ひかりの涙〜化け物少女と骸の道〜

RG@リンゴン

0、ヒカリヲウバウモノ

第0話 化け物と呼ばれた少女

 小さな窓から見える暗い空に、満月がゆらゆらと浮かんでいる。


 時刻は午前0時30分。私が今いる東京の郊外でも人通りはほとんどなくなる、そんな静かな時間帯だ。


「う、うう……」


 その街の一角にある廃工場で、 私は6人の銃創がついた男と睨み合っていた。1人は震える足でなんとか立ちながらこちらを睨んでおり、他の5人は壁にもたれたり仰向けになりながらこちらを見ている。


 ピクリとも動かないことから、立っている男以外の5人は既に絶命しているようだ。それでも死してなお敵意の篭った目でこちらを見つめるとは大したものである。


「ば、化け物め……」


 6人の中で唯一立っている禿頭はげあたまの男が掠れた声で呟く。


 見た目だけなら私は紫色の目に黒髪のショートカットという少し変わった高校生。しかし中身はヤクザ5人を瞬殺できる殺し屋。目の前にいる禿げ頭の男には私が本物の化け物に見えているのだろう。

 私が化け物だなんて、そんなこと私が一番よく知っている。職業的にも人間的にも、そして私はまともな人間ではないのだから。


「言いたいことはそれで終わりですか? でしたらもう用はありません」

「ひ、ひぃぃぃ!!」


 男は脱兎のごとく逃げ出そうとするが、それをわざわざ見逃す私ではない。


「さようなら」


 素早く拳銃を構えて発砲すると、男は頭に小さな穴をあけて崩れ落ちた。


 私はポケットに入れてあったハンカチで手や顔に付いた返り血を拭き取り、6つの死体から背を向ける。そのまま後ろを向くこともなくゆっくりと外に出た。なにもなければ、今回の仕事はもう終わりだ。





 外に出た瞬間、ポケットのトランシーバーが激しく振動した。まるで「早く出ろ」と訴えかけられているような気がしたので急いでボタンを押して通話を開始する。すると予想通り少し焦ったような女性の声が機械越しに聞こえてきた。


『聞こえているか、ワタシだ。《テル》だ。さっきお前が襲撃したのはダミーだったと《オーディン》の部下から連絡が入った』

「!」


 テルもオーディンも私の仲間(当然ながら偽名コードネーム)だ。なにもなければ良かったのにと少し苛立ちながらテルの言葉の続きを待つ。


『だが心配はいらない。目標は確認した。奴は車……白のクラウンの後方左側の席に座っている。北に向かってすごい速度でぶっ飛ばしているが、狙い撃ちできるか?』

「とりあえず高いところから見てみる。ちょっと待ってて」


 私は愛銃のSVLK-14Sをケースから取り出し、トランシーバーを通話状態にしたまま先程の廃工場に入って屋上に向かう。絡みつくような血の匂いを振り切って屋上に着くと、周囲を警戒しながらスコープを覗いた。


「……あ、見えた。ここからの距離は約2kmだけど木に阻まれると思うから狙撃は無理。狙撃可能な地点はここから約5kmに入ったところになるかな」

『そんなところを狙えるのか?』

「もちろん」


 狙いは先程殺した男と瓜二つの男性。後方左側の座席に座っていて、その距離は約5000m。さらに言うなら片側が崖になっているとはいえ、グネグネした山道を走る車の中にいるので通常より狙い辛い。今回はなかなか難易度が高いミッションのようだ。


『もちろん、か……頼もしいな』


 銃のことを多少なりとも知っている人はここで既に違和感を感じているだろう。なぜか? 通常ならそんな距離の狙撃は絶対に当たらないからだ。ちなみに現在の遠距離狙撃の世界記録は、4178m。ただしこれは静止した的を狙った場合である。

 今回の私のミッションと比べみると、違いがよく分かるはずだ。


「テル、オーディンに迎えを頼んどいて」

『分かった。ワタシから言っておいてやる』

「ありがと、テル」


 私はトランシーバーを床に置き、ターゲットが乗る時速120km以上で動く車にしっかりと狙いを定める。そして、そっと引き金を引いた。


「ここ!」


 発射された銃弾は音を置き去りにしながら闇の中を翔け、一直線に、ブレることなくターゲットが乗る車のタイヤに命中する。


 ハンドルをとられた車がガードレールを突き破り、崖から落ちる姿をスコープ越しの視界で捉えた私は再びトランシーバーを耳にあてた。


「依頼、終了。急いで迎えをお願いします」

『了解。もうすぐ着くよ』


 通話を切ると、私の頬に何かが当たった。

 何かが当たった部分を触ると、微かに冷たく濡れた感触があった。雨だ。空もいつの間にかどんよりと曇っている。


 ああ、そういえばこんな天気だったっけ。私が私として死んだ日も、私が私として生き返った日も。思い出したくもない血で染まった6年前のあの日も───


 パラパラと雨が降る中、私はテルを待ちながらそんなことを考えていたのだった。

 

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