激闘の兆し

 緊急で追加装備をドローンで送って貰ったトレバーは装備を船に運ぶ。

ウルトゥルに船が到着すれば抵抗軍へ援助物資が渡せる。

大型船へ支援物資が大量に積み込まれる。


「おいトレバー! マジで行くんかて!」


ブラウンが手伝いながら翻意を促すが逆に説得される。


「あー? まだ言っているのか? 大物喰ったら伝説になるぞ?」

「伝説のヤバマルハ、スキュラを退治する。……でらええがや……って死んでまうわ!」


説得をノリツッコミで躱すもまんざらでもない返しだった。

四連ロケットランチャーを二つ担いだトレバーはにやりと笑う。


「まぁ見てろって、伝説にしてやんよ」


水中や海上がメインとなると予想し、専用武器を用意していた。


 実はトレバーは水中戦があまり好きではない。

打撃や速度が水の抵抗で減衰される事がストレスを感じるのだ。

おかげで手っ取り早く爆破する為にメソッドへ注文が厳しい。

ハンド魚雷、対空ミサイルとレーザー刃のグレイブを用意する。

対空戦にはロングレンジマシンガンと専用ランチャーを使うつもりだ。

それもスキュラ専用の弾頭を用意して貰った。


「おいブラウン! 武器の扱い教えるからこっち来い」


 装備を搬入し終わったトレバーは渋るブラウンを呼ぶ。


「はぁ? わしには先祖伝来の剣、青龍の剣があるでいらんわ! 魔力が封じ込められて切れ味抜群だでぇ?!」


自慢気にブラウンは腰の佩刀をすらりと抜く。

鍔細工は青い光珠サファイアを掴む青い瞳の龍が口から炎を吐くように白刃を伸ばしていた。

確かにブラウンにしては中々の佇まいの銘剣であった。


「じゃ、甲板の敵は任せたぞ。うちのチビスケ達を守ってくれ」


すると暇そうなアガトとテュケが近寄って来た。


「兄ちゃん! こんなヘタレを護衛につけても足手まといだよ!」

「ホブゴブリン風情にビビる奴なんてダメダメだぃ!」


守って貰う二人が文句を言うがトレバーは笑って脅す。


「ハーピーはお前らよりデカいぞ? 剣で追っ払って貰わないと鍵爪に掴まれて連れてかれるぞ?」

「「それはやだーっ!」」


ビビりながら二人は嫌がる。

するとトレバーは買っておいた槍の柄を剣で半分にし始めた。


「お前らはブラウンの背後をカバーしあって身を守れ、ほれ、槍だ」


頃合いの長さになった槍をアガト達に持たせると軽く指導を始めた。


「はい、突いたらすぐに引く! そうだ、上手いぞ!」

「やーっ!」

「うまい? タイソンより?」

「おー、アイツは下手くそだったなぁ……機会があれば一つ指導してやっかな」


比較して来たテュケにトレバーはタイソンのへっぴり腰を思い出した。

まさかタイソンが本部のラボにいるとは思っても居ないだろうが……。


 応急で対策を立て終わると船長がやって来る。

でっぷりとした太鼓腹を船員服で包み、靴は薄汚れ塩が浮いていた。

そしてトレバーを見るなり文句を言う。


「あんたか? 化け物を倒してウルトゥルに行きたいっていうクソ馬鹿野郎は?」

「ああ、前金で弾んだんだ。いっちょ頼むぜ」


前金で延べ棒三本、一本は船長、二本は船員たちの報酬になる。

ここも運送の仕事は無く、漁で稼ぎを補填していた。

しかし戦闘は緊急用自衛手段であり、わざわざ出向く事はまずない。

そこをオリベイラが無理を言って高報酬で船を出させたのだ。


「ちっ、仕方ねぇな……そんじゃ蝋の用意ができたか?」

「はい船長」


自信満々のトレバーに呆れた船長は渋々了承する。

そして船員に溶けた蝋が入った鍋を持って来た。


「そんなもん何すんだ?」


 興味深くトレバーが尋ねると自慢気に船長が答える。


「コイツで耳栓造ってハーピーの歌声を聴かないようにすんのさ。賢いだろ?」


ハーピーの歌声には恐慌効果があり、それが厄介なのだ。

一旦聞いてしまうと恐怖のあまり集中力を失うのだ。

操船ミスや攻撃を味方に当てる事が多発し、自滅してしまう。

そこで薄い紙を漏斗状に巻いて耳へ仕込み蝋を垂らす。

熱いが簡単に完全な耳栓が出来上がる。

古来よりのハーピー対策である。


「音を聴かないのは良いけど……操船の指示は?」

