第30話『お弁当なのじゃ』



 婆っちゃには敵わないのじゃ。


 ふぅ、まだ心臓の高鳴りがおさまらないのじゃ。悠人は天然なのか? 女の子のあんなところをギュッと握るとは、非常にけしからん!


 お、思わず声が漏れてしまったのじゃ……変な目で見られてないか?


「わぁ、凄い気合い入ってるね!」

「わしとメルで朝早く起きて作ったんやで」


 ムフフ、そうなのじゃ。

 昨日から仕込みをして朝に二人で作ったお弁当なのじゃ。とはいえお菜の里芋の煮っころがしも、鶏肉と大根の煮物も、婆っちゃが作ったのだけど。


 メルは一口ハンバーグをこねこねしたのと、おにぎりをにぎにぎしたくらいじゃ。えっへん!

 でも、メルも日々進歩してるのじゃ。

 例えば——


「あ、お婆ちゃんのだし巻き卵、久しぶりだなぁ! さっそくいただきます!」


 悠人はだし巻き卵を口にしたのじゃ。メルの心拍数はじわじわと上昇中なのじゃ。



「うん、美味しい!」


 婆っちゃはメルの顔を見て悠人にバレないようにクスクス笑うのじゃ。とはいえ目の前だから悠人はどうしたの? と首を傾げたのじゃ。


「悠人、そのだし巻き卵はな、メルが焼いてくれたんやで?」


 悠人は豆鉄砲でも撃たれたような表情に。

 そ、そんなに驚くことはないだろうがっ!

 メルが頑張って焼いたのじゃ!


「メル、凄い! 完璧にお婆ちゃんのだし巻き卵を再現してる! メルは料理が上手なんだね!」


 ちょ、ちょっと待ってそれは違、ぅ……

 まぁいいや。褒められるのは悪い気分じゃないのじゃ。たんと召し上がれ、なのじゃ。

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