第51話

 飛び降りた直後、ルークは襲いかかってきた剣を、ララを片手で抱えながら、もう片方の腕で咄嗟に剣を構え受けた。

 並の剣ならば、ルークの剣と打ち合った瞬間に刃こぼれするが、中々の業物らしい、素朴な見た目によらず、下手に受ければこちらの剣が刃こぼれしてしまうような強度を持っていた。


 ルークは咄嗟に身体を大きく退けた。

 元いた場所に、電撃が放たれ、床に小さな黒い焦げ跡をつくった。


「おいおい。あいつの仲間か? まさかあいつ以外にもララの魔法を唱えられるってのか。どうなってんだ。ったく」


 剣を構えた長い黒髪の少女と、たった今電撃を放った、金髪のツインテールの少女は、後ろで震える女性を守るようにルークと相対していた。

 少女はルークが抱えるララの顔に気づき、叫んだ。


「その少女を離しなさい! あなたさてはあの不思議な布を盗みに入った賊ね? 運が悪かったわね。私達の居る部屋に降りてくるなんて」

「少女だぁ? 何を馬鹿なことを言ってやがる。こいつはお前らの倍どころか3倍は長く生きてるぞ」


「何を訳の分からないことを! とにかくその少女を離して投降しなさい! そうすれば命までは取らないわ!」

「ふざけんな。こっちは仲間がやられていらいらしてんだ。冗談じゃ済まさねぇぞ?」


 そこへ、ミューとカイン降り立った。

 その2人を見た少女達は目を見開き、動きが止まった。


「サラ! ソフィちゃん! こんな所で何をやってる!」

「お父さん!」

「カインさん!」


 最初に声を上げたのはカインだった。

 カインは既に降り立つ時に、下に2人がいる事に気が付いていた。


 サラ達は今の状況をどう理解すればいいか分からなかった。

 ただ、カインがあの天井から降り立って来たということは、先程咄嗟に攻撃を仕掛けた、あの暗殺者のような出で立ちの男も、この白い全身鎧の大男も、カインの仲間であることが察せられた。


「どういうことだ? カイン。お父さんって言うのは。お前が言ってた娘か?」

「あら嫌だ。カインちゃんに似てるのね。目元とかそっくりよ」


「ああ。この子はサラ。俺の娘だ。もう一人はソフィ、娘の仲間だ。サラ、ソフィちゃん。こいつらは俺の昔の仲間だ。問題ない。剣を降ろしてくれ」

「お父さん何が起こってるの?!」


「詳しい話は後だ。ひとまずララを起こせ、何が起こったか聞くぞ」

「ああ。おい! 起き上がれ! 飯だぞ!」


「むにゃ? もうおなかいっぱいで食べられないよー」

「てめぇ。寝ぼけてるんじゃねぇ。さっさと起きたことを説明しやがれ!」


「えーと。ごめんごめん。なんだっけ。あ! そうそう! 大変だよ! 私の魔法と知識があいつに盗まれちゃった!」

「どういうことだ?」


「うーんと。なんかね。私が欲しいって言ってて、私にはそんな気がなかったんだけど、言い値で売っちゃったみたいなのよね。そしたら、私魔法が使えなくなってて、あいつが私の魔法を使ってきたの」

「なんだか訳が分かんねぇな。おい。カイン。理解出来たか?」


「多分。かなりまずい状況だが、恐らく、これ以上相手にこっちの能力を奪われることは防げそうだ」

「どういうことだ?」


「つまり、あいつは、欲しいものを相手が承諾したとみなした場合に、奪うことが出来るんじゃないかな? 今回のララは、ララが欲しいと言われ、いくらだ? と言われたにも関わらず、布の代金だと思い込んで、金額を伝えてしまった。答える時に、布の代金は、と言っていれば防げたはずだ」

「そうそう。そんな感じ」


「よくあいつの説明で、そこまで分かるな。とにかく、あいつの言うことに応じなければ良いんだな?」

「その様だな」

「みーつけた!」


 全員が開けられたドアの方に視線を向ける。

 そこにはヴァンが立っていた。


「おや? 何か新しい人も増えているようだね? まぁ、構わないよ。僕は博愛主義者なんだ。全員相手をしてあげよう」

「ふざけやがって。おい! てめぇを倒せばララの魔法は戻るんだろうな?」


「それは僕にも分からないな。何せ倒されたことが無いから」

「くっ。どちらにしろてめぇをぶっ倒すのにはかわりねぇ。さっきは油断したが、今度はそう行かないぞ」


 すかさず、ルークが扉ごとヴァンを切りつけた。

 扉は真っ二つに割れ、大きな音をたてて、片側が床に落ちた。


 ヴァンは既に退いていて、ルークに向かって、火の玉を放っていた。

 ルークはそれを剣で受け止める。


 ミューが大剣を前に構え突進する。

 それも分かっていたのか、大きく避けると、黒い大きな霧の塊のようなものを放つ。


 これはララの使う特殊な魔法の一つで、この暗黒の霧に触れると、身体の自由が奪われ、地面に伏す事となる。

 ミューは慌てて、その黒い塊から距離を取った。


 サラとソフィはその戦いを目の当たりにして、驚いていた。

 たった数合、そのやり取り見て、自分達が足でまといになると直感した。


 恐らく、今繰り出された攻撃のどれも2人は防いだり、避けたりすることが出来ずに、今頃は床に伏せていることだろう。

 それほどに、レベルの高い戦いだった。


 これがSランクの冒険者の戦い。

 誰かが昔言った、冒険者のランクはSランクまでしかないが、Sランクの中でも明確な格付けがある、という言葉を、思い出していた。

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