「手信号だぜ。陸地が見えたら外すしな、次はアンタ等やるか?」


 トレバーの疑問に船長は答えると台に寝る様に指示して来た。


「ああ、俺とこいつ等はいい。対策は用意してある。おいブラウン! お前やって貰え!」


強化服を展開し、設定すれば通信以外の外部音を遮断できる。

これはアガト達の服も同じだ。

だが、ブラウンは断固として拒絶する。


「はぁ? たーけた事いッとんなよッ! そんなもん耳に入れたら火傷してまうがやっ!」


暴れるブラウンの背後にトレバーは回ると頸動脈を優しく押さえて落とす。


「船長、やったげて」

「お、おう」


台にブラウンを縛り付けると施術を始めた。

絶叫と共にそれが終わると出航の合図を出した。


 船は順調に岸を離れ、沖合に出る。


「マンダゴア周辺海域は安全だぞ。居てもキラーシャークだ。しかし、あの海域はヤバい」


船長が航海士に舵を任せると前方を確認する。


『あの海域?』


雰囲気をぶち壊すようにトレバーが船長の耳元で怒鳴る。


「お? おぉ、マンダゴアとウルトゥルに挟まれた海域、ベンタン海域」


気が付き、耳栓のせいで無意識に大きな声で船長が答えた。

ベンタン海域はこの世界でも屈指の良漁場である。

ウルトゥル側に流れる暖流とマンダゴア側の寒流が交差する潮目の海域であった。

そこに集まる餌を求めて大型回遊魚が群れる。

それが今は魔物の巣窟となっていた。


「早ければ明日の深夜に着く……」

『ああ、ここらで船足を止めて、昼に通過しよう。視界が悪いのは不利だからな』


 大きな声で提案すると船長も頷いて同意した。

視認性が悪い深夜に難所は通りたくない。

足を止めた船の頭上を大型の鳥が舞っていた。

それを視認したトレバーは笑って船員に尋ねた。


『ここら近海に陸地とか岩礁はあるのか?』

「無いですよ。あるのはマンダゴアの陸地ぐらいです」


するとマシンガンを単発モードに切り替えて構える。


「何するんです?」

『偵察兵みっけたんだよ』


 スコープに獲物を捕らえると引き金を絞る。

見事に胴体を射貫き、真っ逆さまに船の斜め前に墜ちて来た。

その途端に周囲に悪臭が漂い始めた。


「うぁぁ、どえりゃくせぇがや!」


墜ちて来たものを見物しようと他の船員たちとブラウンが出て来た。


「ハーピーです、あれが」


 整った顔立ちだが、どこか卑しい。

口には黄色くて鋭い歯が並んでいた。

そのような雰囲気のある顔が超大型の猛禽類の身体にあった。

突き上げるような波がその身体を攫う……。

そして空に突き上げるとハーピーが勢いを利用して飛び去る!

不自然なタイミングにトレバーは何かを察した。


「なんだ?! あ、キラーシャークだ!」


船員たちが銛を手に駆け寄る。

全長一〇メートル級の魚影にハンマーヘッド状の頭部が見える。

シュモクザメか? それにしてはでかいとトレバーは思った。

現世のシュモクザメは中型であり、基本的に人は襲わない。


「ちぃ、キラーシャークかとっとと仕留めるぞ!」


銛を携えた船長が号令をかける。


「なんだよ? ヤバいのか?」


トレバーは笑ってマシンガンを構える。


「ほっとくと船を沈めに来る。落ちた人間を食うのさ。まぁ退治は出来るがね」


 質問を勘で察して船長は答えた。

そして銛を豪快にぶん投げる。

頭に当たり、派手に血飛沫が上がる。

続いて船員たちも三本程当てていた。

海面は血で濁り始める。

そして船長は銛を引き抜かせると出航させた。

予定と違う行動をとる船長にトレバーは尋ねる。


「なんでだよ? トドメ差せばいいのに」

「あー、血が海に流れると他のキラーシャークや魔物が寄って来る。騒動に巻き込まれる前に逃げ出さないと次は俺らだ」


号令と共に取り舵で前進させた。

そして船員に再び蝋を準備させ始める。


「おい、今度は何だ?」

「鼻栓だ……臭くて堪らん!」


海に漂うハーピーの糞らしきものを指差し、船長は鼻をつまんだ。

水に浮かんで居るだけでも猛烈な悪臭を周囲へ放っていた。

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