無性に行きたくないんですけど」


 勇者に理由を述べず、ただ私を呼べと。

 本当に何でしょうね。


 そう考えていると、ドア付近で話している私達が気になったのか、ミリアさんが近づいて来ました。


「何だ、どうした──って、おお、誰かと思えば勇者ではないか!」

「こんにちはミリアさん」

「うむ、こんにちはだ! それで、こんな所でどうしたのだ?」

「どうやら、王様が私に用があるとかで、それを古谷さんが知らせに来たんですよ」

「……んん? わざわざ勇者を使ってか? 他の者に伝えれば良いだろう。どうしてそんな無駄なことを、ここの王はしているんだ?」


 おお……ミリアさんまさかのドストレートですか。

 でも、その通りです。勇者がこんな所で王様の雑用をしているのは、無駄としか言いようがありません。


 自分がしている雑用を無駄だと言われた古谷さんは、頬を掻いて困り顔です。


「俺がやっていることって、無駄……なのかな?」

「それはそうだろう。お前は勇者なんだぞ? 城で雑用をしていることが仕事ではない。旅に出て力を付け、魔物や我ら魔族と戦い、今も困っている人々を救う。それが勇者の仕事だろう? 実際、他の勇者は全て、仲間と共に旅に出ている。こんな場所でのんびりしているのは小町、お前だけだ」


 惜しい、古谷です。

 折角カッコいいことを言ったのに、全てが台無しになってしまいました。


 でも古谷さんには、しっかりとその言葉が届いたようです。

 真剣な表情になり、そして困ったように笑いました。


「それ、敵が言うことじゃないよね」

「そうか? だが、いつの時代も人と魔族はそうやって戦ってきた。余はいつでも正々堂々とお前らを待つぞ。…………あ、奇襲で魔族領に侵入して来るのだけは勘弁してくれ。それをやられると、民達の避難が間に合わないんだ」


 ミリアさんはこれでも、しっかりと民のことを第一に考えています。

 馬鹿な王でも、これの違いで尊敬するか否かで分かれるのでしょう。


「……前に、リフィさんにもこうやって説得されたよね」


 そうでしたっけ?

 ……ふむ、思い出してみれば、そんなことを言ったかもしれません。


「わかった。魔王にまで言われたら、仕方ない。俺も考えを改めるよ」

「うむ! そうした方がいいぞ!」

「…………それで、用件のことなんだけど」


 古谷さんが私を見つめます。

 それに釣られてミリアさんも視線を移します。


 ……はぁーーーーーー、わかりましたよ。わかりましたって。


「行きますよ。案内してください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る