第23話 一目置かれた存在(?)
俺と唯は並んで第二音楽室に入ったけど、そこにいたのは藍ともう一人、緑色リボンをつけた女子であった。
緑色という事は3年生である。3年生一人、2年生二人が現在の軽音楽同好会のメンバー全員なのだから、これで全員揃ったという訳だ。
でも・・・いつもの事だが、藍だけでなく3年生女子も机と椅子を並べて座ってるだけで何も練習しているように見えない。
「りっちゃーん、遅くなってすみませーん」
そう言うと唯はもう1つの机と椅子を持ち出して藍の横にくっ付けた。俺は3年生の隣、唯と向い合せの形で机をくっ付けてから椅子に腰掛けた。
「唯ちゃーん、別に気にしてないからいいわよー」
「
「まあまあ、どうせ藍ちゃんだって練習してるというよりは『お喋りの練習』をしてるんでしょ?」
「うっ・・・そ、それは事実だけど約束の時間に5分遅刻よ」
「それを言うなら藍ちゃんだって1分の遅刻でしょ?」
「うっ・・・そ、それは南城先生の帰りのショートホームルームの手際が悪かったせいです!」
「はいはい、そういう事にしておきましょう」
「珍しく自分が一番だったからと言って・・・」
「藍ちゃん、何か言った?」
「いえ、別に・・・」
「5分、10分であーだこーだ言ってたら折角のコーヒーが不味くなっちゃうからねー」
そう言ったかと思うと3年生女子は机の上に置いてあったマグカップに入っていたコーヒーをグイと言わんばかりの勢いで一気に飲み干した。
「後輩君、悪いけどお替り!」
そう言うと3年生女子は俺にマグカップを差し出したけど、それを俺は「はー」と短いため息と共に受け取った。
「へいへい、相変わらず先輩は人使いが荒いですねー」
「何を言ってるのかね後輩君、この田中律子さんが声を掛けるなどという事は女神様が民に啓示を与えるのと同じだよ」
「はいはい、そう捉えておきます」
「つべこべ言わず、さっさとやりなさーい」
「はーい」
やれやれ、ホントに人使いが荒い先輩だなあ。
あ、そうそう、言い忘れてたけどこの人が軽音楽同好会の部長、というより3年生が一人しかいないからやむを得ず部長になってもらった田中律子先輩だ。担当はドラム。だけど藍の言葉ではないが御世辞にも上手いとは言えない。まあ「素人に毛が生えた程度」はちょっと言い過ぎかもしれないけど、いつも勢い重視でぶっ飛ばすから、藍が「律子せんぱーい、ちょっと飛ばし過ぎです」などと演奏中にも関わらずブーブー言うのはこの同好会の風物詩とも言える。
えっ?1学年先輩なのに唯が「りっちゃん」などと言う理由が分からない?それはですねえ、先輩の家は『田中行政書士事務所』という先輩のお父さんが経営している小さな行政書士事務所なのだが、先輩のお父さんは元々は平山弁護士事務所で父さんのパラリーガル(アシスタント)をしていた人なのだ。その人が独立して自分で行政書士事務所を開いたのだが、うちは個人経営の事務所だから弁護士でなくてもやれる仕事の多くを他の事務所に振り分けて対応しているけど、行政書士の分野の振り分け先が田中行政書士事務所なのだ。そういう訳で同じ幼稚園出身で同じ小学校区内、中学校区内に住んでるから俺と先輩は広義の意味での幼馴染だけど、ハッキリ言うが俺は昔から先輩の子分同然の扱いだったから「幼馴染」などと括られるのは心外である!当然だが唯とも顔なじみで幼稚園の頃から「りっちゃん」「唯ちゃん」と呼び合っていたほどの仲なので、中学生になっても呼び方が変わらず、高校生になっても変わらなかった。
俺はというと幼稚園の頃はたしか「律子ちゃん」だったけど、それがいつのまにか「田中さん」に変わり、中学になってからは「田中先輩」あるいは単に「先輩」になった。先輩はというと幼稚園から小学校低学年くらいは「拓真ちゃん」だったけど、小学校3、4年生あたりから「拓真君」に変わり、中学生になってからは「後輩君」とまで変わった。考えようによっては格下げもいいところだけど、それを言ったところで先輩の態度が改まらないことは身を持って知ってるから好きにさせている。因みに以前は頻繁に俺の家に来てたけど、さすがに今は少なくなったが俺の家に出入りしてはお菓子を食い散らかして帰っていくのは全然変わってない。
信じられないかもしれないが、校内で唯一、藍の事を「藍ちゃん」と言ってる
因みに俺の場合、校内でも「藍」と呼んでるけど、校内の誰もが俺と藍の間柄を「
唯は今でこそ「たっくん」と呼んでるが以前は・・・
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