第56話『いやーなのじゃ!』


 真っ暗じゃ。それに動けないのじゃ。ゆ、揺れるのじゃぁ……!?

 そんな状態でどれだけ揺られたか、いつしか揺れがおさまったのじゃ。と、同時に背中に痛みが走ったのじゃ。


 いったいどうなってるのじゃ……!?


 うぬ、ひ、光が……眩しい、のじ、ゃ……


「……あ……あぁ……」

「催眠スプレーを吹き付けたハンカチで口を塞いだのに、もう意識が戻ったのかい、メルちゃん。いけない子だね」

「……あ、えっと……」


 周囲を見回してみる。

 どうやらメルは大きなリュックに詰められて、この謎の汚い部屋に連れて来られたみたいじゃ。な、何て酷いことを。って、この人……


「久しぶり。この前は道を教えてくれてありがとう。あの時持ち帰るつもりだったんだけれど、メルちゃん、帰っちゃったから」


 リュック……これ、もしかして……

 助けを呼ばないと。でも、メルのスマホは圏外なのじゃ。ち、近付いて来るななのじゃ!


「痛っ……」


 動けない……のじゃ……


 メルは必死に抵抗するのじゃ。けれど、力が強くて振りほどけない。メルの手首を掴んだ男が息を荒げてるのじゃ。臭いのじゃ、ピンチなのじゃ。


 スマホ……メルのスマホ。駄目じゃ、今の衝撃で向こうに転がっていって届かないのじゃ。


 でもでも……結局は、


 ヒトが心を通わすのに使うスマホという代物を、メルは真似して持ってるだけ。形骸だけの……役に立たないスマホ。悠人も呼べない。


 そっか……メルはヒトのあたたかさを知りたかったのじゃ。それで、迷い込んだ場所で……一人凍えていたのじゃ。それを婆っちゃが見つけてくれた。

 手を繋いでくれた。泣いていたメルを、


 優しく慰めてくれたのじゃ。


 ふわふわしたのじゃ。ヒトは皆、お互いを慰め合い生きる生き物。メル達のいた場所のヒトより、もっともっと弱い生き物だから、


 だから支え合って生きて……そっか、



 ……やっぱり、メルは人間じゃなかった



 そしてこの人は、形は違えどメルを必要としてるのじゃ。だから、メルが見えちゃった。


 それなら、これもこの人の為……


 それがメルの役目なら……






 ………………でも、







 ……………………嫌……いやっ……









「い、嫌じゃぁっ……は、なし……」



 やっぱり嫌じゃ……

 メルは……悠人がいい……のじゃ!



「うっ……や、め……」



 助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……



 メルは……悠人がいいのじゃぁっ!!



 ……





 ホラ、ニンゲンナンテ、ロクナモノジャナイダロ?





「うっ……こ、わい……助け……っ」

「助けは来ないよ。この部屋は防音設備が完璧でさ〜」


 この部屋、壁が傷だらけじゃ……メルは……ど、どうなってしまうのじゃ?


 助けて悠人、婆っちゃ……!






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