第68話 ちょっと揶揄ってみたくなっただけー

 俺たち3人はクリームどら焼きが出来るまでの間、向かいのセブンシックスで時間を潰す事になったけど、当たり前だけど店内でクリームどら焼きを食べるなどという非常識な事はやらない。セブカフェの出来立てカフェオレを手に持って、店のすぐ外でクリームどら焼きと一緒に食べている。

 俺たちは店の前で正三角形の位置に立っているけど、唯だけが左手にクリームどら焼きを持って右手はカフェオレのカップを持っているけど俺と藍は逆だ。ここは利き腕の違いなのか!?

「・・・いやー、どら焼きにカフェオレも案外いけるかもねー」

「私は及第点という事で50点かなあ」

「唯も100点はつけられないけど、70点くらいは与えてもいいと思うよー」

「さすがにエスプレッソあたりだと無理があるだろうけど、アメリカンの方が良かったかなあ」

「うーん、そこは唯も同感だけど、コーヒーよりは紅茶の方がいけるかも」

「まあ、そのあたりは個人の好みね」

「だねー」

 どうやら藍も唯もクリームどら焼きとカフェオレの相性には、それなりの点数をつけているみたいだけど、俺が会話に加わっていいなら30点をあげればいい方であって、10点以下にしたいくらいだ。でも、俺が言ったところでどうしようもないけど・・・

「・・・そういえばさあ、梓先輩とこうやってゼンブシックスの前で肉まんを食べたよね」

「あー、言われてみればそうだったね」

「でもさあ、セブンシックスに行く時は絶対に琴吹先輩は行かなかったし、Lソンの肉まんを食べる時には絶対に梓先輩は来なかったよねー」

「そうそう!」

「梓先輩は『肉まんは絶対にセブンシックスの方が美味しい』って言ってたけど、琴吹先輩は『Lソンの肉まんの方が絶対に美味しい』とか言い張って、何度も口論してたなあ」

「食べ比べもやったよね」

「そうだねー」

「さすがのりっちゃんも『あんまんにしてくれ』とは言えなかったから、泣く泣く肉まんを食べてたよねー」

「しかも律子先輩、『こっちのファミリーストアの肉まんが美味しい』とか真顔で大ボケをかますから琴吹先輩に『今すぐ買ってこーい!』とか怒鳴られてパシリをやったよね」

「あれっ?たっくんがパシリをしたんじゃあなかった?」

「ううん、違うよー。たしかに最初は律子先輩がいつも通りに拓真君に押し付けようとしたけど、琴吹先輩だけでなく梓先輩まで『言い出しっぺが行って来い!』とか言うから、律子先輩が仕方なくパシリした挙句『肉まんが品切れで、どデカ肉まんを買ってきましたー』とか言ってシラッとしてたから、琴吹先輩が本当にキレて、結局差額は律子先輩の自腹になったんだよねー」

「あー、そうだ、思い出したー」

「で、結局、どっちに軍配が上がったのか覚えてる?」

「あれっ?たしか・・・たっくんがをやったんじゃあなかった?」

「そうだよー。拓真君が『やっぱり婆ちゃんの手作りが一番いい』と言って見事に裁いたんだよね」

 いや、あの時の俺の一言が肉まん論争に決着をつけたのは事実だけど、天下の名奉行大岡越前守おおおかえちぜんのかみ忠相ただすけと比べたら、俺のやった事は小さい事だ。俺はただ単に『どっちが上だ、だっちが下だの決着ではない、玉虫色の決着』『この場を丸く収める』と考えたら、どうすれば全員が納得できる結論になるかだけを考えていただけだ。決して先輩を助ける為に言った訳じゃあない。結果論だけを言えば、たしかに唯の言う通り『大岡裁き』かもしれないけど、俺は大岡越前守の足元にも及ばない人物だ。

「・・・やっぱりたっくんは弁護士より裁判官の方が向いているような気がするけど、アイはどう思う?」

「うーん、私としては、拓真君は弁護士でも裁判官でも検察官でもない方がいいと思うよ」

「えっ?それって、どういう意味?」

「ユイは知ってるんでしょ?拓真君が何故法学部に進学したくないのかを」

「知らないよ」

「嘘でしょ!! ( ゚Д゚) 」

「だってー、唯は本当に知らないよー。たっくんが法学部に行きたくないって何度もグダグダ言ってたのは知ってるけど、どうして法学部が嫌なのかまでは知らないよー」

「はあああ・・・ユーイー、拓真君がどうして軽音楽同好会の正規メンバーでないにも関わらず第二音楽室に来るようになったのか、知ってる?」

「うーん・・・唯はアイに誘われて同好会に入ったけど、唯は元々帰宅部のつもりだったから締め切りの2日前だよ。だけど、たっくんが第二音楽室に顔を出すようになったのは5月の中旬だったような・・・」

「それはそうだけど、じゃあ、をユイは知ってるの?」

「うーん・・・まさかとは思うけど、りっちゃんが『スイーツ研究会がアテにならなくなった以上、他の金づるを引っ張ってくる』とか訳の分からない事を言い出して、お菓子目当てでたっくんの首に縄をつけて無理矢理引っ張ってきたとかはないでしょ?」

「まあ、たしかに律子先輩なら本当にやりかねないけど、ぜーんぜん違います」

「それじゃあ、何なの?」

「正解は・・・私が好きだからでーす」

「「はあ!? ( ゚Д゚) 」」

 おい、藍!冗談も程々にしてくれ!!もう少しで俺はカフェオレを唯の顔にぶっかけるところだったぞ!!!

「・・・というのは真っ赤な嘘でーす」

「アーイー、エイプリルフールは1か月前だよー」

「ゴメンゴメン、ちょっと揶揄ってみたくなっただけー」

 あーいー、お前さあ、完全に唯に喧嘩を売ってるよなあ。その証拠に『私が好きだからでーす』と言った時の顔はマジ顔だったぞ!唯も一瞬だけど顔が引きつってたぞ、ったくー。

「・・・で、本当のところはどうなの?」

「あのね、表向きは拓真君を同好会に引っ張ってきたのは私という事になっているけど、本当は拓真君の方から足を運んだんだよ」

「どうして?」

「あー、それはね・・・拓真君の将来の夢と、私の将来の夢が一致したから、拓真君が自分の方から第二音楽室に来るようになったんでーす」

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