第57話 風紀委員として質問します!!

 俺は机の上に大量に置かれていたサブレーが春花堂の袋に入っていたのに気付いて思わず聞いてしまった。購買では春花堂の袋を出す事はしてないし、かといって春花堂の商品ラインナップでは見た事がない形のサブレーだったから、そのサブレーを指差しながら琴木さんに素朴な質問をしたけど、琴木さんはニコッとしながら

「うーん、新商品といえば新商品ですけど、正確には開発段階の試作品ですよー」

「「「試作品!?」」」

 俺と藍、唯は思わず大声でハモってしまったけど、先輩は事情を知っているらしくニコニコしたままサブレーを摘まんでいるけど、琴木さんはサブレーを1枚、手に取って俺に「はい」と言って差し出した。

「・・・正しくはですねー、新商品として売り出す前に、社内で公開モニタリングして商品化しても大丈夫かチェックしてもらうんだけどー、それを昨夜お爺ちゃんが「『放課後お喋り隊』の人にも評価してもらえ」とか言って箱でドサーッと持って来たのよねー。今日はそのうちの1つを持って来たに過ぎないけどー、あと3袋あるから遠慮しないでモニタリングして下さいねー」

「「「・・・・・ (・_・;) 」」」

「あー、そうそう、このサブレーだけど、もし本当に商品化して売り出すとなったら『朝のお菓子 うなサブレ』という名前になるって言ってたよー」

「「「「うなサブレ!?」」」」

 今回は先輩も一緒になってハモってしまった。どうやら先輩も商品名までは聞いてなかったようだ。

「・・・このサブレーはね、朝から元気モリモリ!今日も1日頑張るぞー!!という気分になってもらおうというコンセプトで開発された、うなパイの姉妹品なのねー。朝だから手軽に食べられるように、小さくて、アッサリ仕立てのサブレーにしてあるんだよー。もちろん、価格も少しお手軽にして、まさに午前のおやつタイムに丁度いいサブレーとして販売するつもりなんだよー」

「「「「・・・・・ (・_・;) 」」」」

「あー、そうそう、お爺ちゃんが言うにはー、今後も試作品のモニタリングをやってもいいって言ってたからー、来週には浜砂のもう1つの特産、スッポンを使ったパイもモニタリング出来るよー」

「「「「・・・・・ (・_・;) 」」」」

 おいおい、今までこの同好会は女子トークに必要不可欠な(?)お菓子を手に入れようとして、スイーツ研究会に入り浸った挙句に出入り禁止になるくらい苦労していたのに、琴木さんが加入した事で、じゃあないのか?しかも琴木さんは先週はポケットマネーで、いや、正しくは学校前の支店に行って「支払いはお爺ちゃんに回してねー」とか言ってで、購買では販売してないショートケーキやプリン、アイスクリームまで買ってきて「一緒に食べましょう」とか言って振舞ってたし、まさに『けいおんぶ』に出てくる超お金持ちのお嬢様『ムギちゃん』そのものじゃあないかあ!!

「平山せんぱーい、突っ立ってなくてもいいから座りませんかあ?」

 俺はさっきから立ったまま琴木さんの話を呆気にとられて聞いてたから、琴木さんがニコッとしながら俺に座るよう促したし、藍と唯にも「座って食べましょう!」と言って促したから、俺と藍と唯は「そ、そうだねー」と言って椅子と机を琴木さんと先輩の横にくっ付けた。

「・・・コーヒー、俺が作ろうか?」

「まあまあ後輩君、今日は特別サービスでこの田中律子さんが作ってあげるよ」

「えっ?ホントにいいんですか?」

「いいよー。今日はなーんか自分で作りたい気分だから、ムギの分もあたしが用意したんだよねー」

 そう言うと先輩は立ち上がって、窓際のコーヒーサーバーのところへスタスタと歩いて行った。それを見届けた俺は琴木さんが持って来た『うなサブレー』の試作品に手を伸ばした。


“バターン”


 いきなり第二音楽室の扉が乱暴に開けられたから、俺は思わず扉の方を見てしまったし、それは先輩だけでなく琴木さんも、藍も唯も同じだ。

 そこに立っていたのは・・・左腕に風紀委員の腕章をした女子生徒だった!


「風紀委員として質問します!!」

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