第76話 究極の味!

「はーい、お待ちどうさま」


 そんな俺の心のボヤキも奥さんの一声で中断(?)の形になったし、唯たちも「待ってましたあ!」と言わんばかりの歓喜の表情でテーブルの並べられた料理を見てるから、ひとまず秘密兵器(?)の話は棚上げになった形だ。

 小野寺と茜さんは餃子の乗った皿に顔を近づけて、まるで犬の如く匂いを嗅いでる!そのくらいにこの餃子からはいい匂いが漂っているのだあ!!

「・・・たっくーん、この餃子、いい匂いがするねー」

 唯も関心することしきりだったけど、俺はこの店に来るのは初めてだけど餃子は実は初めてではない。

「まあ、食べてみてのお楽しみだね。俺だって、ここの餃子は久しぶりだから」

「あれっ?たっくーん、この店に来るのは初めてでしょ?」

「ん?来るのは初めてだけど、餃子だけは何度も食べた事があるよ」

「マジ!?」

「ああ。爺ちゃんや兄貴が何度かテイクアウトしてるから、それを食べた事があるのさ。まあ、ここ1年くらいは無かったから唯が知らないのも無理ないけど」

「ふーん」

「折角の料理も冷めると美味しくなくなるから、さっさと食べようぜ」

「それもそうね」

 俺とはそう言うと、まずは餃子のタレを作るべくテーブルの上にあった醤油と酢、それとラー油の入った瓶からラー油を少々、下に沈んでる唐辛子もほんの少しだけ小皿に入れた。いつもはテイクアウトだから小瓶の容器に既に出来上がったタレが入ってるけど、さすがに店にはないから自分で作るしかない。自分で調合したタレだけど、箸の先端にちょっとだけつけて口に含んでみたけど味は悪くない。でも、なんとなくだがいつものタレと微妙に味が違うのは否めないけど、今日はこれでいく事にした。

 俺は箸を右手に持ったけど、唯は左利きだから左手で箸を持った。小野寺と茜さんはまだ顔を皿に近づけたまま光悦の表情をしているから、よっぽど気に入ったのだろう。

「「いただきまーす」」

 俺は早速餃子を1つ箸で掴むと、それを少しだけタレにつけた。本当はドップリと漬けたいけど、まずは味見の感覚でいたのだが、その餃子を口に入れた時、俺の口の中に柔らかい歯ごたえと共にキャベツとひき肉の味が広がった。いつもはテイクアウトした餃子だけど今は出来立てだから、まさに究極の味としかいいようがない!俺は1口だけのつもりだったけど、思わず全部口の中に入れてしまったくらいだ!

「・・・たっくーん、この餃子、匂いもいいけど味も最高ね!」

 唯も気に入ってくれたのか、極上の笑みを浮かべながら餃子を食べているけど、小野寺たちは炒飯とラーメンをお椀に半分くらい移して、それが終わってから餃子に手を付けた。こちらも唯と同様に「幸せー」と言わんばかりの表情で餃子を頬張っているように見えなくもない。

 俺も2つ目、3つ目と次々と口に運んでいるけど、まさに『箸が止まらない』と言った表現がピッタリだ。

「うん、俺も最高!」

「まさに究極の餃子よね!」

「ここの餃子、蒸し焼きにする時に使うスープが究極の味を引き出しているって知ってるか?」

「スープ?」

「そう、スープ」

 そう言って俺は厨房を指差したけど、丁度その時、御主人が餃子を焼いているフライパンの蓋を一度あけ、そこに熱々のスープを入れたからフライパンから湯気が上がると同時に素早く蓋をして湯気を閉じ込めたところだった。

「・・・たしかに水じゃあないわね。ラーメンのスープに見えなくもないけど、あれが美味さの秘密なの?」

「らしいぞ。俺も詳しく知らないけど、これがここの餃子の美味さの秘密だって父さんが言ってた。このスープの製法はこの店の命だから、まさに企業秘密という代物さ」

「たしかに、この餃子も少しだけ茶色くなってるけど、このスープの味がしみ込んでるのかなあ」

「だと思うよ。あそこに調理前の餃子が並べられてるけど、あの皮は白い。ここの店の餃子はスープの旨味を閉じ込めてあるから、カリカリ餃子じゃあなくて水っぽい餃子だけど、これがこの店の餃子であって他の店と大きく違うって父さんや兄貴も言ってるし、実際、そういう書き込みが多いんだ」

「ふーん」

「しかもさあ、この餃子のプニプニ感と相まってモヤシのアッサリ感が絶妙だよな」

「モヤシは浜砂餃子の命だけど、ここのモヤシは餃子に合わせてあるのか、茹で方が他の店と違うのかなあ」

「そうかもしれないけど、さすがに俺も分からないなあ」

「たっくーん、これって、黙っていても箸が進むからさあ、一人前ずつじゃあなくて、2人で三人前とか二人前ずつにした方が良かったような気がするけどー」

「それは俺も思った。失敗したなー」

「だよねー」

 そう、俺も唯も餃子しか手をつけてないから、10個あった餃子も残りは互いに1個しかないのだ。しかもライスとスープには何も手を付けてないから『物足りない』という表現がピッタリの状態だ。さすがに他のお客さんが入口横の椅子に座って席が空くのを待っているような時に「すみませーん、餃子を追加してもいいですかあ」などと言うのも失礼だからなあ。因みに小野寺と茜さんはというと、既に食べ終わっている!しかも「もっと餃子を食べたかったなあ」などと俺たちと同じ事を言い合ってるけど、それくらいにこの店の餃子を気に入ってくれて俺としても少し嬉しいです、ハイ。


「「ごちそうさまでしたー」」





 

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