第109話

「つまり、二つの集落に昨日の女性の姿をした何かが訪れ、呪いを振りまいて言ったということか……」

「同じなのか何人もいるのかはまだ分からないけどね」


 サラ達から話を聞いたカインとアオイは驚きを見せたが、今のところあれがなんだったのか分からないため、留意するにとどめた。

 その後、本来の目的だった採掘と伐採の再開を伝えるために全員でシバの元へと向かった。


 厳密に言えば直接伝えるべき相手は他にいるのだが、シバがこの街で顔が聞く唯一の知り合いである事から、間に入ってもらうよう依頼するつもりだ。

 アイリの話ではシバは一度知り合った者への面倒見が非常に良く、きっと力になってくれるだろうとのことだった。


「なるほど……事情は分かった。にわかには信じられないが、結局のところ俺達にとっては造船に必要な材料さえ手に入れば文句はない。あいつらだって商売だ。不満はあるだろうが、目先のことより今後の関係を考えるだけの頭はあるだろう」


 アイリとコハンがシバに事情を説明すると、信じられないが疑ってもしょうがないという態度で、シバは商人達への説明に同行することを快諾した。

 アイリはほっとした顔を見せると、シバの手を取り満面の笑みを浮かべお礼を言った。


「それで、材料入手の問題は解決したので、お願いしていた船の件、正式にお願いできますか?」

「ん……? ああ! もちろんだ。礼がまだだったな。本当に助かった。礼を言うよ。船は任せてくれ。最高の船を用意することを約束するよ」


 カインの問いにシバは笑顔でそう答えた後、考え込むような仕草を見せた。


「ふ……む。カインさん。あんた達を信用して見てもらいたい物がある。ちょっといいかな? ただし、他言無用で願いたい。今回造る船に関係することだ」

「ええ。構いませんよ。なんでしょう? え……と、私だけが伺った方が良いですか?」


「いや。ここにいる全員で構わない。カインさん達はいずれ船に乗る時知ることだし、アイリは他言しないと信用出来る。コハンさんは不思議な道具の専門家だってな? むしろ是非見てもらいたい」


 シバの言葉にその場にいる全員が顔を見合わせ、その後シバに向かって軽く頷きを見せた。

 その様子を確認したシバは、全員を造船所の一角、シバ個人の作業場へと連れて行った。


「少し狭いが我慢してくれ。元々ここは大勢が入るような場所じゃないんだ。それで……これだ。コハンさん。これがなんだか分かるか?」

「む……詳しくは分からんが、宝具と呼ばれる類のものじゃろうな。少なくとも現代の技術で作れるものとは思えんのじゃ」


 シバが見せた拳大の球体を見て、コハンはそう伝えた。


「さすがだな。これは魔道核と呼んでいる。俺の家に代々伝わる宝具だ。本当かどうか分からんが、俺の先祖はこの大陸ではない別の大陸出身らしくてな。そこから持ち込んだものらしい」

「なるほどのう。しかし妙じゃのう。宝具にしては魔力をほとんど感じないのじゃ」


「おぅ。これはな。魔力を蓄えてその魔力ででっかい乗り物を自在に操るのに使うものらしいんだ。言い伝えだがな。今まで俺も含め実際に動かしたことがあるやつはいない」

「魔力で動くって、魔術師に頼んで見た人はいなかったんですか?」


 ソフィ興味深そうに魔道核を眺める。


「もちろん試したさ。俺も俺の親父もな。しかしだ。魔術師の魔力が足りないのか、それとも何か魔力以外にも必要なものがあるのか、結局何も分からずじまいだった」

「なるほど……それで、私達にそれを試してみたいって事ですね?」


「そうだ。さすがにお試しでSランクの魔術師なんかに頼めるような機会は無かったからな。どうだ? 頼めるか?」

「それなら、やっぱりカインさんが適任なんじゃないですかね? この中で一番魔力があるみたいですし」


「うーん。よく分かりませんが、この珠に魔力を注げば良いんですよね? 分かりました。やってみましょう」


 そう言うとカインは魔道核に手を当て魔力を込め始めた。

 どのくらい込めたか分からないが、次第に魔道核から淡い光が放たれ、やがてそれは煌々と輝くまでに至った。


「おお! さすがだ。こんな風になるなんて聞いた事が無い。やはり魔力の量が問題だったか!」


 シバはその様子を嬉々とした目で眺めた。

 しかしカインは困った顔をシバに向けてこう言った。


「それで……これからどうするのでしょう? どうもこの魔道核という物は、一定の魔力しか込められないようです。それ以上入れようとしても入っていかないですね。それに、光っただけで特に何も起こりませんよ?」

「うーむ。カイン殿が魔力を込めてから、その珠からシバ殿に向かって何やら魔力の流れが起こっているように見えるのじゃ。シバ殿、試しにその珠に触れてみてはどうかの?」


 コハンの言葉にシバは恐る恐る手を光り輝く魔道核へと伸ばし、手のひらで触れた。

 次の瞬間、シバの知覚は引き伸ばされ、まるで自分の身体が造船所になった感覚を覚えた。


 驚きのあまり声を上げおののくシバを他の人々は不思議そうな顔で眺めていた。

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